第2話 来訪

フォトナ村-村長宅


木こりのおじさん:「いやあ、まさか、アッシュがこんなべっぴんさんを連れて来るとは、まだ十歳だと言うのに、英雄色を好むというやつかの、隅に置けない男じゃわい」


アッシュ:「お、おじさん」


恰幅のいいおばさん:「全くこのバカは何を言ってんだかね。ミゼルさん、こんなバカはほっといていっぱいお食べ」


ミゼル:「は、はい、ありがとうございます、テレーゼさん、オルランドさん」


オルランド:「うはは、こんな田舎の村に人がやって来るなんて、何年振りだろうな、ほらじゃんじゃん食ってくれ」


ミゼル:「あ、は、はい」


ミゼル:(村って、この人たち以外にこの辺りに住んでる人はいないみたいだけど)


テレーゼ:「このフォトナ村はね、一昔前までアインレストからとれるアルケミスツリーで結構にぎわってたんだけどね、鉄の加工技術が発展した今じゃほとんど売れなくなっちまったんだよ」


オルランド:「今じゃどっかの物好きな金持ちたちの道楽のために、切り落としたアルケミストツリーを町まで運んでその売り上げで生活している状態じゃな。昔はアルケミスツリーは人の生活には欠かせない貴重な素材だったのにな」


ミゼル:(確か今ほど加工技術が進歩していなかった時代は鉄よりも加工のしやすいアルケミスツリーが重宝されていたって調べた文献に書いてあったわね。加工技術の進んだ今じゃ当然アインレストにしか生えないアルケミスツリーよりもあちらこちらにある鉄鉱山でとれる鉄の需要が高い。今のアルケミスツリーの用途はもっぱらお金持ちたちが自分の富を示すための調度品以外にない)


テレーゼ:「んな、昔のこと言ったってしょうがないでしょ。むしろそんな時代遅れでも食いっぱぐれずに普通に生活できてるんだから、ありがたいと思いなさいな」


オルランド:「それは……まあ、そうだが」


ミゼル:(テレーゼさんの言う通りね、確かにアルケミスツリーの生活における重要性は時代とともに下がっていった。それでも、アルケミスツリー自体の値段が下がったわけじゃない、むしろセレブ達がこぞって自分のステータスとしてアルケミスツリー製の家具なんかを買っているから、むしろ単価は上がっている。こんな山の中、老人夫婦と子供が三人で生活するのに十分なお金を稼げているんだから、文句を言う資格はないと思う。オルランドさんの矜持もわからないではないけど、そんなものよりお金の方がよっぽど大事だ)


テレーゼ:「さあ、さあ、こんなバカはほっておいてミゼルさんもたんとお食べ。家のシチューは近くの畑で採れた新鮮な野菜を使ってるからとってもおいしいよ」


ミゼル:「あ、ありがとうございます……あ、おいしい、野菜がすごく甘い」


オルランド:「そうだろ、そうだろ、おかわりもたんまりあるからいっぱい食べるんだよ」


ミゼル:「あ、ありがとうございます」


アッシュ:「アルケミスツリーを近くの町で買い取ってもらう日はお肉も入ってもっとおいしいんですけどね」


ミゼル:「え、この近くには獣がいるんでしょ、だったそれを捕まえたらいいんじゃないの」


テレーゼ:「それが、そういうわけにもいかないんだよ」


ミゼル:「え、なんで――」


ドンドン


オルランド:「おや、誰かお客さんかな」


テレーゼ:「あんた、ちょっとでておくれないかい」


オルランド:「はいよー」


ドンドンドンドンドン


オルランド:「そんなに叩かんでもわかっておるよ、今開けるぞ……おや、お前さん」


グシャ


ミゼル:(ん、今なんか大きな音がしたような)


ミゼル:「どうかなさったんですか、大きな音が……ひっ」


アッシュ:「どうかしたんで……お、おじさん」


ミゼル:「待って、行っちゃダメ」


アッシュ:「で、でも、おじさんが」


ミゼル:(でかい鼻に顔の脂肪で潰れた眼、そしてこの気球みたいに膨らんだ丸い体は……)


ミゼル:「トルント族」


鎧を着たトルント族の兵士:「貴様らには我らエルダント帝国への逆賊の疑いがかけられている。おとなしく我々についてくれば手荒な真似はしない。だがもし、逆らうというならこの老いぼれのように我が聖なる斧によって断罪されるということを覚悟しておくのだな」


ミゼル:「エルダント、帝国」


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