大混戦

 何度かのワープを終え、ビシュトリアは戦闘宙域に到着した。

 宇宙連邦常任理事国の一つ、シュベルトロリア皇国の主星――シュベトローゼを絶対防衛線と定め、その首都に司令部を構えた戦場だ。

 司令部から簡単に状況の説明が入る。

 敵戦力は青の軍の大隊規模。後続から紫の軍と本軍の合同艦隊が迫ってきているため、どうにかしてここで青の軍を可能な限り撃破しておきたいと猛攻撃を仕掛けているとのことだった。

 大輔が各所に指令を飛ばす。それと同時にユリーシャたち航空隊は発進準備を整えていた。

 敵戦力は戦闘機が多いとのこと。それならばユリーシャたちの出番だ。


「ユリーシャ=レイス! クリアードフォーテイクオフ!」

『天谷琴音! 発進!』

『花園椿。出ます』


 ユリーシャを先頭に全力出撃。他の航空隊の機体も発進し、戦場に様々なカラフルな機体が飛び込んでいく。


「こんなに神型機がいたんですね」

『だね! でも、油断せずにいっくよー!』


 爆炎が連続する前方の戦場へと突っ込む。

 友軍機を追いかけていたドラムグードの戦闘機を横合いからミサイルをぶつけて撃墜する。

 助けられた友軍機は、機体を左右に振るとすぐに別の敵へと向かっていった。ユリーシャも即座に別の敵を狙う。

 椿が機銃を連射して固まっていた敵機を散らす。

 小隊規模の戦闘機を分団に成功すると、琴音が率いる連邦戦闘機が猛撃を仕掛けて全滅させた。

 澪とルーヴェルも上手い戦い方を見せ、片方が敵を誘導してもう片方が撃墜するといった手法で敵の数を減らしていく。

 神型機の参戦で連邦側が一気に活気づいた。友軍も奮戦を見せて敵の無人機を次々墜としていく。


「さすがですね。では、私たちは有人機を!」

『了解! 一気に墜とす!』


 どうしようもない有人機の相手はユリーシャたちがする。

 無人機を操作している機体を優先的に狙おうと周囲を確認する。

 だが、その時ユリーシャの視界がぶれた。わずかに頭痛も感じ、計器類に砂嵐が生じる。


「今のは……!?」

『頭痛いよー! 何今の!?』

『強力なジャミング電波です! 私たちは問題ありませんが、友軍はレーダーや通信機の一部を潰された模様』

「キツいですね。でも、その分私たちが本気で戦えば!」


 目の前を横切った敵の機体に目を向ける。

 照準を合わせ、ミサイルを放った。しっかり狙いを付けているために外すことはない。

 敵機はしばらく逃げ回った後、激しい旋回運動を取りながらチャフフレアを撒き散らしてユリーシャの攻撃を防いだ。


「くっ! でも次は逃がさない!」


 もう一度照準を定めてミサイルの発射装置に指を添える。

 が、通信機から聞こえてきた内容に思わず攻撃を中断してしまう。


『ユリーシャ姉!? どうして私を撃ってくるの!?』

「琴音!? そんなはず……」

『ユリーシャ! 琴音! 問題か!? そうじゃないなら悪ふざけはやめるんだ! 危うくところだったぞ!』


 ビシュトリアからの通信にもユリーシャが絶句する。

 今、目の前を飛んでいるのは明らかにドラムグードの戦闘機だ。レーダーにもそれははっきり表示されている。

 しかし、琴音やビシュトリアから見るとその敵機は琴音の機体だという。

 バカな、と思い次の行動に迷いを生じさせていると、不意に上空から殺意を感じた。

 慌てて機体を旋回して回避すると、機銃の弾丸が通過して一拍遅れてが降下していく。


「澪!? 誤射です気をつけて!」

『え、そんなはずない……! 私が撃ったのは敵の機体……』

『澪が撃ったのはユリーシャだぞ? 本当にどうしたんだ……?』


 大輔の戸惑いの声が聞こえてきた。

 通信に耳を傾けると、異常が起きているのは他の味方も同じだった。

 誤射や操縦放棄など、あり得ない事態が相次ぐ。たちまち司令部は大混乱に陥ってしまった。

 敵と味方の判別ができない。そのため、迂闊な攻撃もできなかった。

 ただ、混乱した友軍は各所で敵味方入り交じった乱戦を勃発させ、被害が急速に拡大していく。


『ルーヴェル兄さん! 後ろ取られてます!』

『後ろにいるのは味方だよ!?』

『椿墜とせ! それは敵機だ!』


 ユリーシャの目の前で、椿がルーヴェルの背後に回り込んだ機体を撃墜した。

 間一髪ミサイルの発射前だったためにルーヴェルは助かったが、非常に危うい状況だった。

 続き、ルーヴェルと並走するように機体が飛ぶ。反転した椿は、即座に機銃でルーヴェルを守った。だが……


『椿! そっちの機体は味方だぞ!』

『なっ!? 敵機のはずなのに……!』

『大輔兄さん! そっちからレオネスに連絡してくれない!?』

「美雪!? どうしました!?」

『ユリーシャ姉さん! レオネスからの応答がない! 今、必死に私が近付く機体から守っているけど限界がある!』


 急ぎレーダーを確認すると、レオネスの機体がただただ直進し、周囲を敵機がぐるぐると飛び続けていた。この敵機こそが、美雪の機体なのだろう。

 ビシュトリアは正常な情報が見えているようだが、それも正しいのか確証はない。そんな状況での大輔の判断は正しかった。


『全機撤退! このままでは危険すぎる! 一度体勢を立て直すんだ!』


 大輔の指示が届いた瞬間、レオネスと美雪以外の神型機パイロットが機体をビシュトリアに向けて進路を変えた。

 この瞬間だけは、少なくともビシュトリアの仲間の機体だけは認識できる。連邦の味方には悪いが、後から同じようにビシュトリアに進路を変える機体は敵の可能性も考えて即座に撃墜した。

 明らかな異常事態。今度の敵はこれまでに戦ってきた相手とは比にならないと、ユリーシャは撤退しながら背筋に冷たいものを感じていた。

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