第25話 理想と現実

ミストレア―ご神体のある祠から十分ほど離れた場所


キュリス:「もうカルトったらどこに行ったのよ」


アッシュ:「こっちにもいませんでした」


キュリス:「本当に勝手なんだから」


アッシュ:「どうしてカルトさんは村の外に出たいって言ってるんですか。何か外の世界で見たいものとかあるんですか」


キュリス:「わかんない。カルト、子供のころからずっと外に出たいって言ってて、どれだけおじいちゃんにこてんぱんにされてもすぐまたおじちゃんに挑んで。毎日あの木の棒剣を振ってるの」


アッシュ:「そう、なんですか」


キュリス:「カルト……この村にいるのが嫌になっちゃったのかな」


アッシュ:「え、村を、どうして」


キュリス:「実は……」


男の子の声1:「う、うわあああああああああ」


アッシュ:「な、なんだ」


男の子の声2:「カルト、悪かった、もう許してくれえ」


キュリス:「カルトっ」


カルト:「どうだ、これで俺の強さがようくわかっただろ。てめえらみてえな雑魚が何人かかってきたって俺には敵わねえんだよ」


男の子1、2:「「わ、わかった。わかったから、もうやめてくれ」」


カルト:「ち」


キュリス:「テオにトルテ、何してるの」


カルト:「ああん……何でもねえよ」


テオ:「カルトが木の棒を振ってたのが見えたから」


トルテ:「そんなことしたって村長には勝てないから無駄な努力はやめろって言ったら突然木の棒を振り上げて襲い掛かってきて」


カルト:「ち、余計な事言ってんじゃねえ。とっととうせろ」


テオ、トルテ:「「ひっ、お邪魔しましたあああ」」


キュリス:「……カルト」


カルト:「お前らこんなところで何してるんだよ。じいさんと一緒にあの祠の中のご神体に見に行ったんじゃねえのか」


アッシュ:「カルトさんを追ってきたんですよ」


カルト:「ああん、なんでお前が俺の後を追ってこなくちゃいけねえんだよ」


アッシュ:「そ、それは……キュリスさんが心配した顔でカルトさんの後を追っかけて行ったから」


キュリス:「カルト……私の事、嫌い」


カルト:「……なんだよ、急に」


キュリス:「急に、じゃないよ」


カルト:「………………」


キュリス:「カルト、ずっとミストレアから出たがってたじゃん。何度も何度も、おじいちゃんに決闘を挑んで、そのたびにいっぱいあざ作って、笑われて……そんなに痛い思いして、つらい目にあってそれでもミストレアから出たいんでしょ。そんな目に遭ってまで私たちから離れたいんでしょ」


カルト:「んなこと誰も言ってねえだろ」


キュリス:「じゃあ、なんで」


カルト:「そ、それは……」


のぶとい男の声:「見つけたぞ、カルト」


カルト:「あん、てめえは」


キュリス:「タルクさん」


アッシュ:「た、タルク、さんって誰」


キュリス:「テオとトルテの年の離れたお兄さん」


アッシュ:「へえ」


(そういわれればどことなく似てるような。特に歯並びの悪さが)


タルク:「カルト、てめえ俺のかわいい双子たちを汚ねえ棒っきれでうちのめしてくれたらしいな」


カルト:「け、だったらどうだっつうんだよ」


タルク:「っ、てめえ」


キュリス:「た、タルクさん落ち着いて」


タルク:「うるせえ、てめえは引っ込んでろ」


キュリス:「きゃっ」


アッシュ:「キュリスさんっ」


カルト:「キュリスっ、てめえ、うおおおおお」


タルク:「ふん」


カルト:「ぐっ、こいつ俺の剣を素手で受け止めやがった」


タルク:「何が俺の剣だ、ただの棒きれだろうがおらっ」


カルト:「ぐはっ」


キュリス:「カルトっ」


アッシュ:「カルトさん」


タルク:「てめえは前にも、うちの弟たちに手を挙げてくれたことがあったな」


カルト:「あいつらが弱ええくせに俺に突っかかってくるからだ」


タルク:「てめえには一度骨の髄までわからせてやったほうがいいみたいだな。俺の弟たちに手をあげるとどうなるか」


カルト:「へっ、やってみろよ」


タルク:「…………ああ、そうだな」


カルト:「ぐはぁ」


ガシャ、グシャ


キュリス:「もうやめて、カルトが死んじゃう」


タルク:「……ぜえ、ぜえ、これでわかったか。所詮てめえの強さなんてこの程度なんだなよ。十四のガキがいきがりやがって」


カルト:「う、うるせえ」


タルク:「けっ、てめえみたいなガキがいくら頑張ったって無駄なんだよ。てめえみたいなみなしごが外の世界で生きてい行けるわけねえだろ」


アッシュ:「え、みなしごって」


カルト:「それがわかってるから村長のじいさんも村を出るために一対一の決闘なんて条件出すんだ」


カルト:「っっっうるせえっ」


タルク:「ぐはっ」


キュリス:「カルトっ」


カルト:「俺は絶対じいさんに一本入れて村を出る。そして外の世界に行く」


タルク:「てんめえ」


カルト:「がっ、はっ」


タルク:「ぶっころしてやる」


キュリス:「やめて」


タルク;「ぐおっ、な、なんだ腕が動かねえ」


アッシュ:「もういいでしょ」


タルク:「な、なんだてめえは」


アッシュ:「僕の名前はアッシュ、アッシュシルバです」


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