第10話

オジサンはとても喜んだ。これで裕を被疑者として取調べられる。何せ、何十回も母の物を勝手に売っていたのだから。しかも大切にしまってあったも物をだ!!       つまり勝手に家の中を物色していたのだから。最低だ。これは裕の母親や妹も同じだった。(後から、詳しく触れよう。)     それで私はこの警察署での役目が終わり、私自身もとても嬉しかった。        巡査が私を下に連れて行き、入り口迄送るからと言った。そしてそそくさと私をその部屋から連れ出そうとした。         するとオジサンがピシャリと言った。   「いいよ、お前は。」           巡査が又言った。            「でも、下まで送りますから。」     「いい、お前はしなくて良い。俺がするから。」                  巡査が嫌な、困った顔をした。私もガッカリした。                 だがオジサンは私の腕を取ると、部屋から私を連れ出した。             玄関まで連れて行く。その間、又すれ違うだとかの警察官達が私の顔を凝視する。オジ サンは何か得意そうな顔をしてニヤニヤしている。                 下の受付の前を通る時にだけ、オジサンは わざと離れて後ろにいた。何だろう?振り向いたが少し離れて着いて来る。      だから私は一人でその前を通ると、中の人間達も又私の顔を見て驚いて見つめる。   あぁ、嫌だなあ!早く出たいよ。そう思って急ぐといきなり、中にいた一番年上の、頭の真ん中が剥げた白髪の、眼鏡をかけた爺さんが慌てて私に叫んだ。          「おい、もう悪さするんじゃないぞー?!」驚いたが腹が立ったから睨み付けた。   「おい、何だその態度は?おい、こっちに来い?!」                私がそのまま足を止めないと、メンツが立たないからなのと無視された事に怒り、爺さんは立ち上がった。中から出て来ようかと悩んている風なので、私も焦った。      要は、高校生が警察署に一人でいると言う事は、何かをして補導されたと思うのだろう?どうせ又(この時代によくあった)、外国人(特に欧米人)やその混血の人間だと、悪いと思う先入観だろうと思っていたが、それがどうやら余り関係無いとしても⁉、きっとそうした事なのだろう。          するとオジサンがすかさず前に来てその  爺さんや周りに聞こえる様に言った。違う のだと。私は、被害者なのだと。     すると皆は驚いた。そしてその爺さんも含め、全員が私に、急に憐れむ様な顔付きに なった。                そして警察署の外に出てその前の広い駐車場をオジサンと少し歩いていると、食堂で私に謝ったあの巡査が出て来て、後ろからオジサンを呼び止めた。            オジサンは私にその場所にそのままいて、 まだ帰らない様にと、何度もしつこく頼んだ。仕方無いから承諾すると、さっきの巡査に近付きながら二人でしばらく私に付いて話していた。               この巡査は私の年を聞いたり何処にいたのかだとかをあれこれと聞き、オジサンは教えていた。                 オジサンは私の食堂での態度で、男が見て いると恥ずかしくて食事ができないからと、横をずっと向いていただとかをああだこうだと教えて、「あれは処女だな。」、と言ったり、「凄い掘り出し物だぞ。」だとかを何度も言っていた。              そして自分の女として色々と仕込むと言い、そうしたらお前にもやらせてやるからと言った。自分の言う事さえちゃんとに聞いていたら、一回やらせてやるからと言ったりして。そして最後には適当な所で、誰か真面目な奴にくっつけてやるからと。        巡査は凄く驚きながらも、嬉しそうに笑っていた。                 「だけどそんな事して、もし妊娠したらどうするんですか?」            「その時はお前が結婚しろ。」      「エーッ?!そんな、困りますよ!!」  「何でだ?!気に入ったんだろう?」   「だって、俺、彼女いますから!」    「お前、彼女いるのか?」        「はい。」               「だったら駄目だ。お前にはやらせない。」                 「そんなぁ?!そんな事言わないで下さいよ〜!!そういうのとは違うじゃないですかぁ?!」                「駄目だ!!」             「じゃあ、○○さんが結婚したら良いじゃないですかぁ?」             「駄目だ。俺はもう結婚してるし、子供がいるからな。だから俺は無理だ。だから駄目だ。」                  そうした会話が途切れ途切れに聞こえてきた。                  嫌だけど、男同士だとこうした卑猥な会話は良くするらしいし、本気じゃない場合もあるらしい。オジサンも目の前では凄く優しかったから、だからその時には特に頭には来なかった。                 そうしてオジサンはやっと戻って来ると、私に謝った。それから聞いた。       「リナちゃんは、オジサンの事を好き?」 私は困った。              「じゃあ、好きと嫌いとならどっち?」  「…だったら、好き。」          オジサンはやっぱり、と言う様な、そして嬉しそうな顔をした。           私はさっきの赤いハンカチをしっかりと手に握りしめていた。大切だった。これがあればあの巡査の名前が分かり、返しながら又会える!!                 だがオジサンはそれに目をやると、自分が 返すから渡す様にと言った。私は洗ってから返すと言い張ったが、オジサンは、規則で 警察官の私物を持ち出せないと言われ、無理矢理に渡す様にと強く言ったので渋々渡した。                  だが丁度私がハンカチを渡している所に、 その所有者の巡査が入り口から出てこちらに歩いて来て、その光景を見た!!そして物凄く怒った顔をした。私は焦って、大声で弁解した。                 「これ、返してくれって?!持っていちゃ駄目だって言うから、だから渡したの!!」巡査は驚いてオジサンを見た。オジサンは 知らんぷりをして横を向いた。       すると巡査はオジサンを睨み付けて、くるりと向きを変えると又入り口へと歩いて行ってしまった。               あ〜っ、どうしよう?!私がガッカリしているとオジサンがニコニコしながら聞いた。 「じゃあ、今リナちゃんはどこに一番行きたい?何処か行きたい所あるでしょう?」  黙っていると何度も優しく聞くので、笑わ ない様にと前置きすると、絶対に笑わないと約束した。               私は、遊園地だと答えた。オジサンの口元が緩んだ。子供だなぁ、と言った風に。でも笑わなかった。              そして私を連れて行ってくれると言った。 そして色々な乗り物に乗って遊ぼうと。  私は遊園地が大好きだったから、心が高ぶった。だがさっきハンカチを貸してくれた巡査の事が頭にあり、本当は彼と遊園地デートがしたかった。              だがオジサンは満足そうに頷くと名刺を出した。そして、私と友達になりたいと言って差し出した。               (大分本題からそれたが、オジサンと赤い ハンカチの巡査とは、この先もう少し私とは関わりが出て来るのでもう少しだけ続く。 何せ長年ずっと忘れていた事柄が、近頃どっと思い出されて来るのだから。)      母や、糞野郎の裕とその家族に付いてはもう少ししてから戻る。           続.

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