第5話
次に裕が来た時に、私はキッチンテーブルに座り、紅茶を飲んでいた。その私の前を当たり前に通り過ぎながら、又このクズは蝶額を抱えて外へ出た。 幾ら母に裕が盗みをしていると伝えても、馬の耳に念仏だ。なら未成年の、只の高校生の私にはもうどうにもならない…。 だがこの日には、母は家にいた。確か土曜日だった気がする。祖母はいなかった。 だから庭の外で、家の前を箒で掃いていた。後からは裕の両親も来る事になっていた。 裕の妹もいたが、その子はまだ中学生で、何か学校の用事があったか何かで、その日は来なかったのだ。 それで母はこの二人が来るのを待ちながら、家の周りを掃除していたのだ。 だから私は一応、庭に出た。母がいたから何とかするだろうと期待したからだ。 すると裕は蝶額を抱えて出て、家の目の前で母とかち合った。 母は裕が抱えている蝶額を見て驚いた。 「一寸あんた、何それ?!」 裕は無言で母を無視して行こうとした。母は前に立ち塞がった。裕は黙って母をかわした。そして行こうとした。だが又母が前に出て、行かせない様にする。 「一寸あんた、それをどこに持って行くの?!何してるの?!」 だが裕は丸で返事をしない。黙って母を上手く交わすが、母も必死だ。 「それ、私のじゃないの!!ねー、どこに持って行くの?!何する気よ?!」 そして何とかその蝶額に手をかけた。必死で両手で押さえた。 「私のじゃないの?!返しなよ!!勝手に持ち出しなんかさせないよ!!」 裕はやっと諦めて仕方無く立ち止まった。「早く返しなさいよ?!」 母が叫ぶ。裕は手放さない。 「早くしなさいよ?!でないと、リナちゃん、早く交番に行って誰か呼んで来て!」 私に命令した。 私が飛び出して、すぐ近くの交番に走ろうとすると、裕は渋々母に蝶額を渡した。 母はひったくると家の中に急いで持って入った。私も後に続いた。裕はまだそこに立っている。 すると伯父と伯母がやって来た。そうして 家に二人は入って来た。裕も、親に促されて入って来た。 母は今起きた事を素早く説明した。そして急いで茶箱の中を確認した。私も急いで中を覗く。 そして母が悲惨な声を何度も張り上げた。 「な、何よこれ?!あんなに沢山あったのに、もう殆ど無いじゃないの〜?!」 私も驚愕した。信じられなかった。幾ら何でもそこまでそんなに盗んで質屋に売り飛ばしていただなんて!! 「あんまりじゃないの?!ねー、あんまりじゃないの、人の物を〜!!!!」 母は泣きながら何度もそう言った。目は真っ赤で、ボロボロと涙を流していた。 親の二人、康男と雅子も驚き、呆れながら困っていた。裕だけは、一寸まずいな?、みたいな顔をして、それでも平然とそこに立っている。だが室内は非常に重苦しい空気になっていた。 するといきなり雅子が母に喚き散らした。 「何もそんな物を買ってくる事ないじゃないの!!そんな物があるからだよ?!」 母が泣きながら叫んだ。 「な、何言ってるのよ?!そんなの人の勝手じゃないの?」 「大体そんな物があるからいけないんだよ!だからそうした事になるんだよ。そんな物を置いとくから、全部自分が悪いんだよ。」 「何が悪いの?!じゃああったら出して勝手に売るの?!只置いといただけじゃないの、自分の物を。大事にしまっておいただけじゃないの、自分のうちに?何でそれがいけないの?」 「もうあんな物良いじゃないの?又買えば。あんたも、そんなに怒る事ないんだよ!」 「あっ、そうなの?でももう手に入らないんだよ?!買えないんだよ?!わざわざブラジルから買って来てるんだから。あんな遠い所から。それに、あんたの息子が盗んだんじゃないの?何で私が又買わないといけないの?じゃあ、あんたんちでもし私やうちの子が、あんたが大切にしまってある物を色々と勝手に持ち出して売っていたら、あんた、怒らない?ねー、どうなの?あんたならもっと怒り狂うんじゃないの?最もそんな事、絶対に普通しないけどね!私もうちの子も。だって誰だって普通、そんな酷い事をしないからね!!」 雅子は困りながらこう言った。 「どうもおかしいとは思っていたんだよ…。最近は全然、お金をくれってしつこく言ってこないから。何か羽振りが良いみたいな感じだったからねー。」 伯父も嫌な顔をしながらキッチンテーブルの椅子に座りながらずっと黙っていた。 実は裕は高校を卒業すると大学へは進学せず、そのまま就職する事にしたのだか、どこを受けても全て落ちて、結局は親が誰か知り合いに頼み込み、コネで入所をした。だが、結局3ヶ月位で自分から止めてしまった。 だからいつも母親にお金をせびり、仕方が無いからと叔母は渡していた。伯父も知っていたが黙認していた。 勿論アルバイトも何もしていなかった。アルバイトなんて一度もした事が無かったのではないだろうか? 「智子、本当に悪かった。僕が謝るから、裕を許してくれないか?」 伯父もやっと口を開いた。 「嫌よ!!だってあれはもう帰って来ないのよ?!」 「頼む、許してくれないか?僕がその代わり、弁償するから。100万円を渡すから、 許してくれないか?」 「お父さん、何言ってるの?!100万ナンテ払う事ないよ!!」 伯母の雅子が焦って叫んだ。 裕は謝りもせずに、相変わらず黙って状況を、他人事の様に見ている。立ちながらテレビドラマでも見ている様に。 こんな両親だから、この息子ありだ。 雅子はいつも昔から自分の息子を自慢しまくっていた。頭が良い、頭が良いと。又、見た目も可愛いと小さな頃はよく言ったりした そして殆ど叱る事をせず、しても厳しくしなかった。何でも自分の息子に都合が良い風に解釈してそれを貫いた。今回の様に!! (これに付いては、又記したい。) 父親の康男はというと、息子には余り関心が無いというか、伯母曰く、キャッチボールも一度もした事が無いと言っていた。 そして雅子はわがままで、意地悪い面があり、夫の康男にもそうした面があった。(これに付いても、後から記したい。) どちらももっとうんと後になるのだが、辻褄を取らされる日が来るのだが。 「なぁ智子!頼む。100万円で手を売ってくれないか?」 「嫌よ!こんな事をしたんだから、泥棒なんだから、きちんとけじめをつけるよ。本人だって何にも謝ってないんだから。」 「何よ、けじめって?!」 雅子が鋭く切り返す。 「警察に言うから。」 「エーッ?!」 雅子が叫んだ。 「止めてよ、智子?!」 「智子、止めてくれ!!そんな事をしたら、前科が着くから!そうしたら裕の人生が、どうしようもなくなる!!」 康男も狼狽しながら懇願する。 「そうだよ!あんたもあんたの子供も、前科者の親戚になるんだよ?!それでも良いの?!」 母は黙って警察に電話をかけた。甥が自分の貴重な物を色々と盗み、売っていた。今、此処にいるから来てくれと。 しばらくすると警察が来た。中年の男と、若い男の二人組だ。 中年のほうは、30代前半から半ば位で、身長は170センチ位で小太りで、薄茶色のスーツを着ていた。 もう一人は173から175センチ位で、警察官の制服を着ていた。黒縁の眼鏡をかけていて、年は20から22歳位だ。 この刑事と巡査が、パトカーで我が家にやって来た。
続.
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