アルフヘイム
誘導に従って宇宙港に着陸する。さすがに、要塞ごとは不可能だったので宇宙船に乗り換えての着陸だが。
船を降りたユリーシャは、髪を揺らす心地よい風と光に目を細めた。豊かな自然が育む空気に、思わず目を奪われる。
アルフへイムの双子星に王都があるレザリア王国の主星、惑星レザリアには何度も足を運んだことがある。だが、隣のここアルフへイムに来るのは初めてだった。噂通りの雄大な自然に感動してしまったのだ。
大自然とともに歩む豊かな町は、心を落ち着かせる不思議な空気を発している。森の中に作られた神秘的な町を歩くエルフたち。なにもかもが幻想的だ。
その光景に見とれてしまうが、琴音に腕を引かれてユリーシャが我に返る。
「ほら、行こう? 聖天龍様が待ってる」
「分かりました」
大輔と琴音に続いて歩き出す。彼女たちの目的地は、アルフへイムにそびえる大木――世界樹だ。
この世界樹は、勇者たちに力を与える光の大木。宇宙創世と同時に発芽し、今日まで成長を続けてきたと伝わっている。その内部は多重異次元構造になっており、無限にも等しい空間が広がっている。そしてそこには、多くの聖天龍たちが暮らしていた。
その世界樹からユリーシャの神型機を授かるべく、一行は世界樹の麓までやって来た。
根元に空いた空洞。そこの番をする巫女と会う。
「よくぞいらっしゃいました。ユリーシャ様の機体はすでに用意されています。心のままにお進みください」
巫女に入ることを許され、中へと入っていく。奥に広がっていたのは別世界だった。
薄暗い樹木の中……などではなく、眩しい日差しが差し込み緑の絨毯が一面に広がる美しい平原。巨大なドラゴンが自由に飛び回ることができるほど広い空間がそこにはある。
しかし、一層上がるとまた別の世界が広がる。そこは、壁から生えた枝に様々な種類の多くの花が咲き乱れている不思議な場所だった。
「薔薇と桜とタンポポが同じ枝から生えてるなんて、不思議……」
「ああ、それは勇気の花だよ。私たち勇者の力の源だね」
ユリーシャたちに声を掛ける者がいた。彼女は、この場所で仕事をする巫女たちと一緒にユリーシャたちへと近づいてくる。
「空軍の制服だね。貴女たちのおかげで、私たちは爆撃を気にせず戦えるよ。ありがとう」
「どういたしまして。あの、貴女は?」
「私? 私はマリア=ハートフリーデン。特祭隊で
特祭隊とは、大勢の勇者の中でも選ばれた十人が任命される勇者の中の勇者の部隊のことだ。彼女たちこそ、宇宙連邦の陸上戦力における切り札であり、最後の希望。まさに精鋭だった。
マリアは、ユリーシャたちの隣に立って花を見上げる。
「私たち勇者が一人生まれると、花が咲くの。花は私たちに力を与えてくれて、私たちが死ぬと花も散る。あれはね、私たちの生存証明もしてくれるのよ」
「そうなんですか……」
「ええ。あ、ごめんなさいね呼び止めちゃって。用事を済ませて。貴女たちのこれからの健闘を祈るわ」
マリアは、巫女たちと作業に戻った。ユリーシャは大輔に連れられさらに上の階層に昇る。
やって来たのは、水晶が生えた空間だった。広大なその空間の中央に、ピンクの戦闘機が置かれている。
三人が到着すると、戦闘機の奥から老婆が歩いてきた。大輔と琴音が跪き、琴音が腕でユリーシャも跪くよう促す。
「よく来てくれました三人とも。大輔くんと琴音ちゃんは久しぶりですね。ユリーシャちゃんは初めまして。私は聖天龍王ミルシアです」
聖天龍たちを束ねる女王自ら挨拶に来た。その事実に、ユリーシャの開いた口が塞がらない。
ミルシアが三人を流し見る。そして、ユリーシャに視線を向けるとにっこり微笑んだ。
「これが、貴女の新しい翼。闇を打ち払うための希望です」
「これが、私の神型機……!」
「はい。期待していますよユリーシャちゃん。貴女が我らの光とならんことを」
壁が開いた。明るい陽光が差し込んできて、機体の輝きをより強くする。キャノピーが開き、地面から蔦が生えて階段を作った。
ユリーシャの肩に大輔が手を置く。
「ユリーシャは先にヴィシュトリアに戻っていてくれ。僕たちは船で帰る」
「分かりました」
「ユリーシャ姉、また後でね」
「はい。また後で」
二人に背を向け、ミルシアに深く頭を下げて戦闘機に乗り込む。初めて触れる機体だというのに、自然と操作方法は理解できた。手際よくエンジンをかけていく。
ヘルメットを付け、機器を確認して推力を生み出していく。
「ユリーシャ=レイス。クリアード・フォー・テイクオフ」
勢いよく空へと羽ばたく。世界樹から外へと飛び出し、機体を垂直にして成層圏で待機しているヴィシュトリアへと進路を固定する。
飛んだ軌道から今までの戦闘機とは性能が格段に違うことが分かる。ここまで飛べたら、かなりの適正があると判断していいだろう。
あっという間にヴィシュトリアの格納庫に到着する。専用のスペースに着陸すると、手が興奮で震えてきた。
この機体なら、自分一人でも戦うことができる。仲間を失わずに済む。
そんな想いと闘志が、胸のうちに炎として燃え上がっていた。
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