迎え
作戦を終え、基地に帰投したユリーシャ。出撃前に比べ、無事に生還した友軍はかなり減っていたがそれでも、全滅などという最悪の事態は回避していた。
それに、戦線も無事に維持ができている。ドラムグード艦隊を相手にしたと考えると、これ以上ないほどの戦果。
キャノピーを開放し、ユリーシャが機外に降りる。格納庫に降り、ふと周りを見渡した。
空で助けてくれた機体のパイロットにお礼を言いたい。その一心で探すも、格納庫に帰ってきたのは黄色のカラーリングをした一般機ばかり。あの白い輝きの機体はどこにもなかった。
ユリーシャが手近な整備員に声をかける。
「あの」
「なんですか? 今忙しいので、手短にお願いしたいのですが……」
「それはごめんなさい。白いカラーの機体はどこに?」
「白いカラー? そんなの、うちの基地にいませんよ?」
「え? ……ありがとう、ございます?」
とりあえずお礼を言って格納庫から離れる。その間、ユリーシャの頭を疑問符が駆け巡っていた。
この基地に白いカラーの機体はいない。では、あの機体はなんだったというのか。
本部庁舎に入る。乗ってきた機体は左翼を穿たれ修理が必要だ。このままでは元の基地に帰れない。
機体が直るまで時間はある。ならば、この基地の司令に話を聞いてみようと考えたのだ。
庁舎の中を歩いていく。エレベーターホールに向かおうとした時、ユリーシャの耳に騒がしい声がはいってきた。
「だーかーらー! どうしてそんな嘘をつくの!? 私、この目で見たんだから!」
「いやいやいやいや、そうは言われましてもほら。データには載ってませんから」
「緊急の増援だったんでしょ!? そんな手続きしてるわけないじゃん!」
トラブルらしい。触らぬ神になんとやら。ユリーシャは無視することにした。
だが、無視できない言葉が、基地の案内役のお姉さんに絡んでいた少女から放たれる。
「い、い、か、ら! 早くユリーシャ中佐を呼んできて!」
自分の名前を出されたユリーシャは、思わず動きを止めた。その後、一瞬だけ考えた後に少女の元に歩いていく。
「あの、私がユリーシャですがなにか?」
「え? ほらぁ! やっぱりいたじゃん!」
案内役のお姉さんにぐちぐちと文句を言って、少女がユリーシャに向き直る。
「初めましてユリーシャ中佐! いや、ユリーシャ姉! 私、コロニー1からの迎えで来た、天谷琴音中尉でーす! これからよろしくお願いします!」
「ゆ、ユリーシャ姉? ……あと、コロニー1は……」
ない。そう、コロニー1なんて部隊、存在しなかった。
異動を命じられて、ユリーシャは異動先について調べた。だが、データベースにコロニー1なんて部隊はなかったのだ。そのため、下された命令に不信感を募らせていた。
そんなユリーシャの様子に、琴音は笑う。
「そんな部隊はないとでも言いたいのでしょう? 当たり前でーす」
「ど、どういうことですか?」
「だってさぁ、一年前に新設された極秘部隊だもんねー。対ドラムグード王国用の特殊部隊!」
元気一杯の笑顔で、機密事項をペラペラ喋り出す琴音。それを聞いてたお姉さんとか、後で大丈夫なのだろうか? ユリーシャは思わずそんなことを思ってしまう。
が、そんなユリーシャなどお構いなしに琴音が手を引く。されるがまま、ユリーシャは外に引きずられていった。
基地の外れ、誰も寄り付かないような滑走路に連れていかれる。
「どこに?」
「私たちのホーム。あっ、ユリーシャ姉の戦闘機はここで引き渡しだから。ちょっと狭いけど我慢してね~」
そんなことを言いながら歩く琴音。やがて、たどり着いた先に置かれていたものを見て、ユリーシャが目を丸くした。
逆デルタの翼。白く輝く特徴的な機体。先の戦闘でユリーシャを危機から救いだしたあの戦闘機だった。
琴音がキャノピーを開け、コックピット内を弄っている。
「これ、パイロットは貴女だったの……」
「そうだよー。……ごめん、これ、食べてくれない? 二人分のスペース確保したいから」
琴音がクッキーの袋を差し出してくる。
コックピットになんてものを持ち込んでるんだというツッコミがユリーシャに浮かんだが、気にしたら負けと自分に言い聞かせてクッキーを食べる。
その後、ゴミやらお菓子やらを整理して二人分のスペースを確保した琴音。一方のユリーシャは、半ばキレ気味ではあったが。
琴音が操縦桿を握り、琴音の膝の上にユリーシャが座る。当たり前だが、狭い。
「キッツー……」
「すいません。ですが、貴女が言い出したので我慢を」
「そうだけどぉ……ユリーシャ姉おっぱい大きくない? もっと貧乳になってよぉ~」
「……セクハラで人事部に報告いれますよ?」
途端に顔を青ざめさせて黙り込む琴音。容赦ないユリーシャの一言は、相当堪えたようだ。
軽く滑走路を走ってテイクオフ。宇宙空間へと飛び立っていく。
「ところで、何時間飛ぶんですか?」
「ん? そうだなぁ……後、二十秒かな?」
「は?」
前方を見るユリーシャ。視線の先には、例の浮遊要塞が浮かんでいた。誘導灯を照らして琴音の機体を誘導している。
「まさか……」
「うん。あれがコロニー1の主力兵器ビシュトリア。宇宙要塞ビシュトリア」
巨大な要塞が迫る。
人員から兵器から何もかもが規格外の部隊を前に、ユリーシャは乾いた笑いを漏らすしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます