海辺のバカンス

 海で泳いだユリーシャが海岸にあがってきた。

 露出を抑えているはずなのに、妙な色気を醸し出すユリーシャ。引き締まった体に何人もが注目している。

 琴音が手を怪しく動かしながら一歩ずつ距離を詰めていった。


「体に触ったらお仕置きしますからね」

「おっふバレてたか」

「そんなに気配がダダ漏れなら当たり前です。やるならもっとバレないようにしてください」

「バレなければしていいんだ!」

「報復覚悟でどうぞ?」


 ユリーシャの、目が全然笑っていない笑顔に琴音が引きつった笑みを浮かべた。

 ユリーシャがお仕置きとして繰り出すチョップや拳骨は冗談抜きで痛い。さすがにそんなもの無駄に受けたくはなかった。

 軽く体を拭き、海ではしゃぐ弟妹たちを微笑ましく眺める。

 そうしていると、砂浜を歩く二つの足音が聞こえてきた。


「黄昏れてるね、ユリーシャ姉さん」

「ユキヒラさん。それに、ルーヴェル。……えぇ、まぁ」

「ははっ。皆、楽しそうだね」

「これが普通の光景だといいのですがね」


 彼ら彼女たちが、銃ではなく水鉄砲を持つことができるように思いを馳せる。

 と、ここでユリーシャはユキヒラたちが運ぶ箱に気がついた。


「これまた大量に釣れましたね」

「アルプスは豊かな海洋資源も特徴的だからね」

「ドラムグード王国の連中、海底の魔鉱石は採掘していったのに魚介類はほとんど手つかずだったから」

「おかげでこんなに美味しい魚が食べれるんだ。早速バーベキューの準備をしてくるよ」


 ご機嫌な様子の二人が海の家だった建物に入っていった。

 準備ができるまで、ユリーシャはもう一度運動してくるかと腰を上げる。


「てぇい!」


 琴音の声が聞こえ、視界の端に黒い影が映った。

 丸いそれを目の前で受け止め、慣れた手つきで回してから琴音へと返してやる。打ってきたのは、ビーチバレーのボールだった。

 琴音がボールをレシーブで打ち上げ、澪が申し訳なさそうにトスでスマッシュが打てるように修正する。

 射程に入ったボールを、琴音は勢いよくジャンプして強く打った。放たれたボールは正確に椿の後頭部に直撃する。


「やった! 椿これで撃墜だよ! もっと周囲に気を配らなくちゃ」

「……味方から撃たれる危険まで考えろと!?」

「私が誤射しちゃうこともあるかもじゃない?」

「殺すから!」


 椿がボール片手に琴音を追い回している。

 澪がどうしようとでも言いたげにオロオロしていたので、ユリーシャは小さく微笑みボールを拾い上げた。軽くバウンドさせ、手首のスナップで打ち出す。

 飛んだボールは正面から琴音に命中した。相当加減されていたとはいえ、ビーチボールを顔に受けると痛い。


「前方不注意です。衝突事故で被害が出るかもしれないので気をつけるように」

「むーっ! ユリーシャ姉の鬼!」

「鬼! ……じゃないよ。よくもやってくれたわね!?」


 琴音に追いついた椿が竹刀を手に取って再び鬼ごっこを再開していた。

 あの竹刀は、スイカ割り用に訓練ルームから持ってきたもの。一般的な竹刀よりも少し硬かった。

 海岸を走る二人を明るい光が照らす。それは、硝煙の中で生きる少女たちの青春の一ページを切り取ったものだった。

 ページをさらに美しく彩ってあげる。それも隊長の役目だと、ユリーシャはボールを回す。


「そこまでで許してあげてください。後は試合で遠慮なくボコボコにすればいいですからね」

「あ、確かに」

「私見学でも良いかな!?」

「ダメですよ。言い出しっぺが参加しないと面白くないじゃないですか」


 逃げようとする琴音をユリーシャが引っ張ってビーチバレーに参加させる。そこに、近くで遊んでいた他の子どもたちも集まってきた。

 かなりの大人数になったところで、試合を始める。

 試合では、宣言通り椿が琴音に向かって本気に近いスマッシュを打ち込んでいた。

 琴音がそれを避け続けたので、得点は面白いほど椿の側に入る。でも、それでも琴音側のチームは防げる球を確実に防いで逆転を狙おうとしていた。

 激しい応酬はしばらく続き、試合を止めたのは香ばしいソースの香りと肉類が焼ける美味しそうな匂いだった。

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