再出撃
再出撃に備えてユリーシャは格納庫で座っていた。モニターで戦況を確認しながらレーションを囓っている。
不味いと文句が漏れるレーションだが、今はそんなことを気にするほど心に余裕はなかった。
これ以上は進ませまいと奮戦する味方艦隊の助太刀に向かいたい。だが、敵の精神干渉攻撃をどうにか突破しないことには勝ちの目はなかった。
塊を噛み砕き、水で流し込む。
それに、だ。いまだに戦闘空域を飛び続けているレオネスと美雪についても不安でいっぱいになる。いつまで燃料が保つか、美雪の機体は大きな動きをしているために燃料の心配もそうだが加えて弾薬の消費も懸念された。
もし敵陣のど真ん中で止まってしまえばたちまち蜂の巣にされてしまう。それは最悪の事態だ。
最後のひとかけらを食べ、ゴミをゴミ箱に投げ捨てる。
何でもいい。早く指示がほしいと思いながら格納庫をうろうろしていると、椿が格納庫に入ってくる。
「ユリーシャお姉ちゃん。落ち着いて」
「椿……そうですね、すみません」
「今は体を休めておいて。どうせすぐに出撃になるから」
椿の言葉にユリーシャが首を傾げた。
すぐに出た所でまた同士討ちを誘発されるだけだ。無駄な犠牲が増えるだけの戦いにはしたくない。
だが、そんなユリーシャの不安を和らげるように椿は大輔が言っていたことを話す。
「これはあくまで仮説なんだけど、敵の指揮官がガージィリアとかいう奴だったと仮定して、あれだけの大規模魔法を展開するにはその魔法に集中する必要があるんだって」
「それは、そうでしょうね。あれを片手間に撃たれたらとっくに私たちは全滅しています」
「で、その効果範囲外に私たちは陣取っている。戦況は今のところこちらが不利だけど膠着状態。ユリーシャお姉ちゃんならどう戦う?」
ユリーシャが顎に手を添えた。
ユリーシャの場合、間違いなく敵の旗艦を叩こうと出撃許可を求めるだろう。頭を潰してしまうのは戦闘に置いて常套戦術だ。
ドラムグード王国も大半の指揮官が頭を潰すような戦い方をしてきたことを記憶している。ガージィリアのように精神干渉で敵を混乱に陥れるような技を使ってくる性格の悪い者はなおさら司令部を潰したいと考えるだろう。
そこまで思い浮かべ、ハッとしたような表情を浮かべる。
「カウンターを狙うつもりですか?」
「そうらしい。先行してルゥたち勇者組を惑星に下ろして敵を足止め。特祭隊の合流を待って一斉に反撃開始。司令部を落とせるほどの戦力となると間違いなく親衛隊のガージィリアが出てくるから、魔法の影響はこちらまで届かなくなるはずよ。その隙に私たちが味方艦隊と協力して壁を削り、ビシュトリアの火力で主力を一挙撃滅する。大輔兄さんが挙げていたのはそういう作戦」
この短時間で勝ち筋のある作戦を立てる辺り、さすがは大輔だと思う。
敵の特徴から動きを予測して行動に移す。力任せでは決して届かない栄光に手を伸ばせる。
これまでもビシュトリアはドラムグード王国の部隊に勝ってきたのだ。今度もきっと勝てるはずだと気合いを入れる。
と、その時、大輔からの放送が入る。
『敵に動きがあった! 複数の揚陸艇がマシンホエーラから出撃したらしい。連中、ついに司令部への攻撃を始めたぞ!』
「きた……!」
「ついに……!」
『特祭隊到着まで残り約七分。少し早いが作戦開始だ! ユリーシャたち航空隊はただちに出撃!』
大輔の指示を受け、ユリーシャは神型機へと乗り込む。
ちょうどコックピットに体を滑り込ませたタイミングで通信機に反応がある。
『くっそあいつら絶対に許さねぇ……!』
『間に合えぇぇぇぇ!!』
ビシュトリアを衝撃が襲う。
何事かと機械を確認すると、第六格納庫に機体が二つほぼ無理やりに近い形で侵入したからだと分かった。
識別コードを確認してユリーシャが胸をなで下ろす。
「美雪にレオネス。無事だったのですね」
『なんとか。ただ、燃料がもうない』
『危うく宇宙空間を永遠に彷徨うところでした。ギリッギリでしたよ』
精神攻撃から抜け出し、二人が無事に帰ってきた。
そして、このチャンスを逃すまいと大輔から指令が降りる。
『二人への影響が小さくなったということは、あの揚陸艇に奴がいるってことだ! これより反撃開始!』
「了解!」
『敵の増援で例の剣の砲台が来てる。最優先目標をそちらにしてぶちかませ!』
ゲートが開く。
操縦桿を強く握りしめ、ユリーシャは敵の戦艦群を睨み付けた。
「出ます。各員、準備でき次第続いてください!」
勢いよく操縦桿を倒し、ユリーシャの機体は飛びだしていく。
スター・ファンタジア~絆の章~ 黒百合咲夜 @mk1016
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