第15話 初めての戦闘

アインレスト-最奥の洞窟


アッシュ:「ぐ、強い」


トルント・アックス:「どうしたどうした、さっきまでの威勢は。我が神より与えられた武具を前に恐れをなしたか」


アッシュ:「ぐううう」


テレーゼ:「あ、アッシュ」


オルランド:(だめじゃ、経験の差がありすぎる)


トルント・アックス:「うおおおおおおおおおおおおお」


アッシュ:「くっ」





十数分前

アインレスト-最奥少し前


謎の男:「俺の直観が正しければ恐らくこの辺りのはずなんだが」


アッシュ:「この炎の中どうやっておじさんたちを探せば、ただでさえ煙が濃くて視界が悪いのに」


謎の男:「視界……さっきからもしかしてと思っていたんだけど、もしかして君、神の意図が見えていないの」


アッシュ:「はい?見えてますよ、ちゃんと。自分の手から白い手みたいなのが伸びていって――」


謎の男:「ああ、そうじゃなくて。自分以外の人の神の意図は見えていないの」


アッシュ:「えっ、自分以外の人の神の意図なんて見えるわけないでしょ」


謎の男:「まあ、普通はね」


アッシュ:「普通は」


謎の男:「神の意図を授かっているオラクルなら話は別だ。オラクルは神の意図を扱う能力だけでなく、神の意図を認識、視認する能力も同時に授かっているんだ。だから君なら見えるはずだよ。僕の、そして君のおじさんおばさんの神の意図も」


アッシュ:「でも、僕は一度も」


謎の男:「それは君が未熟だからさ」


アッシュ:「っ」


謎の男:「見えないのはルールの知らないゲームでギャンブルをさせられているのと一緒。待っているの破滅の未来しかない」


アッシュ:「……」


謎の男:「もし君が未来を自分の手で切り開きたいと思うなら、死ぬ気でものにするしかない。この短時間でね」


アッシュ:「どういう、意味」


謎の男:「今君のおじさん、もしくはおばさんの神の意図を察知した。この形状まるで洞窟か何かの入り口を神の意図で蓋しているみたいだ」


アッシュ:「洞窟……もしかして」


謎の男:「それと同時に、近くにもう一つ神の意図の反応を察知した」


アッシュ:「もう一つ」


謎の男:「ああ、恐らくエルダント帝国の兵士だろうな。持っている武具からしてそこそこの役職らしい。これは……斧かな」


アッシュ:「斧、あいつだ」


謎の男:「少年、これを持って行け」


アッシュ:「これは」


謎の男:「なに、そこらへんの武器屋で売ってる安物の剣だ。素手で行くよりはましだろう。残念ながら俺はあいつと顔を合わせるわけにはいかないのでな。俺まで逆賊の疑いを架けられてしまう」


アッシュ:「……どうしてそこまで」


謎の男:「大したことじゃない。ただ手柄を横取りされたくないだけさ」


アッシュ:「……」


謎の男:「だれだって出世はしたいだろ」





アインレスト-最奥の洞窟


ガン、ガン、ガン、ガン


トルント・アックス:「がはははははは」


アッシュ:「ぐっ」


アッシュ:(重い、一撃一撃がアルケミスツリーを一振りで切り倒せそうなほどに重くて力強い一撃。このままじゃこっちの体が)


アッシュ:「く」


トルント・アックス:「っ、と危ねえ」


ザッ


アッシュ:「なっ」


アッシュ:(かわされた)


トルント・アックス:「がははは無駄無駄、おおっと」


ガンッ


アッシュ:「く、クソ」


トルント・アックス:「がははは口が悪いな、くそガキ。まあ邪教の信徒なのだから仕方がないが」


アッシュ:「あんた口が臭いな。豚なんだからしょうがないけどな」


トルント・アックス:「ああん、てめえ」


アッシュ:(やっぱりこの人もあの人と同じで見えてるんだ。僕の神の意図が)


トルント・アックス:「そろそろてめえとの遊びも飽きてきた。我が最強の秘奥義でとどめを刺してくれるわ」


アッシュ:「っ秘奥義」


トルント・アックス:「受けて見よ、我が必殺グランドクラッシャースマッシュ」


ガガガガアアアン


アッシュ:「な、地面に叩きつけた斧の斬撃がこちらに向かって」





アインレスト-最奥にある洞窟の近く


謎の男:(要するにただの衝撃波だな)





アインレスト-最奥の洞窟


アッシュ:「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおお」


トルント・アックス:「何、我が奥義を神の意図で受け止めただと」


アッシュ:「おおおおおおおおおりゃああああああああ」


ドガァン


トルント・アックス:「なんと、我が必殺を跳ね返すとは」


アッシュ:「はあ、はあ、はあ」


アッシュ:(なんてすごいわざなんだ)





アインレスト-最奥にある洞窟の近く


謎の男:「つまらんわざだな」





アインレスト-最奥の洞窟


アッシュ:「はあ、はあ、はあ」


トルント・アックス:「ふっ、はははは我が必殺の一撃を退けた事、敵ながらあつぱれ。しかし、実力差は歴然。貴様が我に勝てる可能性など万に一つもなし。苦しみたくなければ、大人しくその剣を置き我に首を差しだけ。そうすれば、貴様ら逆賊全員楽に送ってやろうぞ」


アッシュ:(確かに今の一撃はすごかった。実力の差を思い知らされた。でも)


アッシュ:「おかげでお前を倒すアイディアが思いついたよ」


トルント・アックス:「何だと」


アッシュ:「うおおおおおおお、くらえええええええ」


トルント・アックス:「……」


トルント・アックス:(何かと思えば、ばかめ。真正直に剣を振り回して突進してきたわ。自殺行為もいいとこだ。所詮はガキ、万策尽きてハッタリをかましてきたか)


トルント・アックス:「ふん、このトルント・アックス様を舐めているのか。このくそガキいいいいいいいいい」


ビュン


トルント・アックス:「ぬ」


トルント・アックス:(剣を、投げただと)


アッシュ:「おりゃああああああああああ」


トルント・アックス:「な、ぐはああ」


トルント・アックス:(こ、こいつ……鎧で身を固める我を素手で、殴ってきただと)


トルント・アックス:「ぐぁっは」


アッシュ:「はあ、はあ……いっ」


アッシュ:(いってええええええええええええ)


アッシュ:「さすがに神の意図で拳を覆ってるっていっても、さすがに鎧を殴るのは無理がありすぎたか」


アッシュ:(神の意図は今も見えない。けれどあの斧での一撃、恐らく斧に神の意図を纏わせてパワーアップさせてたんだ。斧ぐらいしか持ったことな僕じゃいきなりこのもらい物の剣に神の意図を纏わせるなんて芸当できない。けど自分の体なら、そう思ってためしにやってみたけど)


トルント・アックス:「き、貴様」


アッシュ:「っ」


アッシュ:(上手くいったみたいだ)


トルント・アックス:「よくも、よくも我に、傷をつけたな……貴様、許さん、許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおお」


アッシュ:(なんだ、針を肌に突き刺されているみたいなこの雰囲気は)


トルント・アックス:「邪神に魅入られたこの薄汚い逆賊どもがああああああベータ教の神に代わりこの我が貴様ら全員に天誅をくだああああああああす」


アッシュ:(斧を、振り下ろしてきた。どうする、手で受け止めるか、神の意図で強化した腕なら斧ぐらい)


オルランド:「だめじゃ、アッシュ、生身で受け止めちゃいかん」


アッシュ:「っ」


ガンッ


トルント・アックス:「この虫けらがあああああああああああ」


アッシュ:「ぐぐぐ」


アッシュ:(どうなってるんだ。剣で斧を受け止めてるはずなのに)


アッシュ:「なんで剣に触れてない斧からこんなにすさまじい力を感じるんだ」




アインレスト-最奥にある洞窟の近く


謎の男:「落ちた剣で受け止めたのは見事だけど、あれは……」


謎の男:(オーバーラップ、あるものに神の意図をまとわせることでそのもののポテンシャルを飛躍的に上げる初歩の初歩的な業。さっき少年が自分のこぶしに神の意図をまとわせあのトルントの鎧をへこませたのも同じ業だが、さすがに生身と教会から支給された聖具じゃ威力が違いすぎる。それにあの豚は今自我を忘れて暴走状態。燃費は悪すぎますが、出し惜しみなく神の意図をまとわせているあの斧を前にしてはいくら総量が勝っていても神の意図初心者同然の彼では為す術がないでしょう)


謎の男:「さて、本来なら彼は気に入っている人材、いや、気に入るかもしれない人材。力を貸してあげてもいいですが……ふ、この程度で死ぬなら、それまでということだ」





アインレスト-最奥の洞窟


アッシュ:「ぐああああああ」


トルント・アックス:「はははははははは早くつぶれて八つ裂きになってしまえええええええ虫けらあああああああああ」


アッシュ:(ま、まずい、このままじゃ)


ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ、ガキン


アッシュ:「っ剣が」


アッシュ:(折れた)


トルント・アックス:「死ねええええええええええええええええええ」


アッシュ:(まずいっ)


ビュン、ガン


アッシュ:「なっ」


オルランド:「それを使え、アッシュ」


アッシュ:(これは、おじさんの)


トルント・アックス:「そんな薄汚い斧で何ができる、死ねえええええええ逆賊があああああああああ」


アッシュ:「っ」


ガ、ガキィィン


トルント・アックス:「な、なに。いなされただと」


アッシュ:「確かに僕は剣ももったことないただの村の子供さ、でもね」


ガキィンッ


トルント・アックス:「ぐ」


アッシュ:「生まれてからずっと、斧を、おじさんの背中を見てきた立派な木こりの息子だっ」


ズバァァン


トルント・アックス:「グアッ」


アッシュ:「はあ、はあ、はあ………………」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る