第28話  行き場のない思い

ミストレア―キュリスたちの家


キュリス:「もう、またこんなに傷つくって。えいっ」


カルト:「いてっ、キュリス、てめぇ」


キュリス:「何よ、けがした自分が悪いんでしょ。手当てしてあげた私に何か文句でもあるの」


カルト:「ぐっ」


アッシュ:(おばさんに叱られたときのおじさんとそっくりな顔してるな)


キュリス:「はあ、私は家に帰って夕方のご飯の準備するから。カルトは薪になりそうな木の枝を拾ってきて」


カルト:「ちょっと待て。俺は今から剣の修業が」


キュリス:「ひ・ろ・っ・て・き・て。じゃなかったら今晩のカルトのご飯は水だけだからね」


カルト:「ち、わあったよ。拾ってくればいいんだろ、拾ってくれば」


アッシュ:「僕もついて行きます」


キュリス:「アッシュ君」


カルト:「ああ、んなことしなくてもいいよ。薪ぐらい俺一人で」


アッシュ:「でも二人いれば早く終わりますよ。早く終われば早く剣の修業もできますし、ね」


カルト:「……しょうがねえな」


アッシュ:「ありがとうございます。カルトさん」


カルト:「……カルトでいい」


アッシュ:「え」


カルト:「さんなんて言われたら背筋がかゆくなる」


アッシュ:「……わかった。カルト」





ミストレア―外縁近くの林


アッシュ:「ふう、これだけ集まれば十分かな」


カルト:「おーい、アッシュ」


アッシュ:「カルト」


カルト:「けっこう、集めたな」


アッシュ:「カルトの方こそ。そんないっぱいの枝どこにあったの」


カルト:「いっぱいとれるポイントがあるんだよ。それにしてもここに初めて来たアッシュがこんなにいっぱいの枝を集めるなんてな」


アッシュ:「ちょっと前まで森でおじさんたちと森で暮らしてたんだ。だからなんとなくどこにいっぱい木が生えてるかわかるんだよ」


カルト:「おじさん……父ちゃん、母ちゃんじゃねえのか」


アッシュ:「う、うん。僕もカルトと同じでお父さんやお母さんの顔を知らないんだ」


カルト:「……そっか。それは悪いことを聞いたな。ごめん」


アッシュ:「ううん。おじさんもおばさんもいい人たちだったから。毎日楽しかったよ。寂しいと思ったことなんて一度もないくらいに……カルトはどうして、ミストレアから出たいの」


カルト:「………………それは」


アッシュ:「ご、ごめん。あんまり人に言いたくないことだったんだね」


カルト:「そういうわけじゃ…………誰にも言うなよ」


アッシュ:「うん」


カルト:「俺が外の世界に出たいのは……」


アッシュ:ゴクリ


カルト:「キュリスと結婚するためだ」


アッシュ:「………………えっ、いまなんて」


カルト:「だから……俺はキュリスの事が好きなんだよ」


アッシュ:「それは、まあ、うん」


(見てれば誰でもわかると思うけど)


「キュリスさんと結婚することと村を出ることに何の関係が」


カルト:「それは当然、キュリスに俺を認めさせるためだ。キュリスだけじゃねえ、村のみんなに俺を、俺のすごさを認めさせるんだ」


アッシュ:「……そんなことしなくても村の人たちはみんなカルトの事を思ってくれてると思うけど」


カルト:「ああ、確かに村の連中はよそ者の俺に優しいし、尊重もしてくれる。でも、それじゃダメなんだ。俺は村のみんなからスゲェって思われなくちゃいけねえんだ……アッシュ、お前だってそうじゃねえのか。森の中からでて、お前の、お前の存在みたいなのをみんなに認めてもらいたいから外に出たんじゃねえのか」


アッシュ:「僕は……」


元気のいい女の声:「見つけたー」


カルト:「っキュリス」


キュリス:「もう二人とも、薪を集めるだけでどれだけ時間かかってるのよ」


カルト:「うるせえな。こんだけ集めたんだから文句ねえだろ」


キュリス:「あー、はいはい。日が暮れてきたし早く帰るわよ。ほら薪もって、早く」


カルト:「ったく、毎度毎度うるせえ女だぜ」


キュリス:「なんか言った」


カルト:「何も言ってねえよ。ほら、アッシュ、行くぞ」


アッシュ:「う、うん…………」


(……………………………カルト、僕は……だよ)

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