大乱戦

 勢いよく飛び出したユリーシャは、即座に機銃を連射した。接近していた敵戦闘機の両翼を根元からへし折り、エンジンに一撃お見舞いしてすぐに離れる。宙返りをすると、攻撃した戦闘機が墜ちる瞬間が見えた。

 続いて別の敵機を狙う。敵も、前回の小隊規模の敵軍の時とは違って逃走ではなくドッグファイトを選択してきた。三機の戦闘機が陣形を組んでユリーシャに襲いかかる。

 平らな三角形をしたこの敵機は、高度なステルス性を備えていることが特徴的だ。そのステルスは、神型機のレーダーにも映ることはなく、ユリーシャは目視で敵の現在位置を常に捕捉し続けなくてはならなかった。


「くっ! まさかいきなりシャドーを飛ばしてくるとは!」


 二機がユリーシャの機体を挟み込むように飛行する。互いの射線に味方を巻き込まないように細かな調整を施し、回転しながら射撃を開始した。

 弾丸が翼を掠るも、間一髪の回避を続けて逃げようとする。その時、キャノピー越しに一瞬光る何かを確認した。


「まさか! くぅ!」


 無理やり操縦桿を倒して機体を傾ける。弾丸が機体後方に一発深く突き刺さるが、そんなことを気にしている余裕はなかった。ユリーシャが回避した直後、後方で爆発が起きる。


「完全迷彩ミサイル……! シャドーの機体性能でレーダーにも映らなくなった完全な不意打ち……!」


 迷彩を纏うあの光を見落としていたら、今頃ユリーシャはコックピットもろとも爆破されて死んでいた。冷や汗を感じながらも集中を乱さない。

 レーダーがけたたましく警告を発する。いつの間にか、周囲を無数の無人機が取り囲んでいた。

 全方位に敵がいる。どこにも逃げ場がないとはこのことだった。あらゆる方向からミサイルが次々飛んでくる。

 レーダーの警告に従って回避と迎撃を試みる。しかし、そこでレーダーばかりを信用すると今度はステルス機からの攻撃を受けるために常に周囲を忙しく見渡していた。激突を防ぎつつ、レーダーと操縦系統と周囲の景色を交互に見続ける。無茶苦茶に目を酷使したユリーシャに疲労が急速に溜まっていく。

 四機ほど無人機を撃墜して左に機体を回転させる。包囲網を破るために上昇して機体を水平に戻すと、ちょうど正面にステルス機が見えた。


「しまった!」


 敵機の銃口が恒星の光を反射して鈍く光る。何度目とも分からない死の気配に呼吸が早くなった。


『――スプラーッシュ!』


 撃たれると思った直前、明るい声が聞こえて白煙を放つ筒状の物体が敵機の真横から飛来し、コックピットを爆破した。爆炎を貫いて純白の機体が通り過ぎる。


「琴音!」

『だから危ないって言ったのに。独断専行は禁止だよ。私はよくても、ユリーシャ姉は隊長なんだから』

『琴音姉ちゃんもダメに決まっているでしょう』


 機銃掃射で付近の無人機を撃墜する緑の機体。椿も到着し、その後方から銀と灰色の機体も攻撃に参加する。


『他の航空隊員はトラブルで少し遅れるらしい。例の剣が第一格納庫に直結するケーブルを破壊したからカタパルトが動かないって』

「では、それまで私たち四人で凌ぎましょう!」

『ユリーシャ姉の口から私たちって言葉を聞くとは……! でも、戦うのは四人じゃないよ! お願いします!』

『『『了解。攻撃開始!』』』


 連邦軍の戦闘機も攻撃に参加する。さすがに有人機の相手は不可能なので、ユリーシャたちが有人機と戦う間に無人機が邪魔してこないように撃墜するよう依頼した。

 今度はユリーシャたちが攻勢に出る。前方に飛び出していた空母に狙いを定め、翼下のミサイルを一気に放つ。ドラムグード王国で一般的な空母の弱点を的確に突いた攻撃だ。

 ドラムグード王国で一般的な空母トライデントシリーズは、その名の通り三つに分かれた甲板を持ち、同時に三機ずつ発進させることが可能だった。対空装備の火力も高いのだが、構造上、正面からの攻撃には非常に弱く、今回ユリーシャたちにそこを狙われた訳だ。

 ミサイルが甲板に突き刺さって爆発を連続させる。それだけならよかったのだが、爆発はその下の重要な配線も破壊して艦内の電気系統に影響を与えた。そして、配線を伝って炎が延焼していき、エンジンルームの温度が急上昇してオーバーヒートを起こして航行不能になる。その状況を確認した連邦軍の戦艦の砲撃で、シールドを失った空母は沈められた。

 爆炎に沈む空母にユリーシャは思わず手を叩いて喜ぶ。そして、次の船を沈めようとターゲットを探した。


「次、どれを?」

『待ってユリーシャお姉ちゃん。敵の動きがおかしい』


 椿の指摘にユリーシャが周囲を確認する。見えたのは、後退する敵戦闘機と有人機と交戦しないラインまで追撃する味方の機体の姿だった。


「このタイミングで後退……? 何を……」


 疑問を口にするのと同時、アビスホエーラが動いた。口を大きく開き、筒を伸ばして咆哮する。

 空気ではなく、宇宙空間に満ちる魔力を伝播して伝わる咆哮にユリーシャたちが耳を押さえる。そして、すぐに異常に気がついた。


「エンジン停止! 操作が利かない!」

『こっちもだよ! どうしよう!』

『こ、琴音お姉ちゃん……あれ……』


 澪が教えてくれた方向を琴音とユリーシャが見る。

 そこに広がっていたのは、動けなくなったユリーシャたちを撃墜しようと多数の戦闘機が大挙して押し寄せてくる光景だった。

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