出撃

 ビシュトリア要塞に帰還したユリーシャ。整備班の子達に神型機の整備を任せ、自分は大輔たちを乗せた船が帰ってくる予定の発着ゲートに移動する。

 途中、琴音を慕う何人かの子供たちと合流し、大所帯でゲートで待つ。

 やがて、アルフヘイムから一隻の船が帰ってくる。行きに使った船だ。

 到着した宇宙船の側面扉が開く。空気圧ロック解除のために白煙が吹き出し、ゆっくりと扉が開かれ階段が伸びる。階段を急ぎ足で駆け降りてくる琴音。彼女は、待っていたユリーシャに飛び付いた。


「ユリーシャ姉! 私のこと待っててくれたんだ!」

「ええまあ。あの、危ないので勢いよく飛び付いてこないで」

「いいじゃん。あっ、もしかして飛んでいる時にやればよかった?」

「死ぬつもりですか?」


 ふざけたことを言っている琴音を剥がし、改めて船を見る。階段には、やれやれと首を振る大輔がいた。


「さて琴音。これからユリーシャにいろいろと案内するから借りてくよ」

「あっ、なら私も行く!」

「琴音には仕事を頼んでるだろう」


 不機嫌そうな琴音を置き、大輔とユリーシャは発着ゲートから出ていく。いくつもの区画を抜けて向かう先は、ビシュトリア中枢にある機密部屋。各所への指示出しや戦況コントロールを行うセントラルルームと名付けられた部屋だ。

 室内に案内されたユリーシャ。彼女はそこで、自分とほぼ同年代らしき男性と会った。


「ユキヒラ。彼女がユリーシャだ。仲良くしてくれ」

「了解。ユリーシャ姉さんよろしく。僕はユキヒラ、ビシュトリアの戦術班班長だ」

「よろしくお願いします。私はユリーシャ=レイス。あの、姉さんとは?」

「僕はユリーシャさんより一歳下ですから。でも、年上だからって任務中は敬語とか使いません」

「私に敬語は不要です。ですが、任務中に関わることが?」


 疑問を浮かべるユリーシャに、大輔はハッとして笑う。


「そういえば言い忘れていたね。ユリーシャ。君は航空隊の隊長を琴音から引き継いでくれ。彼女は副隊長として君の支援に回す」

「は、はい……」

「航空隊は戦術班から目標の指示を受けることが多いからね。あまり関係にヒビをいれないでくれよ」


 ハハハと笑いながら二人の握手を取り持つ大輔。ユキヒラとユリーシャは、ぎこちないながらも握手を交わす。

 そのままセントラルルームにいる他の人たちとも交流しようとするが、話しかける前に要塞内に警報装置が鳴り響く。


『緊急事態発生。総員、第一種戦闘配置。繰り返す。総員、第一種戦闘配置』

「は!? ここは連邦領の奥深くだぞ!? どうしてここまで侵入を許した!?」

「それを考えるのは後だ! ユリーシャ、君は第二格納庫へ急げ! 他は全員持ち場につけ!」

「「「了解!」」」


 緊急発進の手順は体に染みついている。ここでもそれは変わらず、ただちに自分の神型機がある格納庫へと走って行く。

 途中、同じく第二格納庫に神型機がある他の航空隊員たちとも合流する。皆、軽い会釈程度で搭乗を最優先に行動する。ヘルメットを引ったくるように整備員の子からもらい、耐Gスーツに慌てて袖を通す。コックピットに掛けられたハシゴを駆け上がり、キャノピーを閉じてセントラルルームからの通信チャンネルをオープンにする。


「こちら航空隊隊長ユリーシャ。搭乗完了。命令と現在状況の伝達を」

『命令あるまで待機。現在、ビシュトリアから18光秒先のポイントにワープアウト反応を確認。敵、ドラムグード王国艦隊です。マシンタイガーが二隻、マシンホエーラ一隻の小隊規模』


 虎のような形状の大型戦艦であるマシンタイガーと、鯨のような形状の超大型戦艦マシンホエーラ。たった三隻の敵艦隊ではあるが、この小隊規模の敵軍にこれまで連邦艦隊はかなりの被害を与えられてきた。

 ユリーシャ自身、何度も味方艦隊が沈められる光景を見てきた。そのため、緊張が走り操縦桿を握る手が汗ばんで震える。


『――緊張してるのかい?』

「っ! 大輔さん。分かりますか?」

『進行安定翼が小刻みに揺れている。操縦桿が震えてる証拠だよ』

「……すいません」

『気にしない。さて、ビシュトリアの力を見せてあげよう。ユリーシャ、発進してホエーラの弱点部分を精密照準合わせてきてくれ』

「了解しました」


 ユリーシャの機体が射出装置とドッキングする。後はユリーシャのタイミングでいつでも発進可能だ。

 大きく深呼吸をし、頬を叩く。


「ユリーシャ=レイス。発進します!」


 ボタンを押して勢いよく宇宙空間に飛び立っていく。遥か先に見える艦影――ドラムグード軍を睨みながら、操縦桿を大きく前へと倒した。

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