決着へ

 敵機を撃墜したユリーシャが反転する。今の敵でもう空母三隻分くらいは敵を仕留めたはずだ。

 が、状況はユリーシャもあまり良くない。弾薬と燃料の残量を知らせる計器に注意を意味する黄色ランプが点灯している。

 通信機から琴音たちの声が聞こえてくる。状況は他も同じようだ。


『ごめんユリーシャ姉! こっちの残弾なし!』

『ごめんなさい。私も撃ち尽くした』

『私も、残弾ゼロ……』

『僕はもう燃料が……!』

「琴音たちはすぐにビシュトリアまで帰還! ここからは私たちで倒すから!」


 敵の被害を考えると、もうすぐ戦闘機を全滅させることができるはず。あと一踏ん張りというところで隊長の自分まで降りるわけにはいかない。

 そう思ったユリーシャが旋回してさらに一機撃墜する。


「レオネス! 美雪! 二人はまだ戦える!?」

『当たり前だ! 遅れてきたのに戦えないとか馬鹿やってねぇよ』

『燃料も武器も残ってる! まだまだ!』


 三機で敵陣に突っ込んでいく。

 弾幕の中を強行軍で突き進み、巧みな動きで弱点へと正確な一撃を打ち込み墜とす。

 黒い宇宙にカラフルな閃光が煌めき、直後に緋色の爆炎が明るく照らす。それはまるで長く続いた劇の終演を暗示するかのように。


『こちらビシュトリア。ユリーシャ姉さん聞こえる?』

「ユキヒラさん?」

『よし聞こえているな。ユリーシャ姉さんとレオネス、美雪姉さんの三機で敵の超装甲強襲艦に精密照準を合わせてほしい』


 指示を受けたユリーシャが前方を見る。

 アビスホエーラを守護するように佇む巨大な戦艦。本来はその防御力と突破力を活かして敵陣を粉砕する兵器なのだが、狙いがあるのか敵の指揮官が無能なのかアビスホエーラを守らせているだけで動かない。

 だからこそチャンスがある。厄介な敵戦艦をここで一隻撃沈しておきたいというのが大輔の考えだ。


『ビシュトリアの切り札を使う。エルフの皆さんが作り上げた究極魔導兵器さ』

「それなら?」

『ああ。超装甲強襲艦の装甲もぶち抜ける! そのために!』

「了解しました。二人とも、聞きましたね? 行きます!」


 フルスロットルで逃げれる分の燃料を考えて加速する。ユリーシャにレオネスと美雪の二人も続いた。

 何か狙っていると勘づいたのかマシンタイガーが密集して対空砲台を作動させる。ユリーシャたちを墜とそうと赤い光線が殺到した。

 機体すれすれを弾が飛んでいく。操縦桿をあと少し傾けていたら墜とされていたような難所をわずかな隙間を縫うように飛ぶ。追撃の敵戦闘機が砲撃に巻き込まれて木っ端微塵に爆散した。

 一瞬とも無限ともとれる時間。ようやくユリーシャたちはマシンタイガー艦隊から抜け出せた。目の前には対空レーザーを撃とうとしている超装甲強襲艦がいる。


「精密照準開始。以降の誤差修正はビシュトリアに任せます」

『了解。データ同期まで照準状態を維持せよ』

「了解」


 放たれるレーザーを回避しながら狙いを外さないように飛び続ける。

 先ほどの砲台よりも威力は高いが回避は容易い。危ない場面を迎えることなくデータが送られていく。

 やがて、キャノピーに『同期完了』の文字が映し出された。即座に三機が撤退行動に移る。


『確認。指定エリア外の安全地帯まで退避せよ』

「了解! 急ぐよ!」


 ユリーシャを先頭に操縦桿を押し込んでフルスロットルで逃げていく。

 超装甲強襲艦の装甲さえも貫くという兵器だ。逃げ遅れるとどんな目に遭うことやら。


 その頃、ビシュトリアでは準備が進んでいた。

 要塞がゆっくり回転し、目標の直線上になった段階で側面の一部が開く。現れたのは巨大な黒い砲門。

 砲門が伸びて小さな突起物が現れる。宇宙空間に満ちる魔力が吸い込まれるように集まっていき、突起物が紫色の輝きを見せる。紫電が迸り、先端からプラズマを発生させて突起物の交差点にエネルギーを蓄積していった。


「エネルギー充填80%。あと少し」

「敵艦、ビシュトリアの軸線に乗りました」

「ユリーシャ姉さんたちの危険エリア離脱を確認。該当範囲に友軍の反応なし」

「エネルギー充填100%! 発射可能です」

「誤差修正……完了。いつでも」

「よし。じゃあ、この馬鹿騒ぎも終わりにしようか!」


 大輔が深く腰掛けてシートベルトを着ける。放送で要塞内にいる全員に体の固定が命じられた。


「発射十秒前。総員、急激な加重に対応せよ。トリガーオン。遮光装甲展開、映像視界戦闘に切り替え!」


 最後の仕上げも終えた。大輔が引き金に指を添える。


「これでもくらえドラムグード! ダーインスレイヴ……発射!!」


 引き金を引いた。

 ビシュトリアの砲門が眩い紫の光を発する。蓄積されたエネルギーが一気に放たれ、極太のレーザーとなって超装甲強襲艦へと襲いかかった。

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