敵襲
サイドテールの少女からは、どことなく神秘的な雰囲気が感じられた。つい最近、似たような雰囲気を感じたように思う。
考えるユリーシャに少女が手を差し出した。
「ビシュトリアでは初めて見る顔だね。私は楠沙羅。特祭隊の
「特祭隊の勇者様……! 私、ユリーシャ=レイスです」
「知ってるよ。貴女は有名だからね」
どこかで感じたことのある気配の正体は、アルフヘイムで出会ったあの勇者の少女と同じものだと気がつく。勇者が纏う、一種の神力のようなものだと。
ユリーシャが沙羅と握手を交わす。元気にユリーシャの手を振った沙羅は満面の笑顔を見せていた。
握手を終え、ユリーシャが大輔のほうを見る。数人の少女が不思議そうにユリーシャを見ていたので、大輔が笑いながらリーダーらしき少女の頭を撫でる。
「ルゥたちが任務に出ている間に新しく入った仲間だよ。挨拶しようか」
「初めましてお姉ちゃん。私、ルゥ=リィヤ。ビシュトリア所属の……」
ルゥ、と名乗る少女が自分のことをユリーシャに伝えようとする。が、タイミングが悪いことにそのタイミングで警報が鳴り響いた。
『総員戦闘配置。繰り返す、総員戦闘配置』
「あぁもうタイミング最悪! 行こうユリーシャ姉!」
「あ、はい!」
琴音に引っ張られてユリーシャは自分の機体が置かれている格納庫へ走り出す。大輔もセントラルルームに急いで向かい、沙羅は通信機で味方艦隊にビシュトリアへの支援要請を出していた。それぞれが手順に従って迅速な行動を取っていく。
琴音とは格納庫が違うので途中で分かれる。やって来た自分の神型機が置かれている格納庫にいる整備員の少年からセット一式を受け取り素早く装備した。一段飛ばしでハシゴを駆け上ってコックピットに搭乗。キャノピーを閉じて通信チャンネルを開く。平行してカタパルトとの接続も行っていた。
「ユリーシャ発進準備完了。敵の状況を教えてください」
『控えめに言って厳しい戦闘になるな。映像を送る』
キャノピーに映像が映し出される。そこに映し出された光景に、思わず息を呑んだ。
無数の青い光。それらすべてが敵艦のワープアウトの際に生じる光だった。マシンタイガーを中心に、あのバルム海戦で見たときに匹敵するほどの艦隊が出現している。加えて、あの時と違って小型の鮫型艦はいなかったが、多くのマシンホエーラが現れていた。
敵艦隊の後方で新たに複数の青い光が瞬く。そこから巨大な船が出現した。前方の装甲が異常に分厚く、至る所に砲台を備えている。
そして、その船に守られるようにして正体不明の兵器らしき浮遊物体が二つと黒いマシンホエーラまでもが現れる。
「大隊規模の敵軍に、超装甲強襲艦。そして、謎の兵器に旗艦らしき趣味の悪いホエーラ。……これは中々……」
『アビスホエーラ……! ドラムグード王国の大将級がいるってことか……』
大輔が忌々しげに呟く声が聞こえた。あの黒いマシンホエーラの名前がそれだろうと推測する。
映像には、空母から敵戦闘機が発進する様子が映っていた。戦闘機の相手をしようとユリーシャが発進装置のボタンを押し込む。が、セントラルルームから機能をロックされた。
「!? 大輔さん! 発進しないと敵機が!」
『まだダメだ! 死ぬぞ!』
「どういう……!?」
『シールドを最大出力で展開! 後ろは気にせず前方に重ねろ! 来るぞ!』
あの謎の兵器らしき浮遊物が動いた。いつの間にか先端に巨大な剣らしきものが作られており、その剣が勢いよくビシュトリアに向けて飛んでくる。
ジェット推進で加速した剣のうち一本がビシュトリアのシールドを破壊し、内側まで侵入。刀身の半分ほどまで突き刺さった。激しい揺れがユリーシャを襲う。
もう一本は近くを進んでいた味方艦を直撃。船体を貫通して爆発させた。
『被害報告!』
『味方護衛艦一隻轟沈! ビシュトリアの男性用ロッカールーム付近に命中弾! 死者はいませんが負傷が二名!』
『酸素漏れを確認。隔壁閉鎖します』
直ちに二次被害を阻止する動きが取られる。通信機に大輔の声が届いた。
『よし、これでしばらくはあの兵器は次を撃てない!』
「どうして分かるんです!?」
『過去に戦闘記録がある。あれは、星間物質や塵をかき集めて錬成術を使って剣にしてから撃ち出す兵器だ。一度放てば再充填まで時間がかかる。今なら安全に発進可能だ! いけ、ユリーシャ!』
「ッ! 了解! ユリーシャ=レイス、ハートピーチ……クリアードフォーテイクオフ!」
『ちょっ! ユリーシャ姉置いてかないで!』
琴音の言葉を無視し、一人宇宙空間に飛び出していく。迫り来る敵戦闘機を鋭く睨みながら、機銃のトリガーを引いた。
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