第19話 ガルダーミンク
第十九話 ガルダーミンク
???
アッシュ:「……ここが」
ミゼル:「ええ、そうよ。思ってたよりすごいでしょ」
アッシュ:「ガルダー……ミンク」
ミゼル:「あんまり有名な場所じゃないんだけど、自然とできたこの岩のアートは何度見ても息をのむほどきれいよね…………」
アッシュ:「………………」
ミゼル:「…………まあ、それ以外に何かあるのって言われたら何もないんだけど」
アッシュ:「本当に岩しかないですね」
ミゼル:「ええ、本当に岩しかないところなのよ」
アッシュ、ミゼル:「「………………」」
ミゼル:(まずいわね。これだけ自然豊かな場所なのに、空気が悪いわ。そもそもどうしてオルランドさんはアッシュ君にガルダーミンクなんかに行けって言ったのかしら。確かに追ってから逃げるにはこの入り組んだ岩が船の邪魔になっていいけど……)
「追ってから隠れるためにオルランドさんがこの場所へ行けって言ったのは考えにくいわね」
アッシュ:「おじさんはそういう人じゃないです。生きるために全力で敵と戦えって言う人ですから」
ミゼル:「そうよねー、でもこの場所にいったい何があるっていうのかしら」
アッシュ:「うーん……何かこの辺りで目立つ、もしくは何か特徴的なものはないんですか。例えば変な形の岩とか、地下迷宮に続く洞窟とか」
ミゼル:「あのねぇ、そんな場所があるならとっくに私が見つけて行ってるわよ。私の職業をなんだと思ってるの。世界一かわいいトレジャーハンターよ」
アッシュ:(トレジャーハンターって職業だったんだ……しかもミゼルさん宇宙一かわいいって言葉まだ付けてるし……)
ミゼル:「この私の情報網に引っかからずに何か大掛かりな隠しギミックがあるなんてあり得ないわ。第一、ここは有名じゃないとはいっても一応は観光スポットみたいなところなのよ。少なくとも今の今まで一億を超える観光客がここを訪れてるはず。それだけの人たちの目を欺くなんてとてもじゃないけど……」
アッシュ:(確かにミゼルさんの言う通りだ。ここは確かに広くて地形が入り組んでるけど、別に迷路というほどじゃない。一人二人ならともかく、ここを訪れている人は少ないと言っても毎年千人くらいはいるはず。中にはきっとここを気に入って何度も足を運んでいる人もいるかもしれない。そんな人たちの目から逃れて何かを隠したりするなんてとても……)
ミゼル:「隠してはいないけど、隠れてはいるのだとしたら」
アッシュ:「ミゼル、さん」
ミゼル:「っ、アッシュ君、一緒に付いてきて」
アッシュ:「え、ちょ、ミゼルさん」
ミゼル:(あった、何かを隠せそうな怪しい場所。でもそこに何かを隠したなんてきっと誰も思わない、みんな自分の想像の中でしかできるできないの判断ができないから)
*
ガルダーミンク―西端部
ミゼル:「はあ、はあ、はあ……あった、ここよ」
アッシュ:「えっ、ここって」
ミゼル:「きっとオルランドさんがアッシュ君に伝えたかった事の正体はこの先にあるわ」
アッシュ:「えっ、この先って言われても……これ大きな穴ですよ。先が見えないくらい深めの」
ミゼル:「そう、この穴は見るからに深い。だからいいのよ」
アッシュ:「どういうことですか」
ミゼル:「こんな見るからに大きくて深そうな穴、常人ならまず飛び込まない」
アッシュ:「そりゃそうですよ。こんな深そうな穴、飛び込んだら万が一にも助からないですよ」
ミゼル:「ええ、普通なら百パーセント、絶対助からないでしょうね。でも、だからこそ何かを隠すならうってつけなのよ。だって飛び込んだらみんな死んじゃうんだもん。これ以上秘匿性の高い場所ほかにないわよ」
アッシュ:「いやいや、待ってくださいよ。話が矛盾してますよ。誰も助からないんだったらそもそも隠しに行く人も行けないじゃないですか。まさか隠した人はここから隠したい物、だけをこの穴の中に投げたっていうんですか。だとしたらそんなものをどうやって取りに行けば」
ミゼル:「いいえ。隠そうとしているものが物なのかはわからないけど、もし物だとしてもきっとその隠した人はその物と一緒にこの穴の中に入ったはずよ。だってその隠したい物が投げ入れた先で無事なんて保証はどこにもないし、投げ入れただけだったら長い紐の先に釣り針なんかを付けてここから垂らしたら簡単に引っかかっちゃうかもしれないしね。実際、そういうことをやって注意を受けた人がいるらしいし。少なくとも穴の先に行かなきゃその隠しものに手出しができないようにしているはずよ」
アッシュ:「でも、この穴の中に落ちたら助からないんでしょ。そんな場所にどうやって」
ミゼル:「ふふ、アッシュ君。ちゃんとお姉さんの話を聞いてた。普通は、って言ったわよ」
アッシュ:「聞いてましたよ。だから何か普通じゃない方法を……あ」
ミゼル:「そう、アッシュ君にとっては普通と思ってるかもしれないけど、君は普通の子じゃない。君、じゃなくて君やオルランドさん達にできて、私達にはできないことがあるでしょ」
アッシュ:「神の意図」
ミゼル;「ええ、きっとこの先に何かを隠した人も神の意図の使い手。普通ならこんな穴の中を行こうとする人なんていない。だって地面に激突してぺしゃんこになる自分が簡単に想像できちゃうんですもの。でも、アッシュ君たちは違う。地面にぶつかってぺっちゃんこになる以外の自分が想像できる。そうでしょ、アッシュ君」
アッシュ:コクリ
ミゼル:「神の意図を使える者しか進むことできない、いや、進めると思わせられることができない場所。こんなのもうここしかないって言ってるようなものじゃない」
アッシュ:「この先に、おじさんが僕に伝えたかったものが」
ミゼル:「きっと、いや絶対百パーセントあるわ」
アッシュ:「………………」
ミゼル:「怖い?」
アッシュ:「はい、少し」
ミゼル:「………………」
(嫌だったら、やめてもいい。なんて軽々しく言えないわよね。だってこれは)
アッシュ:「でも大丈夫です。だってこの先にあるのはおじさんとおばさんが僕に託してくれた大切なものがあると信じてますから」
ミゼル:「……そうね、きっとそうよね」
サッ
ミゼル:「えっ」
(手?)
アッシュ:「一緒に付いてきてくれますか」
ミゼル:「ふっ、ええ、もちろんよ」
……………………………
*
???
マーキュリー・シーン:[こっちは全員始末完了。そっちの方はどうだ、パルティエナ]
ムーン・パルティエナ:[はい、一匹残らず殲滅しました]
マーキュリー・シーン:[ふふ、そうか]
ムーン・パルティエナ:[ただ兵隊がかなりの数やられました。残っているのはわずか五名のみです]
マーキュリー・シーン:[構わないよ。豚が何人生きてようが死んでようが戦況に変わりはない。こっちは面倒くさいから奴らと一緒に全員首ちょんぱしちゃったしね]
ムーン・パルティエナ:[まさか、ガルダーミンクにある大穴の中で暮らしている者がいるなんて。それも一人や二人ではなくこんな大勢]
マーキュリー・シーン:[私も驚いたよ、ちょっとした村だったね。生活レベルは野生の獣と大して変わらないみたいだけど。まさかこんな人目のない場所でこんなに繁殖してるなんてね]
ムーン・パルティエナ:[どうしてシン様はこのような場所にわざわざ赴かれたのですか]
マーキュリー・シーン:[おいおいパルティエナ。君は私のサテライトを何年やってるんだい。そろそろ私の思考をトレースできるようになってもいいんじゃないかな]
ムーン・パルティエナ:[す、すみません]
(シン様の思考回路を理解するなんて。司祭様でもできないのでは)
マーキュリー・シーン:[愛しの君に会いに行くためだよ]
ムーン・パルティエナ:[い、愛しのきみって……]
マーキュリー・シーン:[まあ、この状況だと会いに行くんじゃなくて。向こうから会いに来るんだけどね]
ムーン・パルティエナ:[ど、ど、どういいうことですか、シン様!愛しの君って、お、お、お、女、ですか、誰なんですかそれ、説明してください、シンさ]
マーキュリー・シーン:ㇷ゚ツリ
ツー、ツー
マーキュリー・シーン:「ふふふふふふ、待っていたよ。私はこの瞬間を全身が黒炭になりそうなほどにずっと焦がれていた。一度はあきらめた願いだったが、まさか叶う日が来るなんて。やはりあなたは私の味方だ。」
(彼が来たら、どうやって遊ぼうかな。したいこと、させたいことがあって決められない……でも、とりあえずあの金髪女を彼の目の前で殺そう。そしてその血の上で彼を……)
「ふふふ、ああ、早く、早くおいで、私はずっとここで待っているよ。君の顔が絶望と恐怖で歪むのを心待ちにしながらね」
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