第26話
恭子は小学生の時に、私が大好きな漫画家の単行本をまとめて沢山、私にくれた。確か 全巻だ!! それは、私が大好きな手塚治虫先生の描いた"ブラックジャック"だ。何巻あったのかは忘れたが、30巻近くはあったと思う。 それは、自分の友達が全て買って揃えた物を、読んだからもういらないと言ってくれた物だったそうだ。 私はそれを聞いて驚いたが、当時まだ手塚先生は生きておられたし、物凄く有名で凄い方ではあったが、恐らく今程では無かったかもしれない。だからか、その子はあっさりと それらを私の従兄弟に与えた。 それを恭子は、私に全部くれた。元々、親戚のお姉ちゃんが”ブラックジャック”や手塚治虫の作品が大好きだと言っていたら、それらはもういらないからと言って、くれたらしい。そして、私にあげれば良いと思ったらしい。 私はそれを貰い、とても喜んだ。恭子に礼を言い、その子にも喜んでいたと伝えてくれと言った。そしてそれを恭子も、大変に感激した。 所が、私がアメリカに留学してから戻ると、それらは殆どが無くなっていた。 私は非常に驚いたが、恭子は私の事を祖母や自分の母親から悪口を聞いてからは嫌いになり、私にくれた物を取り返したのだろう。 私は黙っていた。それに付いて何も言わなかった。どうせ違うだとか言うか、自分が持って来た物だから構わないだろう、と開き直ると思ったからだ。 唯、呆れ返ったのは、やはり兄の裕の様に、年中うちへ来ては、祖母に分からない様に 大きなバッグに入れてはそれらを分散して持ち去っていた事だ。 幾ら自分が私にくれたからと言え、もうそれは私の物だ。だから勝手に持ち去るのは、やはり泥棒だ。 しかも数少なくなった物までも、私や母が いない時に又来ては、まだコソコソと持ち去っていた事だ。 しかも最後の2冊になった時には、自分の母親にまで頼んで、持ち去ろうとして、実行した?! 母親の雅子は恭子に頼まれると、うちへ来た時に私に頼んだ。どうしても帰りの電車の中で、"ブラックジャック"の漫画を読みたいのだと。(この時には既に伯父勝は喉頭癌で 死んでいたので、ペーパードライバーの伯母は、電車で我が家へ来ていたのだ。) 私は呆れ返って、本当に読むのかと聞いた。この時、伯母は70歳位だったからだ。 だから恭子が私のそのブラックジャックの単行本を我が家から黙って取り返していた時から、既に20年以上も経っていたのだ!! そして私の母はそのやり取りを直ぐ近くで 見ていた。普通なら、娘が嫌がっている事を、母親ならまずさせないだろう。 だが私の母は、非常にある意味馬鹿でお人好しだ。お人好しプラス、異常な程の見栄っ張りだ!だから側でそのやり取りを見ていて、私にどうしても貸す様にと言った。それは頼み、又は執拗な説得だ。 母は他人の為なら、又は他人に良く思われてかつ感謝される為なら、殆どどんな事でも する女だった。ましてやそれが自分ではなく、自分の子供ならば尚更そうだった。 他人からのそうした感謝や称賛の気持が、仮に嘘でも、自分がそうだと信じたら、それは母にとっては馬に人参だった!! それは彼女には丸で麻薬か何かの様だった。命がけでやる、必死でやる、どんな犠牲を払っても。 そしてそれは娘にどんな体罰を与えても、 それが自分の満足感の為と、もう一つは義務だと信じて当然やらせるのだ…。母はそうした女だった。 だから伯母にしつこく説得されて、私も仕方無いのと、そこまで読みたいのなら可愛そうだと思い、同情してその本を渡した。2冊残った内の一冊だ。 そしてそれはもう二度と戻って来なかった。当然だ。元々嘘だし、唯娘に頼まれただけなのだから。 だが、誰がそんな馬鹿げた事を想像するだろう?!娘に頼まれたからと、嘘まで付いて そんな下らない事をする母親などを?! その後は、最後に残ったたった一冊の”ブラックジャック”の単行本に付いては、恭子は何もしなかったし、母親に又頼んでまでは何とかしなかった。笑 だがそれは何故か?!簡単だ!! 彼女は私に与えた数多いその漫画本の単行本を、全て取り戻したかった…。だから、最後に残った2冊だけを中々自力ては取り戻せなかったので、母親に頼んだ。そして母親は協力して、成功した!だからだ。 もう残るは後一冊だ。なら、もううちへ来て取り戻さなくても、どの巻かは簡単に分かる。そしてそれを簡単に購入できる。 そうして初めから、忌まわしい私へ、ただで分け与えた事が撤回できる。そんなところだろう?!笑 裕と恭子は同じ様に窃盗をしたが、家族とは、やはり同じ様な人間性や習性があるのだろうか?恐らくはそうだろう。 そして、この恭子の違う行動に付いてだが…。もっと凄い。恭子は我が家に、盗聴器を仕掛たのだから!!
(続く.)
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