第24話 条件

ミストレア―外


木材を肩に担ぐ若い男:「おはようございます村長」


キュルート:「ほっほっ、いい朝じゃの」


井戸で洗った洗濯物を運ぶ若い女:「村長、おはよう。うん、また若い子たち連れて、もう年なんだからあんまり無茶しちゃだめだよ」


キュルート:「ほっほっ、なにまだまだ若いもんに負けはせんよ」


井戸で洗った洗濯物を運ぶ若い女:「全く」


七歳くらいの少女たち:「あー、おじいちゃんだ」「またお話聞かせて」


キュルート:「ほっほっ、またあとでな」


七歳くらいの少女たち:「ええ」「絶対だよ、約束だよ、破ったらガンマ教の神様から天罰だからね」


キュルート:「ほっほっ、それは怖い怖い」


アッシュ:「キュルートさん、とても村の人たちに愛されてるんですね」


キュリス:「ふふ、そうよこの村の人たちはみんなおじいちゃんのことが大好きなの。そしおじいちゃんもみんなのことが」


カルト:「あのじじいが好きなのは俺たちじゃねえ。この村だ」


アッシュ:「カルトさん?」


キュリス:「もうカルトったらまたそんなこと言って」


カルト:「けっ」


アッシュ:(もしかしてさっき聞いたキュルートさんのことを老害じじいって言ってるのカルトさんの事なんじゃ)


カルト:「なんで俺たちはこのミストレアから外に出ちゃいけないんだ。この霧の先にはもっと広い世界が広がってるんだろ」


キュリス:「それは霧の外の世界が危険だからっていつもおじいちゃんが言ってるでしょ。外には危険な獣がそこかしこにいっっっぱいいるのよ」


カルト:「へんっ、そんなやつら俺の剣でぎったぎったにのしてやるぜ」


アッシュ:「剣ってその腰に巻いた木製の……」


キュリス:「剣って、それただの木の棒でしょ。そんなんで勝てるわけないでしょ。もう相変わらず馬鹿なんだから」


カルト:「な、し、仕方ねえだろ。ここじゃまともな武器が手に入らねえんだから。それに俺の腕があればたとえこの木の棒だって」


ミゼル:「……」


キュルート:「ほっほっ、威勢がよいの。しかし、この老いぼれから一本もとれぬ腕では外に出たところですぐに亡骸になるのがおちじゃわい」


カルト:「な、なにを」


アッシュ:「あ、あの、一本って何のことですか」


キュリス:「それがこの村を出る条件なの。ミストレアから外の世界に出たいものはおじいちゃんと一対一の勝負をしてどこでもいいから一本攻撃を入れるってのがね」


アッシュ:「え……まさかキュルートさんが杖をついてるのってその勝負で誰かに」


キュリス:「あはははは、そんなわけないじゃない」


アッシュ:「え、そんなわけないって」


キュリス:「あれはただの年、おじいちゃんに一本入れた人なんて今まで一人もいないんだから」


ミゼル:「っ」


アッシュ:「い、今まで、一度も」


キュリス:「ええ、そうよ。おじいちゃんはこの村で一番強いの。だから誰一人この村から出た人はいないわ。まあ、そもそもこの村から出ようなんて考えてる馬鹿。そうそういないんだけど」


カルト:「な、てめえ今なんていった」


キュリス:「なーんにも」


カルト:「今俺のこと馬鹿って言わなかったか」


キュリス:「へえ、自覚あったんだ」


カルト:「な、このあまぁ」


アッシュ:(今まで一度も負けたことがない。あのおじいちゃんが……それってまさか)


「ミゼルさんっ」


ミゼル:「ええ、間違いなくキュルートさんも神の意図の使い手でしょうね」


アッシュ:「それってあいつと何らかのつながりがあるってことじゃ」


ミゼル:「いえ、たぶん違うわ。きっとキュルートさんは」


キュルート:「ほっ、ほっ、やっと着いたぞい。ここがお二人に見せたかった場所じゃ」


ミゼル:「え、ここって」


アッシュ:「洞窟……というより祠」


キュリス:「ふふ、すごいでしょ。ここがこの村を守ってくれてるご神体が保管されてるとっってもありがたいほこらなんだよ」


カルト:「ただの大木だろ。気味の悪い」


キュリス:「ちょ、カルト、失礼でしょ。この村を守ってくださってる守り神様なんだから」


アッシュ:「守り神ってことは、ガンマ教の神のご神体があるんですか」


キュリス:「まさか、さすがにそんなものがあったら世界中の信徒が押し寄せてきちゃうよ」


キュルート:「ほっ、ほっ、ここに眠ってるのはいわばそのガンマ教の神の使いじゃ。ガンマ教の神が我らをお助けするため使わせてくれた神の代行者。昔我らを助けてくれたその御方は今もこの祠の中でご神体という姿に変わり、我らを守ってくださっているのじゃ」


アッシュ:「へえ、すごいですね」


キュルート:「ほっ、ほっ、中を見ていくかね」


アッシュ:「え、いいんですか」


カルト:「けっ、ばかばかしい。俺は帰るぜ」


キュリス:「あ、ちょ、カルト」


ミゼル:「……アッシュ君、せっかくだからカルト君とキュリスちゃんについて行ってあげて」


アッシュ:「え、どうしてですか」


ミゼル:「せっかく同い年くらいの子と会えたんだから。村を出る前に少しくらい交流を持ってもいいと思うのよ。ほら、アッシュ君オルランドさん達と山の中で暮らしてからあんまり同年代の子と話したことないでしょ。こういう経験って後でとっても大切になるのよ。これ、年上お姉さんからのアドバイス」


アッシュ:「は、はあ」


(ミゼルさんもあんまり僕と年齢変わらないと思うんだけど)



アッシュ:「わかりました。じゃあミゼルさん、後でキュリスさんの家でおちあいましょう」


ミゼル:「オッケー。しっかり青春を楽しんできなさいよ」


アッシュ:「せ……ん?わ、わかりました……」


ミゼル:「………………さて」


キュルート:「わざわざアッシュ君を遠ざけてしまって良かったのか。お主…………神の意図は使えんのじゃろう」


ミゼル:「ええ、でもあんまりあの子を巻き込みたくなかったのよ。これ以上、あの子に、背負ってほしくないの。あの子は優しい子だから…………あなたもそうなんじゃいの」


キュルート:「ほっ、ほっ、ミゼルちゃんも優しい子じゃの。立ち話もなんじゃし、久しぶりに入るかのう。この村を守る、ご神体のある祠の中へ」


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