第9話 突入

アイアンレスト入口


トルントの兵士A:「はあーあ、まだ逆賊たちは見つからねえのかよ全く。アックス様たちは何してんだか。いい加減あったけえめしが食いたいぜ。もう冷えた穀物団子は飽きた」


トルントの兵士B:「そう言うなって、なんでも相手はかなりの手練れらしいぞ。騎士補佐官候補にまで選ばれる出世街道まっしぐらのアックス様が深手を負わされて逃げられたそうだ」


トルントの兵士A:「騎士補佐官候補っつっても上にゴマすりまくった結果の騎士補佐官候補だろ。確かに下っ端の俺たちなんかよりは何倍も強いけどさ。あの人これで任務失敗するの何回目だよ」


トルントの兵士B:「まあ少なくても三十は超えてるな」


トルントの兵士A:「そのたびに俺たちが尻ぬぐいしてるんだよな。はあ」


トルントの兵士B:「あの人上からの評価上げるので必死だからな」


トルントの兵士A:「今回もアックス様一人で乗り込もうとしてなけりゃ、こんな見張りなんてせずに済んだのにな。あーあ、はやく逆賊ども見つかってほしいぜ」


トルントの兵士B:「はは、そうなるようベータ教の神にでも祈っておくんだな、はははは、じゃあ俺は見張りの交代を連れてくるからそれまで見張り頼むぜ」


トルントの兵士A:「ああ、わかったよ。やっと休めるぜ」





アイアンレスト入口-近くの茂み


アッシュ:「ミゼルさん見張りが一人になりました」


ミゼル:「今がチャンスね、行くわよ、アッシュ君」


アッシュ:「はい」


ミゼル:「………………いい、私が石を投げて注意を引くからそのうちに走り抜けるのよ。もし、見つかっても振り返っちゃダメ、私が捕まっても迷わず走るのよ」


アッシュ:「え、でも」


ミゼル:「いいの、これは私の意思でやってることだから。別に同情や哀れみじゃないの。もし、アッシュ君が敵につかまったら私は迷わず逃げるわ。だから、アッシュ君もお願い、やばくなったらどんな状況でも逃げるって約束して」


アッシュ:「……わかりました」


ミゼル:「よし、じゃあ、行くわよ」


コツ


トルントの兵士A:「………………」


コツ


トルントの兵士A:「………………」


ミゼル:(うん、おかしいわね)


コツ、コツ


トルントの兵士A:「………………」


コツ、コツ、コツ、コツ


トルントの兵士A:「………………」


ミゼル:「へ」


コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ


トルントの兵士A:「………………」


ミゼル:「あ、あの見張り頭おかしいんじゃないの。こんだけ不審な音してたら普通見に行くでしょ。なんで直立不動なのよ。デブってるだからちょっとは動きなさいよ。だからあんなにだらしない体型してるのよ」


アッシュ:「ちょ、ミゼルさん落ち着いてください。敵に聞こえちゃいます」


ミゼル:「全然聞いてくれないから困ってるんでしょ。なんなのあいつ脂肪で耳つまっってるんじゃないの」


トルントの兵士A:「………………」


トルントの兵士A:(さっきからなんか変な音がしてるが、無視だな無視。下手に戦闘になってけがとかしたくないしな。面倒ごとは後から来る奴らに任せるぜ)


ミゼル:「全然気づかないじゃないの。かくなる上はこれで……ふふふふふふ」


アッシュ:「ちょ、ミゼルさん銃しまって、こんなところで銃声なんてしたら見張りが一斉に押し寄せてきちゃいますよ」


ミゼル:「だって、あいつぜんぜん動かないのよ。どうするのよ、せっかくチャンスなのに、見張りが二人になったらまた一人になるまで待たないといけないのよ」


アッシュ:「う、それはそうですけど」


ミゼル:「ああ、もうなんでよりによってこんな見張りに当たるのよ、全く…………………………はあ、仕方ないわね。次の見張り交代まで待ちましょうか」


アッシュ:「……僕に一つ考えがあるのでやってみていいですか」


ミゼル:「え、どうするの」


アッシュ:「ちょっと待ってください、ふん………………」


ミゼル:(アッシュ君、見張りの兵士に向かって手を伸ばしてる。これって私が驚いてアッシュ君を撃っちゃったときと同じ、もしかして私の銃弾やアイアンドッグみたいにあの見張りを吹き飛ばすつもりかしら。でも、それじゃ吹き飛ばされた後、驚いた兵士がほかの兵士に報告して結局私たちが戻ってきたのがばれるんじゃ)


アッシュ:「い、行きます」


ミゼル:「え、アッシュ君、ちょっと待って」


アッシュ:「えい」


ドガァン


ミゼル:「え」


トルントの兵士A:「うお、なんだ、どうした」


アッシュ:「今です、ミゼルさん行きましょう」


ミゼル:「え、え、え」


アッシュ:「………………ここまでくればもう大丈夫ですね。見張り突破成功です」


ミゼル:「えええ」





アイアンレスト入口-入り口近くの崖の下


トルントの兵士A:「な、なんじゃこりゃ」


トルントの兵士B:「お、おいどうしたんだ」


トルントの兵士C:「どでかい音がしたぞ」


トルントの兵士D:「敵襲か」


トルントの兵士A:「い、いやちがう、岩だ」


トルントの兵士B:「岩…………」


トルントの兵士A:「ああ、あの崖から落ちてきたんだ。なんか変な音がするなとは思ってはいたがまさか、岩が落ちてこようとする音だったとはな」


トルントの兵士B:「あっぶねえな」


トルントの兵士C:「てか音がしたんなら、確認しに行けよ」


トルントの兵士D:「ばかやろう、確認したら今頃この岩に踏みつぶされてぺしゃんこだったわ。お前らこそ早く交代しに来い」


トルントの兵士D:「あははは悪い悪い、昨日結構飲んじゃって」


トルントの兵士A:「全く」


トルントの兵士B:「まあ、大事が何もなくてよかった。不幸中の幸いだったな」


トルントの兵士A:「ああ、そうだな。じゃあ俺たちはゆっくり休むから見張り、しっかり頼むぜ」


トルントの兵士C「わあってるよ、お前じゃねえんだから、ああそうだ、さっきアックス様から連絡が入って……」





アイアンレスト―入口から少し離れた場所


ミゼル:(まさか崖の上の岩を落とすなんて。アッシュ君の不思議な力、あんな大岩も動かせちゃうの)


アッシュ:「はあはあ、はあはあ」


ミゼル:「大丈夫アッシュ君、汗がすごく出てるけど」


アッシュ:「だ、大丈夫、です」


ミゼル:(息も荒れてる。心なしか足元もおぼつかないし。あの力のせいよね、間違いなく。むやみに乱発できるような都合のいいものじゃないってことね)


アッシュ:「はあはあはあ」


ミゼル:(ここから先、いつエルダント帝国の兵士と遭遇してもおかしくない。戦いになることを考えたらいったんアッシュ君を休ませたほうがいいんだけど…………エルダント帝国の兵士が森の入り口をふさいでたってことはまだオルランドさんたちが捕まっていないって証拠。テレーゼさんもアッシュ君と同じ不思議な力を使ってたからたぶんそれをうまく使ってなんとかやり過ごしたんだと思う。それでも結局は時間の問題。相手は世界を統べる国の兵士、数で押し切られたらオルランドさんたちに太刀打ちできる術はない。でも今なら……)


アッシュ:「急ぎましょう、ミゼルさん」


ミゼル:「アッシュ君」


アッシュ:「今なら、まだ、間に合います」


ミゼル:「…………ええ、そうね」


ミゼル:(何を弱気なことを言ってるのかしら、私は。アッシュ君に言ったじゃない、これは私が決めたことだって。それなのになんでアッシュ君の力を頼りにしているの……これは私が決めた道、他人の力なんて計算に入れちゃいけない。私の力でアッシュ君をオルランドさんたちに会わせるの。それが私が決めた、道なんだから)


ミゼル:「行くわよ、アッシュ君。もしもの時はこのお姉さんに全部任せなさい」


アッシュ:「はい」



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