次なる一手
連邦領とドラムグード領の境界線にある惑星――クジャーナ。連邦軍が防衛していたこの星の首都は、今や炎に焼き尽くされていた。
空に浮かぶ無数のマシンタイガー。そして、それらの船を統率する黒いマシンホエーラによってクジャーナにあった都市は悉く焼き払われた。脱出に成功したわずかな宇宙船に乗った数千人を除く、数億の命が奪われてしまった。
そのマシンホエーラのとある一室。拷問部屋のような場所に何人かの人物がいる。ここでさらにもう一つ命が奪われた。
軍への指揮権を持つという意味合いのマント付きのドラムグード王国軍服を着た男が、レーザーナイフで椅子に拘束していた男の首を切り裂いた。動脈を切断され、大量出血により男は死亡する。殺された男は、クジャーナ防衛軍の指揮官だった。
荒い息づかいで肩を震わせるドラムグード王国の男。深呼吸を繰り返している。そこに、直属部下の一人が新たに入ってくる。
「失礼します」
「はぁぁ……なんだ?」
「オイゲン小隊の轟沈信号を確認しました。恐らく、例の要塞に沈められたかと」
「そうか。……おい君。このナイフを片付けておいてくれ」
たまたま近くを通りかかった兵士にレーザーナイフを渡す男。彼はドラムグード王国第三軍総指揮官という肩書きを持つ、デンゼル=ケーニッヒという人物だった。
デンゼルは、侍らせていたメイド型アンドロイドからお酒を受け取って呷る。その間に部下たちが男の死体を部屋から運び出し、成層圏の高さから死体を放り捨てた。
帰ってきた部下たちにも酒をつぎ、反省したようにデンゼルが笑う。
「ダメだな。短気な性格がまだ直らない。ついカッとなってしまった。貴重な情報源だったのに、うっかり殺してしまったよ」
「仕方ありませんよ。デンゼル様の質問に答えないのが悪いです」
「そうか、そうだよな! それが悪いよな! おっとそうだ……えーと、オイゲンたちがやられた話だったな」
口元を拭って壁面の端末を操作する。部屋が暗くなって中央にホログラムが映し出された。宇宙空間の航路図のようで、クジャーナからとある星まで一本の線が引かれていた。
「ワープエネルギーを探知した。恐らく連中の拠点はここだ。映している航路をたどれば、アホ共に気づかれることなく侵攻できる」
「素晴らしいですね。ですが、次の部隊はどうしますか?」
「何を言っている? 戦力を考えるに、私自ら相手をしてやる。アビスホエーラの火力で一気に焼き払ってくれるわ。それと、保険として超装甲強襲艦と覇剣射出砲も用意してくれ」
「了解」
「作戦開始は五日後とする。早く準備しておいてくれ」
デンゼルの指示を受けた部下たちが早速行動を開始する。第三軍が本拠地にしている惑星に必要戦力の伝達を行うために通信室に走って行った。
デンゼルはその場に残って窓から燃える町を眺める。中々に悪趣味な酒のお供を楽しんでいると、部下の一人が複数の兵士を引き連れ部屋に入ってくる。兵士はボロボロの少女を連れていて、その少女を部屋にあった椅子に拘束した。
「失礼します」
「やぁゲルーガ! 大丈夫か? 腕を怪我してるじゃないか。悪かったなぁ、地上制圧を任せてしまって」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。まさか勇者がいるなどと思わなくて」
「勇者! そいつはいけない。で、その勇者はどうした?」
「こいつです」
部下が少女を指さす。デンゼルは少女の前まで歩いていくと、腹部に強力な蹴りをくらわせた。
「がはっ……」
「部下を傷つけるのは非常によくない。これは許されないぞ。どう責任を取るつもりかな?」
「うる……さい……」
「口が悪いな。可愛げのない」
デンゼルは運び入れたパイプ椅子に座る。新しく酒をついで一気に飲み干した。
「ただ、今の私は機嫌が良い。私の質問に答えてくれるなら君を許して解放すると約束しよう」
「拷問でも……するつもり……?」
「いやいや。平和的に質問するだけだよ。言ったろ? 私は機嫌が良いんだ」
デンゼルの言葉に部下が苦笑いを浮かべる。こういうときのデンゼルは本当に機嫌が良いのだが、その後どうなるかまでは結果が見えていた。
パイプ椅子から立ち上がり少女に顎クイをする。デンゼル自身は穏やかと思っているが、他人からすると不気味な声音で質問を投げかける。
「では聞こう。今現在の連邦軍の艦隊の運用状況はどうなってる?」
「!? そんな機密……漏らすはずない……」
「困ったなぁゲルーガ。答えてくれないよ。もう一度聞くけど……これで私が満足しなかったらあとがないぞ」
「……くっ……」
「連邦軍の艦隊は、どこら辺にどのくらいいるんだ?」
「……教えるものか……絶対に!」
デンゼルがコップを投げつけた。部下を突き飛ばして腰に帯びているレーザーブレードを奪うと、スイッチを入れて少女の胸に突き刺した。その後兵士からビームライフルを奪い、頭を狙って何発も射撃する。
少女を殺したデンゼルが部下と兵士の顔を見て笑った。
「またやっちゃったよ。この癖直したいんだけどね。……あぁ、悪かったね」
奪った武器を持ち主に返す。そして、少女の死体を捨てるように命じてから自分の部屋へと帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます