新天地
室内にいた若い青年が椅子に座る。この青年こそが、ビシュトリア要塞とコロニー1を統括する、宇宙連邦議長国レザリア王国航宙軍所属の林大輔中将だ。まだ二十歳でありながら、中将まで登り詰めた天才。
そんな彼は、部屋に入ってきたユリーシャと琴音の顔をじっと見つめる。
「よく来てくれた。ようこそ、コロニー1の宇宙要塞ビシュトリアへ。……って、言ってもうちはこれしかないんだけどね」
鼻頭を掻いてクスクスと笑う。少年のような仕草を見せる大輔を前に、ユリーシャが姿勢を正す。
右手を挙げ、左手で拳を作って左胸の前へ。宇宙連邦式の敬礼で着任の挨拶を行う。
「ユリーシャ=レイス。本日より、ここコロニー1に配属変更と……」
「はいはいはいはい」
「ストーップ!」
だが、その挨拶は大輔と琴音に遮られた。まさかの出来事に、ユリーシャは目を白黒させる。
「え? あの……?」
「あのさぁ、ユリーシャ姉」
「うん、堅い」
「堅い!?」
大輔の口から飛び出した単語に、ユリーシャが眉をひそめた。ユリーシャからすると、いつもどおりの挨拶をしただけだったのだが。
この通り挨拶をしないと理不尽に怒りだす指揮官もいる。だからこそ所作には気を付けていたが、まさか堅いと注意されるとは思っていなかった。
やれやれと肩をすくめながら大輔がユリーシャに向かって喋る。
「僕たちはもう家族なわけさ。そんな他人行儀はやめてくれよ」
「はぁ……」
「そうそう。私なんて、大輔兄のプリン勝手に食べても怒られなかったし」
「あれ君だったのか! 犯人が分からないから何も言わなかっただけだ!」
目の前で繰り広げられる漫才とお説教を見て、ユリーシャは目を点にする。これが、ここでの普通なのかと思うと思わずクスッと笑ってしまった。
小さく吹き出したユリーシャを見て、大輔と琴音は安心したように微笑む。
「あっ、ユリーシャ姉が笑った」
「うん。君はやはり笑っていたほうがずっと可愛いよ。履歴書の写真を見たとき、仏頂面だと思ったんだ」
「そ、そうですか?」
そんな顔をしていたのかとユリーシャが自分の顔をペタペタ触る。その様子がツボに入り、琴音が笑う。
戦争中とは思えない穏やかな時間。大輔は、二人にソファーに座るように促した。
「いろいろ話を聞きたいところではあるけど……あまり待たせるといけないから移動しようか」
「移動?」
「大輔兄、どこ行くの?」
「アルフヘイム。ユリーシャの神型機を受け取りに行かないとね。あまり聖天龍様を待たせるわけにもいかないし」
大輔は、机の上に備え付けられていた放送機を取る。そして、要塞内全体に向けて指示を出した。
「これより、アルフヘイムへとワープを行う。近くのシートベルトを付けるように」
通信機を置き、椅子に座ってシートベルトを装着。それから、ユリーシャに向けて言った。
「神型機については、移動しながら説明しよう。さぁ、早く準備してくれ」
「あっ、はい」
大輔に言われ、ユリーシャがソファーのシートベルトを付けた。ヴィシュトリアはすぐにワープ装置を作動させ、惑星アルフヘイムへとワープを開始する。
その道中、リラックスしながら大輔が説明を始める。
「さて、ユリーシャ。神型機を説明する前にきいておきたいことがある」
「はい」
「君は、勇者についてどのくらい知っている?」
「えと……世界樹から力を借りて戦う少女たちのこと……」
「うん。なら、説明も早いよ」
一呼吸置いて、大輔が手元の端末を操作する。部屋の中央に戦闘機のホログラムが浮かび上がった。
「神型機は、簡単に言うと勇者の戦闘機バージョンみたいなものだ。世界樹の力を宿した神の機体」
「え、すごい……!」
「これならば、ドラムグード戦闘機が展開しているシールドも容易にぶち抜ける。まさに空の勇者ってところだな」
「ユリーシャ姉は一般機でそのシールド破ってたけどね……」
呆れたような、感心したような声音の琴音。大輔は、苦笑いで答えつつ続きを話す。
「まぁ、こいつも勇者と同じく適性がないと操れない。難点だよなぁ」
「でも、多分ユリーシャ姉なら大丈夫でしょうね」
琴音が朗らかに笑った。
ユリーシャは、大輔の話と琴音の機体を思い浮かべてワクワクする。自分だけの機体、それは一体どんなものなのだろうと。
その後、三回ほどワープを繰り返したヴィシュトリア。最後のワープを終えると、目の前に雄大な緑の惑星が見える。
これが、目的地。宇宙連邦理事国で、世界樹を有する連邦最大級のエルフの惑星――アルフヘイムだ。
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