決着
マシンホエーラに接近するユリーシャ。破壊し損ねた対空砲台が一斉に狙ってくるが、的確な回避と射撃で被害は一切ない。砲撃をかいくぐってエンジンがあると思われる場所の外装に照準を合わせる。コンピューターに細かな修正は任せ、情報をビシュトリアへと転送した。
「精密照準完了!」
『了解。さぁ、爆発に巻き込まれないように気をつけてよ。鯨狩りだ!』
どことなく楽しそうな大輔の声。とりあえず、ユリーシャはマシンホエーラとマシンタイガーから距離を取った。
送られてきた情報を読み取り、ビシュトリアの主砲が起き上がる。砲身にエネルギーを蓄積してマシンホエーラめがけて発射した。
『主砲発射!』
「大丈夫ですか? ホエーラのシールドは……」
『心配ない。ビシュトリアの力を見せてあげるって言ったろ?』
一射目がホエーラのシールドに直撃。まるでガラスのように簡単にシールドを破壊した。直後に飛来した二射目が精密照準を合わせた場所に寸分の違いなく直撃する。
外装を貫いた砲撃はマシンホエーラのエンジンを直撃。すべてのエネルギーを生み出している魔導波動コアを暴走させた。それに加え、エネルギーの安定を補助するサブサポートコアまで破壊。すでに生成されていたエネルギーまで暴走させ、エンジン内圧力が急上昇していく。
やがてそれは臨界点を迎える。そうなってしまえば後は早かった。エンジンが暴発し、各回路を通じて船全体に爆発が広がり、マシンホエーラを吹き飛ばした。そしてその爆発は近くにいた二隻のマシンタイガーも巻き込み爆発させる。
これまでいいようにやられるしかなかったドラムグード艦隊が沈む。二回目でもその感動は薄れることがなかった。背後に広がる爆炎に見とれてしまう。
「すごい……」
『そうだろうとも。ビシュトリアならドラムグード艦隊にも勝てるさ!』
『それに、私たち航空隊もかなり強いから敵戦闘機にも負けることはないしね!』
『ドラムグード艦隊に勝てるのだから、ガトランティア皇国にも負けることはない。宇宙最強は私たち』
『椿の言うとおりさ。……でも、さすがにオン・ゾ・エーグみたいな常識外れの船と戦ったことはないからそこら辺はなんとも……』
「ですが、小隊規模の敵軍を単独で撃破できるビシュトリアはやはりすごいです。希望と言われるだけのことはあります」
撃沈すること自体が奇跡と称され、これまで撃沈に成功した例は数えるほどしかなかったマシンホエーラを目の前で沈めて見せた。その事実から偽りのない本心を口にする。
通信機から複数の笑い声が聞こえてくる。自分の発言におかしなところでもあったのかとユリーシャが首を傾げた。
「どうされました?」
『いや、正規の軍からうちにきたのはユリーシャ姉が初めてなんだけど、そこまで感激するとは……』
「おかしいですか?」
『ううん。新鮮なだけ』
「そうですか。それならよかった……」
『うんうん。ところでユリーシャ。君、資料にもあったけどまた単独行動したね? ちゃんと皆と協力してくれよ?』
『そうそう! 私たちのこと無視して勝手に飛んでいったでしょ! 危ないからねそれ!』
「ですが、生き延びたからいいじゃないですか。協力については前向きに考えます」
『本当かな~? いつか墜ちそうで怖いよ』
本気で心配する琴音の声を聞き流す。新しい仲間と出会い、今は亡き親友のナタリーとの言葉を思い出して自分の行動を変えなければとは思うのだが、恐れと慣れから変えることができない。
とにかく今はビシュトリアに帰還することにする。漂う無人のバトルファルコンをかわして、時には撃ち落として安全に飛行できる道を作って帰る。
第二格納庫にドッキング。機体から降りてヘルメットとスーツを脱ぐ。
次々と帰ってくる機体たちを見て目の奥が熱くなるのを感じた。これまでは出撃するとナタリーの戦闘機一機しか帰ってこなかったので、こう仲間が無事に帰還する光景は感慨深い。
思わず目元を拭うと、背中に衝撃が走った。
「お疲れユリーシャ姉!」
「……琴音。離れてください」
「いいじゃないのよ。……あれ? もしかして泣いてる?」
「気のせいです。さて、報告に行きましょう」
足早に格納庫から出ていく。自分の心の変化に少し戸惑いながら、きっとこれは自分にとってプラスになると信じて。
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