第17話

母はしつこく、手錠を外す様に喚いた。だがオジサンは黙っていて、そのままだ。   それから、どうやって呼んだのか?電話は使用していなかったと思うが、ポケベルみたいな何かを使用したのかもしれない。応援を呼んだのだ。母を警察署に連れて行く為に。 母は泣いていた。手を後ろに回されて、自由は効かない。そして私を見た。      私に、オジサンに頼んで手錠を外してくれる様にと言った。だが私や祖母は只驚いてその光景を見ているだけで、言葉が出なかった。「リナちゃん、早く放す様に言ってよ?!」確か母は3回位、私に頼んだ。      「一寸何なの〜?!何をしてるの〜?!」 祖母も母の横でオロオロしながら、独り言の様に言っている。            母は私に普通に頼んだ。オジサンが私の味方なのだから、私が頼めば何とかなる、解放してくれると思ったのだ。         だが私が直ぐに口がきけないで見つめていると、今度は怒って怒鳴った。       「何してるの?!早く何とかしなよ?!外す様に言いなよ!!何黙って見てるの?!」 凄い剣幕で怒りながら、叫んだ。私はカーッとして腹が立った。           自分がいきなり襲いかかって来て、私を本気で殴り始めて、止めないから、だからそうした事になったんだろう?違うのか?!   オジサンが止めなきゃ、いつまでやってたんだよ、この暴力大好き女?!       正直その時は余りの憎らしい態度にそう思った。                  だか、するとアッと言う間にいきなり哀れな泣き顔で、物凄く情けない惨めな顔付きになった。それは丸で、舐めていたアイスキャンディーか何かをいきなりひったくられて泣く幼児の態度を思わせた。         「リナちゃん、お願い!!ママを助けて?!ねー、お願いだからママを助けて〜?!」 そう懇願した。             その姿は又、映画や何かで、拷問を受けるだとか命を取られる人間が、相手に泣きわめきながら懇願する、正にそれだった。    それは、怒ると罵詈雑言を口汚くいつまでも吐き、悪魔の様に変貌する、いつもの気狂いじみた母では無かった。さっき、オジサンが私を救う前迄はそうだったが。だが幾ら何でも、流石に怯えていたのだ。       私はこの時、一瞬優越感を覚えた。良い君だと思った。ざまあみろ、と。       だが、涙目でジッと私に助けを求めるその情けなく、惨めな姿が急に非常に哀れになった。                  本当は母のその姿から、もう何もかもから逃れて、その隣の部屋の床に崩れ落ちて、そこで見ない聞かないをしたい気持ちが多分にあったのだが。              だがその捕虜の様な姿に、私は急に可哀想になると、次には、自分の親にそんな事をするオジサンに腹立たしくなった。      私はだから、オジサンさんに頼んだ。   「オジサン、お願い?!手錠を外して?!」オジサンは黙っている。何度も言ったが駄目だ。オジサンは警察署に連れて行き、取り調べをするつもりだ。           だから私はもうどうして良いか分からずに、大声で喚き散らした。          「放せ!放せよ?!おい、ママを放せ〜!!何やってんだよ〜?!」         オジサンは私を複雑な顔で見ていた。そう こうしている内に、パトカーが家の前に止まった。                 若い巡査が二人、ドアを開けると近付いて来た。どちらも黒縁の、警察官用の?メガネをかけていて、背が高いのと低いのとの二人組だった。そして背が高いほうは、あのハンカチを貸してくれた巡査だった!!     続.

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