戦勝会
作戦が終わり、ユリーシャの機体がビシュトリアに帰還する。
格納庫に入り、機外にでると誰かが走ってくる。ヘルメットとスーツを整備班の少年に渡し、走ってきた琴音を抱き留めるように止めた。
勢い余って二回転する。また変なことをされる前に離れようとするが、少し様子が違っていたので優しく頭を撫でてあげた。
「ユリーシャ姉! 無事で良かったよーっ!」
「琴音こそ。いろいろとありがとう」
仲良く二人で健闘を称え合う。そこに、椿たち他の航空隊員たちも集まってきた。
全員が無事に揃ったことにホッと安心する。この光景こそ、ユリーシャが心のどこかで求めていた光景なのだ。
頼れる仲間が隣にいて、作戦が終わってもそれは変わらなくて。誰一人欠けることなく笑い合える。バルム海戦からずっと夢見ていたこと。
理想的な結果にユリーシャが微笑んだ。安堵感で上手く体に力が入らず、よろめいて澪に支えてもらう。
「ユリーシャお姉ちゃん……その、大丈夫?」
「ええ、すいません。皆が無事だと思うと、安心して……」
自分の力でしっかり立つ。隊長がいつまでもこんな情けない姿を晒しているわけにはいかなかった。
「ったく。何してやがるんだ?」
ユリーシャの内心を代弁するような声。格納庫に新しく二人が入ってくる。
「だらしねぇな。隊長ならもっとしっかりしろよ」
「あんた……ユリーシャ姉さんの経歴見てないの?」
「そんなもの読む時間がもったいねぇ。それに、過去とか興味ないわ」
「ほんとにもう……っ! ごめんなさい」
まるで雪の精霊のような色白の肌が美しく、雪のように白い髪が特徴の美少女。身を包むのはユリーシャと同じ軍服の少女――美雪。
もう一人は、真っ赤な長髪が目立つ少年。筋肉が軍服を破りそうになっている勇ましい少年――レオネス。
美雪がレオネスの姿勢を直させ、二人で並ぶ。レオネスはいやいやながらではあるが。
「ビシュトリア航空隊所属の如月美雪です。橙色の神型機、エクシードのパイロット。十六歳の中尉ですよ」
「……レオネス=ヴァイル。十二の少尉だ」
そっぽを向いて渋々自己紹介をしたレオネス。言うことだけ言うと、踵を返して格納庫を出て行ってしまう。
その後ろ姿を見送りながら、美雪が笑った。キョトンとするユリーシャに「大丈夫」と添える。
「あの子、ちょっとした反抗期だから」
「そういうものでしょうか?」
「そういうことにしておきましょう」
どことなく投げなりな感じの美雪に、思わずそれでいいのかとツッコみそうになる。
美雪がユリーシャの手を取った。背中は琴音たちが押してユリーシャを格納庫から連れ出そうとする。整備の少年も、ユリーシャから預かった一式をきちんと片付けて美雪と同じく手を引いた。
どういうことかよく分かっていない。抵抗して良いかも分からず、ただただ混乱する。
「あの、皆さんどうしました?」
「ん? ほら、今から大講堂に急ぐよ」
「大講堂に? ちょっと説明を……!」
通路に連れ出される。すると、ちょうど大輔が通りかかった。
大輔なら何か知ってるかもと思ったユリーシャが集団を抜けて追いつく。後ろから追ってきたユリーシャに一瞬驚くも、ちゃんと止まって話を聞くことにした。
「どうしたんだい?」
「いや、皆が私のことを連れていこうとするので、何事かと思ったんです。大講堂に何がありますか?」
「あぁ、今回の勝利を祝って戦勝会だね。僕が企画した」
「え?」
「そういうの、ユリーシャ姉は絶対に断ると思って半ば無理やりに」
追いついてきた琴音にそう言われ、思わず黙ってしまう。
確かに、そう聞かされているとユリーシャは無視して自室に帰っていたと思う。まだ数日しか一緒にいないのに、もう自分のことを知られていることについて気恥ずかしく感じた。
そういうことなら、とユリーシャは大講堂に向かう。自分から行ってくれたことで大輔たちも笑顔だった。
「うん。ドラムグード軍を相手にビシュトリアの死者はなし。被害を受けたレザリア王国軍の人たちは……って感じだけどね」
「そういえば、沙羅さんは?」
「もう帰ったよ。ついでにうちの分も報告書出しといてくれるらしいから、本当に助かる」
大艦隊を相手に、一個部隊が死者なしというのは奇跡だ。多少浮かれてもバチは当たらない。
揃って大講堂へと移動する。もうすでに大勢が集まっていたそこは、今回のエースの登場に大いに沸き立った。
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