神の意図

第32話 今を壊す過去

ミストレア―外縁

カルト：「ふん、ふん、ふん……ふう、今日の修業はここらへんで切り上げるか。あんまり遅くなるとキュリスが心配するからな……んっ」

テオ：「誰か、誰か助けて、敵が、村長が」

ミスケ：「ナアアッ」

カルト：「テオ、どうしたんだ。そんな血相かいて……うん、なんだへんてこな動物は」

テオ：「カルト、助けて。村長がっ」

カルト：「っ、あのじじいに何かあったのか」

ガラトルト：「おいおい、こんな夜中にガキたちが何してるんだ」

カルト：「な、なんだてめえは」

ミスケ：「ナアッ」

ガラトルト：「そんぐらいの年でもう夜遊びか。悪いガキたちだな。パパとママの言うことは聞いとくもんだぜ。おとなしくお家でねんねしてたら苦しまずに逝けたのによ」

テオ：「ひっ」

カルト：「ちっ、なんだかよくわからねえが、こいつが悪い奴ってのだけはわかるぜ。テオ、お前は先に村にいってじじいのことをみんなに伝えろ。ここは俺が何とかしてやるからよ」

テオ：「ま、待ってよ、カルト一人でなんとかできる相手じゃ」

カルト：「お前がいたってどうにもなんでえだろ」

テオ：「っ…………」

ガラトルト：「ぎゃははは、ひでぇこと言うな坊主。せっかくお友達が心配してくれたってのによ」

カルト：「テオ、行け」

テオ：「カルトっ」

カルト：「……頼む。お前が頼りだ」

テオ：「……うん、わかった」

ミスケ：「ナッ」

ガラトルト：「あーあ、行っちゃったよ。どうせみんな死ぬのに、無駄なあがきを」

カルト：「おい、気持ち悪い翼野郎」

ガラトルト：「ああんっ」

ズバッ

ガラトルト：「がっ」

カルト：「敵を前にしてよそ見してんじゃねえ」

ガラトルト：(こいつ、一瞬で俺の頭を)

バタンっ

＊

ミストレア―林の中

テオ：「はあ、はあ、はあ」

(はやく、はやく村のみんなに知らせなきゃ)

「う、うわっ」

ズリッ

ミスケ：「ナッ」

テオ：「ぐ、足がっ……」

ミスケ：「ナアア」

テオ：(くそ、早くしないと、カルトが、村長が)

「ぐっっっっ、あああ」

ドシャン

テオ：「……ちきしょう、動けよ。こんな時まで、俺は、何にもできねえのかよ」

ミスケ：「ナアオ」

テオ：「くそ、くそ、くそおおおおおおおおおおおお………………」

若い女の声：「どうしたの」

テオ：「はっ」

金髪の若い女：「あなたは……て、君、足からすごい血が出てるわよ。大丈夫」

テオ：「あ、あんたは」

灰色髪の少年：「ミゼルさん、そっちに誰かいるんですか。すごい声がしてましたけどってあれ、君は確か昼間の」

テオ：「お、お前は」

アッシュ：「確かカルトともめてた双子の……」

テオ：「助けてくれ。お願いだ。このままじゃみんがが村長が、カルトが殺されちまう」

アッシュ：「なっ」

ミゼル：「落ち着いて。何があったのか話してくれる」

テオ：「わかった。実は……」

＊

ミストレア―外縁

カルト：「寝覚めの良いやり方じゃねえが、恨むなよ。お前がやろうとしたことに比べれば不意打ちなんてかわいいもんだからな……さてと」

(あのじじいがこんなあぶねえ奴を村の中に入れるなんて思えねえ。てことはじじいも誰かと戦ってるってことか)

カルト：「あのじじいが負けると思えねえが。念のために俺も」

ガラトルト：「無駄だ」

カルト：「っ」

ぐしゃっ

カルト：「がはっ」

(腕が、伸びた)

カルト：「ぐっ、てめえ」

ガラトルト：「あのくそじじいがいるのはこの村の外。霧の先だ。お前らはあのくそじじいの許可がねえと村からは出れないんだろう。村の奴らを守るための細工が結果的にてめえの首を絞めることになんてな。ざまぁねえぜ」

カルト：「けっ、誰があんなじじいの心配なんかするかよ」

ガラトルト：「がはは、そうかぁ、俺には心配で心配で仕方ねえみてえに見えけどな」

カルト：(どうなってんだ。俺は確かにこいつの頭を勝ち割ったはずだぞ。なのにこいつ、頭から血すら出てねえ。手ごたえは確実にあったはずなのに)

「てめえ、本当にヒューマニアか」

ガラトルト：「ああ、元、だけどな」

カルト：「元、だと」

ガラトルト：「ぎゃはは、冥土の土産に教えといてやるぜ」

ザッ

カルト：「ぐっ」

(伸びた腕が鞭みたいにしなってきやがった)

ガラトルト：「ぎゃはは、安心するのはまだだぜ」

ザッ

カルト：(今度は爪が伸びてっ)

シャィン

カルト：「っ」

ザッ

ガラトルト：「やるじゃねえか」

(うまく俺様の爪をいなしやがったか。馬鹿正直に受けてりゃ木の棒ごと貫いてやったのにな)

カルト：「はあ、はあ、はあ」

(こいつ、強え)

ガラトルト：「がはは、俺の名前はガラトルト・ザイギス。エルダント帝国のサテライトであり、ガンマ教の信徒だ」

カルト：「なっ」

ガラトルト：「つっても神なんぞこれっぽっちも信仰してねえがな」

カルト：(ガンマ教、だからこいつじじいの霧を抜けてこの村に来れたのか)

ガラトルト：「そしてもう一つ、いいこと教えてやるぜ。俺はな……お前らと同じミストレアの住人だったんだよ」

カルト：「なに…………」