敵の侵入

 ビシュトリアのレーダーに引っかからないように飛び、要塞の一部に張り付くドラムグード王国の輸送機。護衛の戦闘機が離れていき、輸送機はハッチを開いた。

 ドラムグード王国の兵士が要塞の壁に爆弾を仕掛ける。魔法を使える兵士が爆発から自分たちを守る障壁を展開したところで爆弾を起爆し、ビシュトリア内部へと突入した。

 一方、ビシュトリアのセントラルルームでは当然敵兵の侵入を確認していた。その迎撃のために保安部隊を招集している。

 だが、大輔のその判断に待ったをかける存在がいる。偶然ビシュトリアに乗り込んでいた沙羅とルゥたちだ。


「ここは私たち勇者が」

「侵入方法を考えると、多分敵は魔戦軍も連れていると思うよ」

「狭い通路で火炎魔法でも使われたら大惨事になるし、電撃魔法を使われると避けようがない。ここは、私たちに任せてもらえない?」


 沙羅たちからの提案に大輔が頷く。

 念のためにブラスター銃も渡し、セントラルルームから出て行こうとする沙羅たちに大輔は一言。


「死なずに戻ってくるんだ」


 大輔からの言葉を聞いたルゥが親指をかっこよく上に向け、沙羅が笑って駆けていく。

 敵が侵入したのは居住区画の近くだった。そこまでの最短ルートを抜けて走る。

 セントラルルームから近くに反応があると報告が入り、警戒を強める。

 やがて、先に沙羅たちが敵を見つけた。武装したアンドロイドを先頭に進む一団を見つける。

 ルゥが先制攻撃を仕掛けた。雷撃魔法を放ち、アンドロイドの頭部を破壊して停止させる。


「今よ! 行って!」


 沙羅の合図で全員が敵に向かっていく。

 壊れたアンドロイドを盾にドラムグードの兵士も攻撃を始めた。後ろでは魔法使いが呪文の詠唱をしているのが見える。

 使おうとしているのは火炎魔法。広範囲を一気に焼き払うつもりだ。


「させないから! 奥は私が!」


 エネルギー弾を掻い潜って沙羅が敵の奥にいる魔法使いを瞬時に始末する。

 その調子で後ろから敵を倒そうとするが、直後に左から迫る不気味な音に意識を向けた。

 側転で攻撃を回避する。沙羅の首があった位置を赤い閃光が切り裂いた。

 沙羅専用の勇者武器、盾と槍を手に敵と向かい合う。赤いビームソードを構えた男の軍服にマントがあることを確認し、鋭い視線を向けた。


「お前……ドラムグードの指揮官ね……」

「ドラムグード王国第三軍陸戦軍部隊指揮官ゲルーガ=ダグクロフトだ。連邦の勇者よ。その命、私がもらい受ける」


 何人かの勇者が沙羅の支援に向かおうとするが、それを止めた。ゲルーガも同様に部下たちにルゥたちの排除を優先することを命じる。

 後方で射撃音が響くのを聞きながら沙羅とゲルーガがぶつかる。

 盾を魔力で保護してビームブレードの攻撃を弾く。特祭隊の勇者のため切断されることはないだろうが、念のためだ。

 ドラムグード王国のビームブレードは、強力な出力のものだと勇者の武器すら破壊する。魔力も流されるとさらに切れ味が増した。

 魔力で保護することで万が一の可能性も潰すことができる。それだけで安心度合いがまるで違う。

 硬い守りから突き出される強烈な一撃。それが沙羅の得意な戦い方だ。

 ゲルーガと沙羅では経験が違う。両者とも戦闘に出た回数は同じくらいなのだが、相手のレベルが違う。

 ゲルーガが命じられるのは主に掃討戦。だが、沙羅はでたらめに強い敵と何度も戦闘を重ねてきた。

 その差が今、ここにはっきり現れる。


「うぐ……っ! 押される……!」

「ここで倒す! このまま一気に!」


 沙羅が攻撃の間隔を詰めていく。

 盾を構えて守りながら走り、圧をかけながら接近して槍を突き出す。先端から電流が迸り、それがゲルーガの胴体を打ち据えた。

 瞬間的に電流が暴発してゲルーガを大きく吹っ飛ばした。壁に激しく衝突してビームブレードを取りこぼす。

 沙羅の後方で閃光が弾ける。ルゥが広域に展開した魔法ですべての敵兵を撃破したのだ。

 残っているのはゲルーガだけ。沙羅が近づき、首元に槍を突きつける。


「終わりよ。降参しなさい」

「……はっ。ドラムグード王国の兵士は捕虜にはならない。そうなればお前たちより先に味方から殺される」

「指揮官クラスなら、ドラムグードを知る上で重要な情報を持っているでしょう? レザリア王国かアルフへイムで身柄を拘束する。いくら邪神龍でもそこまで手出しはできない」

「優しいな。敵である私を救おうとするとは。が、お断りだ」


 ゲルーガが腰に手を伸ばした。腰に着けている丸い物体を捻ると、その物体が赤い

不気味な輝きを放ちながら点滅する。


ウィーアハイム・フィー・ドラムグードドラムグード王国に祝福を

「こいつ……! 即時退避!」


 電子手榴弾を起動したゲルーガから距離を取る。

 爆破圏外に全員が逃げた瞬間にゲルーガは自爆した。要塞の壁に大きな穴が空いてしまう。

 即座に手動で隔壁を閉鎖。これ以上の酸素漏れを防いだ。


「こちら沙羅。侵入した敵を一掃しました。死傷者はいません」

『ご苦労様。ただちに安全なところに』

「了解」


 セントラルルームとの通信を終え、沙羅はルゥたちを連れて退いていく。


 

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