第11話

オジサンの差し出す名刺を私はジッと見つめた。どうしよう?!           このオジサンは私を気に入っている。本当には悪い人では無い、あんな事を自分の親しい巡査には言っても。           それに私の周りには、ろくな大人がいない。ろくな家族がいない。誰も頼りにはなら  ない。                 私は名刺を受け取ろうとして、悩んだ。  オジサンは笑顔で名刺を私の前に差し出している。                 私は手を伸ばして受け取ろうとして、だが こう聞いてしまった。          「オジサン、結婚してるでしょ?」    嫌な顔をしながらオジサンは答えた。   「してるよ。」             「じゃあ、これもらえない!!もらったら、私、きっと電話しちゃうから。そしたら、 オジサンの奥さんが分かったら、凄く傷付くから!!」               急いで手を引っ込めた。そして言った。  「オジサン、優しくしてくれてありがとう。」                 悲しくて目は涙で潤んでいた。オジサンは 私の顔をジッと見つめた。        私はそれだけ言うと、内心は嫌だし受け取りたかったし、優しいオジサンともう少し一緒にいたかったけれど、それをうんと我慢していきなり走り出した。そうしないと気持が変わってしまうと思ったからだ。      そうして泣きながら、それらの気持を振り切る様に一生懸命に走った。そうして急いで家へと走った。              オジサンもあの巡査も良くしてくれたし優しかった。私に署名してほしいからだけではなくて、良い人達だったからだ!!     だが…、私は非常に馬鹿だった。黙って名刺を貰っておけば良かったのだ。そしてそんなに急いで走って帰らずに、数時間外で時間を潰せば良かったのだ。          世の中、純情だと馬鹿を見る。正直、そんなだと、まともで親身になってくれる親や家族がいなければ(大)損をするのだ。    これは大人になっても続く。余り人が良いと馬鹿を見るし損をする。そしてそれでとんでもない事になったり、人生を左右したりする事もあるのだから。           だが当時まだ18歳になったばかりの私には、そんな事は夢にも分からなかった。 (確かこの季節は、私が18になってまだ 数ヶ月だった。)               家に着いてからの話は、結果は次回に話そう。                  だが、それでも神や自然の力は、いつかは 味方をしてくれる時もあるのだ!!何故直ぐに‼、してくれないのかは分からないのだが?!                 だから、安心してもらいたい…。     続.

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