戦闘
マシンホエーラ第一指令室。ドラムグード王国の軍服に身を包んだ男がモニターを見る。遠くに映るビシュトリア要塞を鋭い目で睨んだ。
「あれがそうか?」
「はい。報告された要塞とは間違いなくあれでしょう」
「第507航宙戦闘中隊を撤退させた要塞か。ふんっ、相手にとって不足なし。艦隊、前へ!」
マシンタイガー二隻とマシンホエーラが前進する。主砲を起動し照準を合わせていると、船のレーダーに反応があった。
「オイゲン艦長。敵の戦闘機が接近してきます」
「なに?」
マシンホエーラの艦長がレーダーを確認する。そこには、確かに接近してくる戦闘機が映っていた。しかし、その数は一機。
「戦闘機一機でか?」
「そのようですね」
「なんのつもりだ?」
戦闘機一機でマシンホエーラに向かってくるなど、単なる自殺行為。パイロットの考えがいまいち読めなかった。
呆れながらも対空装備を起動させる。その瞬間、戦闘機が加速してさらに距離を詰める。
「……目標加速。向かってきます」
「はっ、馬鹿げている……」
苦笑を漏らしながら、マシンホエーラの艦長が攻撃開始の命令を下した。
◆◆◆◆◆
砲身にエネルギーが蓄積されていくのを確認したユリーシャは操縦桿を握る手に力を込めた。
操縦桿を倒して機体を左に傾ける。直後にマシンタイガーやマシンホエーラの対空装備が煌めき、エネルギー弾を撃ちだしてきた。
射線を読んでいたユリーシャは難なく攻撃を回避。機体を回転させながら射撃し、まずマシンタイガー一隻の対空装備を破壊した。
ホエーラから飛ばされたホーミングビームに追われながらも次の目標を狙う。もう一隻のマシンタイガーの装備も破壊したかったが、それより先にマシンホエーラのホーミングキャノンを潰すことにした。
追跡してくるビームを引き連れてマシンホエーラに接近。そのまま突進して激突の直前に機体を急上昇させた。
ユリーシャの機体を追っていたホーミングビームはその急な方向転換に付いていけない。勢い余ってホエーラの船体に命中、ホーミングキャノンを破壊した。
「よしっ!」
『うわぁ……やるぅ!』
どことなく呑気な琴音の声が聞こえた。
『ユリーシャ姉流石だね。あっ、こっちは今から発進するから』
「了解。……おっと、団体様が来たので注意を」
ホエーラの下腹部にあたる場所が開き、多数の戦闘機が発進してきた。ドラムグード王国が使うなんの変哲もない一般戦闘機、通称バトルファルコンだ。
特別なカスタマイズは一切されていないバトルファルコンはシールドも火力も弱く、この程度なら連邦の一般機でも墜とすことができる。しかし、バトルファルコンの厄介な点は無人飛行できるがゆえに数だけは多いという点だった。
単調な動きで襲いかかってくる。ユリーシャは攻撃を巧みに躱しながらチャンスを伺い続ける。
見切ったタイミングで機体を反転。機関銃を掃射して突出していたファルコンを叩き落とした。
「すごい……! タイムラグがほとんどない……」
一般機で同じことをやれば必ず遅れが生じる。それを見越して早めに行動したのだが、想像以上に早く反転でき驚いている。
敵機の一部に乱れが生じたのをユリーシャは見逃さなかった。
無人機のコントロールは近くにいる有人機が行っている。その有人機を撃墜すれば、その機体が担当している無人機は制御を失って行動を停止するのだ。
ユリーシャの攻撃を受けても動揺することがなかった機体が無人機。少し動きを乱したのが有人機。判別することができた。
無人機は一切無視して有人機を狙う。下から胴体を食い破るように機関銃を発射した。
敵機はバンクして攻撃を回避するが、間髪いれずに翼下のミサイルを撃つ。
回避行動の直後だった敵機にこれ以上避ける余裕はない。ミサイルはコックピットを直撃して爆破、墜落させた。墜ちた機体が操っていた機体が動力を失って宇宙空間を彷徨い始める。
撃墜を軽く確認すると次の敵機に狙いを変更する。残る有人機は二機。この二機もさっさと仕留めてしまおうと速度を上げる。
想像以上に自分たちが追い詰められていることに気がついたバトルファルコン二機が慌てたような飛び方をしている。尾翼のランプが輝きを失い、無人機たちの動きが一斉に停止した。コントロールに回していたエネルギーをすべてカットし、動力に回すことにしたようだ。
しかし、その程度ではユリーシャからは逃げられない。両翼のミサイルが敵機を射程に捉える。
二機のバトルファルコンが最後の足掻きに特殊なミサイルを発射。直後に撃墜された。新たに複数の神型機が駆け抜ける。
『お待たせ~。琴音とうちゃーく!』
『バカ言ってないで回避して琴音姉ちゃん。ニンジャは琴音姉ちゃんを狙ってるよ』
『ええっ!? 誰か助けて~!』
軌道追跡型ミサイルニンジャ。ドラムグード戦闘機に搭載されたミサイルの一種で、手裏剣のような形状とロックオンした目標に命中するまで追いかけ続けるたちの悪さが特徴的。
今、そのミサイルが琴音の機体を追跡している。ユリーシャであればある裏技を使うため脅威でもなんでもないが、琴音はどうかは分からない。故に、琴音がやられる前にミサイルを破壊する。
響きは恐ろしいがその本質はターゲットが飛んだ軌道からコースを予測して飛び続けるミサイルだ。そのため、狙われているものの軌道が読めれば射撃は簡単。即座にユリーシャが機関砲を撃ってニンジャを二つとも破壊した。
『助かったよユリーシャ姉!』
「いえ。それより、琴音たちは残党を警戒していてください。精密照準は私が」
それだけ言って一人マシンホエーラへと向かっていく。後方にあるエンジン付近めがけて速度を上げていった。
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