第18話 序章

アインレスト―入口


ムーン・パルティエナ:(シン様からの連絡がない。いったいどうなされたんだ。もうすでに火はおさまっているというのに)


ムーン・パルティエナ:「まさか………………」


ムーン・パルティエナ:(いや、あの方に限ってそんな)


トルント族の兵士:「パルティエナ様、火が消えてかなりの時間がたっているのにアックス様が戻ってきません。俺たちは一体これからどうしたらいいのでしょう」


ムーン・パルティエナ:「……そう、ですね」


ムーン・パルティエナ:(シン様の身に何かあったとは考えにくい。それでも連絡が来ていないということは逆賊をいまだ捕らえられていないということ。さっき何か上空をすごい勢いで何かが通り過ぎっていったように感じたが、あれが何か関係しているのか)


ムーン・パルティエナ:「………………」


トルント族の兵士:「あの、パルティエナ様」


ムーン・パルティエナ:(助力に行くべきか、しかし、そんな命令は受けていない。スターズはエルダント帝国で司祭に次ぐ最高位の位、たとえ直属の部下であるサテライトの位を持っていても処罰は免れない。最悪シン様の部下ではいられなくなる)


トルント族の兵士:「……しかし、かのスターズがただの逆賊に出し抜かれ逃げられたのなればシン様の立場が……」


ムーン・パルティエナ:(……どうする)


ピッピッピッピッ


ムーン・パルティエナ:「レシーバー……シン様」


マーキュリー・シーン:[俺だ]


ムーン・パルティエナ:[シン様、今どちらに]


マーキュリー・シーン:[わからない。さっきまで森の奥深くにいたんだけどね。今、そっちに向かってるところだ]


ムーン・パルティエナ:[すぐに迎えに行きます。それで、逆賊の方は]


マーキュリー・シーン:[逃げられた]


ムーン・パルティエナ:[っ、そう、ですか]


マーキュリー・シーン:[そう落ち込むな。俺たちの想像より相手の方が少し上手だっただけだ。決して俺たちが弱かったわけじゃない]


ムーン・パルティエナ:[……最初の襲撃で私たちが捕えていれば]


マーキュリー・シーン:[……ふう、相変わらずまじめだな。あ、そうそう、トルントのあいつ、ええと名前なんだっけ、あいつ死んだわ]


ムーン・パルティエナ:[そうですか]


マーキュリー・シーン:[そういうとこドライだな]


ムーン・パルティエナ:[とりあえずこちらはシン様の元へ向かいますので、あまりあっちこっちに動かないでください]


マーキュリー・シーン:[はいはい、じゃあお迎えよろしくぅ]


ムーン・パルティエナ:「……ふ、全くあの人は」


トルント族の兵士:「あの、パルティエナ様」


ムーン・パルティエナ:「シン様の居場所がわかりました今から回収に向かいます」


トルント族の兵士:「ほ、本当ですか。わかりました、今すぐ船の手配をします。あっ、それとアックス様は」


ムーン・パルティエナ:「彼は逆賊を負うさなか名誉の死を遂げたそうです」


トルント族の兵士:「え、アックス様が」


ムーン・パルティエナ:「作戦が終わったら、弔いの祈りをささげてあげてください。長年苦楽を共にしたあんたがたの祈りなら、きっと彼も神のお膝元で喜んでくれるでしょう」


トルント族の兵士:「はっ、わかりました」





アインレスト―最奥と入口の中間


マーキュリー・シーン:「さてと、下手に動くとパルティエナがうるさいしおとなしくここで待っておくか……」


グッ


マーキュリー・シーン:「おや、いつの間にか腕に力が……ふっ、久しぶりだな、こんな風な気持ちになるのは。ま、せいぜい楽しませてくれよ……ん、あれは」


マーキュリー・シーン:(……なんだ、この燃えカスの山は。普通のアルケミスツリーが燃えてこんな風になるものか)


マーキュリー・シーン:「なんだ。下に何か……これは、金庫」


マーキュリー・シーン:(ということはこれは燃えた家の残骸。あの少年が住んでいた家か。まあ田舎とはいえ家に金庫の一つおかしいことではないが)


マーキュリー・シーン:「この金庫、鍵穴がないな」


マーキュリー・シーン:(何かからくりがあるのか、それとも)


マーキュリー・シーン:「まあいい、この程度の金庫。無理やりこじ開けてくれる」


ガシャン


マーキュリー・シーン:「……これは……手紙……」





アークシップ―船内


ミゼル:「えっガルダーミンク」


アッシュ:「はい、そこに行けって、おじさんが」


ミゼル:「ガルダーミンク、言ったことはないけど。あそこってなにもないただの岩山よ。マイナーな観光スポットとして多少知られてるぐらいの。そんな場所にどうしてオルランドさんは」


アッシュ:「………………」


ミゼル:「わかったわ。もう乗り掛かった舟だもの、最後まで付き合うわ」


アッシュ:「っ、ミゼルさん。ありがとうございます」


ミゼル:「じゃあ、次の目的地ガルダーミンクに向かって出発進行」





アインレスト―破壊された家屋


マーキュリー・シーン:「………………ふ、はは、あはははははははははははははははははははははははははは。そうか、そうだったのか、どうりで。あはははははははははははははははは、まさか、まだ生きていたとはな。あははははははははははは」


ムーン・パルティエナ:「あれはっ」


ムーン・パルティエナ:(シン様)


タタタタッ


ムーン・パルティエナ:「シン様」


マーキュリー・シーン:「あはははははははははははははは」


ムーン・パルティエナ:「…………シン、さま」


マーキュリー・シーン:「ああ、パルティエナか、お迎えごくろう」


ムーン・パルティエナ:「い、いえそんな。それより――」


マーキュリー・シーン:「早速で悪いが、船を出すぞ」


ムーン・パルティエナ:「え、どちらに」


マーキュリー・シーン:「ガルダーミンクだ」


ムーン・パルティエナ:(ガルダーミンク……)


マーキュリー・シーン:「どうした、パルティエナ」


ムーン・パルティエナ:「あ、いえ、なんでもありません」


ムーン・パルティエナ:(今日のシン様なんだか強引というか少しイライラされているような。いつもひょうひょうとして落ち着いている方なのに。何かあったのか)


ムーン・パルティエナ:「では今すぐ船を出すよう指示してまいります。シン様はどうぞ奥でお体をお安めください」


マーキュリー・シーン:「ああ、わかった」


ムーン・パルティエナ:「それでは」


マーキュリー・シーン:「………………ふ、ははははははははははははははははは」


マーキュリー・シーン:(危ない危ない、ついパルティエナの前で笑ってしまうところだった。ははははははは)


マーキュリー・シーン:「……待っていろ、少年。必ず君を心の底から絶望させてあげるよ。君たちの仲間に甘美な悲鳴をあげさせながらね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る