第27話

それは、こういう事だった。ある日、うちへ来た恭子が母に言った。         「叔母さん、これあげるよ。良かったら使ってくれる?」              「あら、何なの?」          「コンセント。コンセントを買ったんだけど、余分にもう一つあるから。だからこれ、叔母さんちで使えば良いと思って、持って来たんだ。」               「ふ~ん、コンセントなんかをくれるの?」私は側で見ていておかしいと思った。   この当時は、今もそうかは分からないが、 コンセントだとかの盗聴器を簡単に買えたのだ。一部の雑誌のページには、色々な物を通販で買えた。アダルトグッズだとか、そうした盗聴器等をだ。            それは別にいかがわしい雑誌ではなくても、広告が乗っていたりした。確か素行調査だとかの宣伝等と同じ様に。         だが、幾ら何でそこまでそんな事をするか?なら何故だ?!             そう訝しく思っている私の横で、母も少しはおかしいと思い、多少戸惑って聞いた。  「でも何であんた、こんな物をうちにくれるの?」                 母はそうした盗聴器の事を知らない。   「うん、私の部屋で使うから、買ったの。 だけど安かったから、余分に買っちゃってさ。だけどうちじゃあもういらないから、 だから。」               「ふ~ん、そうなの?じゃあ貰っておくよ。ありがとね。」             「ううん、良いよ!!じゃあここに挿しておくね?」                恭子はとても嬉しそうに、キッチンのコンセント穴にそのコンセントを挿した。そして言った。                 「これならずっと使えるからね!だから叔母さん、これ取らないで?!絶対に抜かないでね?!」                「あぁ、そう?分かったよ。」       恭子は又嬉しそうにニタ〜っと笑った。それを挿した所は、我が家のキッチンで、ダイニングテーブルや椅子があり、電話が木の電話台に乗っていた、直ぐ近くだった。    それからしばらくして、恭子は帰って行った。                  私はそのコンセントをジッと見つめた。抜こうと思ったが、母は過度の馬鹿お人好しだ。そんな事をしたら又大目玉を喰い、しつこく咎められるだろう。又、祖母も加わり、二人してお祭り騒ぎの様に私を責めながら喜び、楽しむだろう。             何せこの二人は、つまらなくての欲求不満やストレスを、私に注意や説教や、偉そうな教訓を長々といつまでも言っては憂さ晴らしをするのが大好きで、もうそれは長年の、二人の習慣だったからだ。          私は何度も、いきなりそうした事をされて きていた。特に理由がなくてもそれはあった。だから、意地の悪い従兄弟達も安心して私への嫌がらせをしたのだろう。     例えば、いきなり祖母が言う。      「一寸この子、なんでそんなつまらなそうな顔をしてるの〜?!」と。        又は、「この子、本当に寸胴だね?もう年頃なのに、何でいつまでも腰がくびれないの?!」、「あんた、随分と足が太いね?!ねー、あんた、凄い足をしてるね!何でそんななのよー?ねー、あんたの娘、そう思わない?!」                すると母もここぞとばかりに同意する。こんな事を言う。             「本当だよ!!何でいつまでたってもそんなにウエストが太いの?くびれないの?!ママはそんなじゃなかったよ、あんた位の年には。」                

「あんた、足が何でそんなに太いの?!やっぱり外人の血が入ってるからかね?合の子だからだよ?!あんた、外人の嫌な所ばっかしだね!」                誰がそうしたんだ?!自分だろう!!大体私の足が太くても、欧米へ行けば私と同じ様に太い女達も幾らでもいる。そうした女優達だっている。              又、確かに余りウエストは細くないが、白人の女だと、その系統により、割と寸胴なタイプもいるのを私は欧米に行ってからは、見て知っている。              だから私も恐らくそうした部類の白人の血が入っているのだと思う。         だが、勿論母は良い時も沢山?、あった。 一生懸命に私の為に何かをしたり、こんな事を言う事もあった。           「あんた、ママがもし年取って入院なんか しても、絶対に死なせるんじゃないよ?! 死ななきゃ、あんた、ママの厚生年金で食べていけるんだからね!絶対に、意識不明でもなんでも、余程お金がかからなきゃ、生かしておきな。そうしたらあんたは、もしその時何にも仕事がな無くても、ちゃんとに食べていけるんだよ?!」           又は、「大丈夫、もしあんたが目が見えなくなったりしたら、ママの目をあげるよ。片方あげるから、見えるよ?!大丈夫だよ、心配しなくても!!」            これは近所の公園で小学生の少年達が野球をしていた時に、そこを友達と通った私の右目に偶然ボールが当たった時だ。私が8歳位だったろうか?              母も祖母も心配して、母が帰ると直ぐに眼科へと連れて行かれた。幸い何でも無かった。大丈夫だと言われて、その後、ずっと何とも無い。                 ボールが軟球の、ゴムボールだったからだ。その時、祖母は馬鹿だから、私を病院ヘ連れて行かずにその公園に私を連れて行き、まだ遊んでいた彼等に怒鳴り付けて文句を言った。                  一体誰がうちの子に、目にボールをぶつけたのかと。皆、少年達は狼狽しながら自分では無いと弁明して、一人ずつ逃げ帰った。  母は会社から家に戻って話を聞いてからは、慌てて私を眼科へ連れて行き、後から祖母に、そんな事をする前にもっと早くに‼、直ぐに眼科医に診せなければ駄目じゃないかと強く叱り付けた。            だから、母が私に対して酷い態度をよくとっていたのも、恐らくは仕事での、又は女一人で自分と祖母、私とを養っていたストレスやが一つと、もう一つは、自分にそんな事を させた私の父親に対しての不満や恨みが、 その男の血が半分入っていて見た目がそっくりな私へのわだかまりブラス、ある種の憎しみだったのだろう…。そう実感する。   とにかく、私はコンセントを抜かず、そして自分にこう納得させた。幾ら何でも自分の 叔母や従兄弟の家に盗聴器などを仕掛けないだろうと。ましてやまだ(当時)20代前半の娘がと。  (続く.)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る