休息

 格納庫を出たユリーシャは、大輔の部屋に向かった。そこで簡単に戦闘報告を行って部屋を出て行く。

 扉を閉めて振り返ると、琴音を含めた数人が立っていた。全員が空軍の制服を着ている。


「皆さんお揃いで。どうしました?」

「ユリーシャ姉に部屋とか要塞内の案内をしようと思って。ほら、途中で敵襲があったからまだ見せてないところ多いでしょ」

「そうでしたね。お願いします」

「任された! でも、案内するのは主に娯楽関係だから、軍事関係の部屋は後で大輔兄に教えてもらってね」


 元気よく歩き出す琴音にユリーシャが付いていく。と、そこで当然の質問を琴音に投げかける。


「ところで、この子たちは?」

「あ、そうだった! 忘れてた」

「琴音姉ちゃんの鬼。信じられない」


 冷たく言い放つ少女。この声は先ほどの戦闘で通信機越しに聞いた声だとユリーシャは思い出した。


「全員、さっき出撃してた……」

「そう。椿と澪とルーヴェル」


 琴音に背中を押されて三人が前に出る。椿と呼ばれた先ほどの少女から順に自己紹介が始まる。


「花園椿少尉です。緑の神型機、ナチュレのパイロット。年齢は十二。一緒に琴音姉ちゃんの制御を頑張りましょう。ユリーシャお姉ちゃん」

「ナチュレ?」

「自分の神型機はコールサインを自分で決めることができます。ユリーシャお姉ちゃんも後で戦術班にコールサインを伝えておいてくださいね」


 自分の機体の呼び方を決めることができるとは面白い。ユリーシャが少し楽しそうな感じで体を揺らす。尤も、彼女のネーミングセンスは中々のものだとナタリーが笑っていたが。

 椿が一歩下がると次の人物に紹介が移る。


「え、えと……岩白澪少尉候補……です。今年で、その、十歳になります。機体は……銀色のメタリオンです。その、よろしくおねがいしましゅ!」


 セリフを噛んでしまったことが恥ずかしくて顔を真っ赤にする澪。恥ずかしがり屋の彼女は顔を両手で覆ってさっと琴音の後ろに隠れてしまった。

 澪と入れ替わるように少年が歩み出る。


「僕はルーヴェル=マックナード。階級は少尉です。機体は灰色のパンサーで、年が十六。よろしくね、ユリーシャ姉さん」

「皆さん若いですね……その年齢でそんな階級まで……」

「神型機のパイロットは選ばれただけで階級上がるよ。後は一年間の戦績でみんなここまできたんだよ」

「ちなみに、ユリーシャ姉の階級も上がってるよ。確か今は大佐だったかな?」

「はい!? 聞いてません!」


 中佐からいきなり階級が上がった大佐になっていたことに驚きを隠せないユリーシャ。珍しく慌てた感じの彼女を見て琴音が笑う。

 笑われたことに怒り、頬を膨らせる可愛い反応をするユリーシャ。すると、ふと琴音の年齢を聞いてないことに気がついた。


「そういえば、琴音って年はいくつなんですか?」

「言わなかったっけ? 先週十七になったよ。そういえばユリーシャ姉も聞いてない!」

「言いませんでした? もうすぐ十九です」

「これは……案内の前に改めて自己紹介しちゃいますか!」


 琴音がユリーシャに抱きついた。迷惑そうな顔をユリーシャが浮かべるが、琴音がそんなこと気にするはずがない。


「天谷琴音! 階級は中尉で、ビシュトリア航空隊の副隊長! 私の機体は白のスノーバードだよ。先週十七歳の誕生日を迎えて、大好きなものはユリーシャ姉のおっぱい!」

「最後の一言は完全に不要ですね」


 琴音の戯れ言をバッサリ切り捨てるユリーシャ。歩く下ネタ発言機に一々相手していてはキリがない。そう思っての言葉だ。

 だが、自己紹介をしようという琴音の提案には賛成だ。ユリーシャが佇まいを直して敬礼を――、


「だぁーっ! もう!」

「ユリーシャお姉ちゃん、堅い」

「す、すいません。やはりまだ慣れなくて……」


 体に染みついた動作はつい出てしまう。意識しながら癖が出ないように、それでもぎこちない動作で手を差し出す。


「ユリーシャ=レイス。十八歳の大佐です。ビシュトリア航空隊の隊長をやらせてもらいますので、よろしくお願いします。機体は桃色の……ハートピーチです」

「ぷっ! ハートピーチって!」


 壊滅的なユリーシャのネーミングセンスに琴音が噴き出した。見ると、椿たちも笑いを必死に押さえようと肩を震わせていた。頬を赤くして口元を押さえる姿に、ユリーシャが困惑の表情を浮かべる。

 笑いながらも琴音は廊下の奥を指差した。


「じゃあ、ユリーシャ姉のことも改めて知れたから、ビシュトリア見学ツアーに行きましょうか」

「覚えておいて。これから使うかもしれないから」

「じゃっ、行こうか」

「あ、案内……します……」


 四人が歩き出す。彼女たちに遅れないよう、ユリーシャも付いていくのだった。

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