一進一退
「出力安定値に戻りました」
「ホエーラシャウト攻撃終了。敵戦闘機の機能停止を確認」
「空母艦隊へ連絡。ただちに航空戦闘団を発艦させろ」
アビスホエーラに搭載された兵器の攻撃が終わり、連邦軍の全戦闘機が機能を停止したところで下される追撃の命令。的確なタイミングで最善の指示を飛ばす部下たちを誇らしげに思いながら、アビスホエーラの館長席に座るデンゼルは軍の携行糧食を一口囓る。
正面大モニターに映し出される空母艦隊の様子。次々飛び立っていく戦闘機を見てほくそ笑んだ。
「いい調子だ。この分だと敵の全滅は時間の問題だな」
「ええ、その通りですね」
「あの要塞を吹っ飛ばしたら、このまま連邦本土まで攻め込むか? これだけの兵力を動かしてあれ壊して引き返すのもなぁ……」
「赤の邪神龍様から、『お前たちが行っても聖天龍に返り討ちに遭うだけだからやめておけ』と、数十分前に連絡がありましたよ」
「ちっ、明日葉様はお見通しってことかい」
悔しそうにしながらも愉快に笑う。上機嫌なデンゼルは、手元の端末を操作して連邦軍の戦闘機を映し出した。どれもエンジンが停止し、ドラムグード王国の戦闘機によって次々撃墜されている。
「たしか、連邦には一人面倒なパイロットがいたよな。えっと確か名前が……ユリリン? ルーシャ?」
「ユリーシャですか?」
「そうそれだ。あいつもいるのかねぇ?」
「どうでしょうか。ただ、あいつはバスラーさんが倒したいと張り切っていたようですから。うちで墜としたら恨まれますよ」
「第五軍のエースパイロットか。ハハッ、早いもん勝ちだ」
圧倒的優勢を確信して余裕を崩さないデンゼルと部下たち。メイド型アンドロイドにワインを持ってこさせる。
自分と部下たちにワインが入ったグラスを渡し、頭上に掲げる。前進した戦艦が連邦軍の護衛艦を沈めた瞬間に乾杯としてグラスをぶつけた。
「俺たちの勝利にかんぱーい!」
「早いですよ。それをフラグというんです」
「んなわけ……」
鼻で笑おうとするデンゼルだが、時を同じくして艦内の警報が鳴り響く。
「…………」
「フラグの回収ってとても早いんですね」
苦笑いの部下がグラスを置き、すぐさま状況の確認に動く。
楽しみを邪魔されたデンゼルが少し苛立つ。が、あくまで冷静さを保とうと頬をマッサージして笑顔を作りながらモニターを確認する。
映ったのは、船体から火を噴いて後退してくる味方艦隊。そして、敵を近づけさせまいと全ての砲台をフル稼働させる要塞の姿だった。
撃沈された船こそないものの、まともな戦闘ができないまで壊された船はたくさんあった。
こめかみに青筋を浮かべながらも戦況を見守る。直後、真っ赤な光がガラス越しに艦橋内を照らした。
「今度はなんだ!」
席を立って外の状況を見る。まず最初に見えたのは、真っ赤な閃光と色とりどりの発光体が飛び交う様子だった。
よくよく見てみると、真っ赤な閃光は覇剣射出砲の対空防御砲台が放つエネルギー弾で、色とりどりの発光体は連邦の戦闘機だった。
「はぁ!? どうして戦闘機が動けるんだ!?」
「デンゼル様!?」
「さっさとあの機体を調べろ! どうしてホエーラシャウトをくらってまだ飛べるんだよ!」
「た、ただちに!」
部下が慌てて端末を操作する。その間にも戦闘機は素早い動きで覇剣射出砲の周囲を飛び回って攻撃し、離れては再度隙を見て接近して射撃するを繰り返していた。
桃色の機体が放ったミサイルが射出砲の発射口を爆破する。これで一基が使い物にならなくなってしまった。
桃色の機体が引き下がると、今度は壊れた射出砲に向かって白と緑の機体が攻撃を仕掛ける。対空砲火を巧みに掻い潜って直上まで移動すると、機体から爆弾を取り出して投下した。
射出砲の装甲を貫いた爆弾は内部で爆発し、一基を完全に破壊する。その衝撃波でアビスホエーラも揺れた。
「ぐおっ!? おのれぇ……!」
「確認しました。あの機体、ここ最近投入された連邦の新型機のようですね。情報はまだ少ないです」
「うるせぇ知るか! エンジンの回転数上げろ! もう一度ホエーラシャウトを撃て! 機能を落とした瞬間にありったけのミサイルを撃って木っ端微塵にしてしまえ!!」
「危険です! ホエーラシャウトは開発元の紫の軍の兵器開発局もまだ実験段階の試作兵器だと言っていたではありませんか! 最悪、エンジンが負荷に耐えきれずにオーバーブーストしてアビスホエーラ自体が吹き飛ぶ恐れも!」
「くそっ! なら、全戦闘機を叩きつけろ! 数の差を活かしてあの鉄くずどもを撃ち落とせ!!」
通信機を通して全軍に伝わるデンゼルの怒声。それを聞いた航空隊員はただちに目的を変更し、神型機を狙うために行動を開始した。
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