第6話

確かこんな風だった。          刑事のほうが、玄関付近にいた私にまず近付いて来た。私は焦った!!恐かった。目付きが厳しくて恐い、ドラマに出て来る様な中年の刑事だった。             私ではない!!母は甥と言ったし、私は髪が肩まであった。髪は真っ直ぐで、ワンレングスだから男の子には見えない。      確か赤いトレーナーを着ていた。地味な格好を心掛けていたが、やはり女の子だから赤や明るい色はたまに着ていた。       下は薄茶色のストレートのカラージーンズだった。確か当時はこれを年中履いていて、とても気に入っていた。          刑事は私の目の前に来て、顔をジッと見た。それから離れて、周りを見てから「あいつだな。」、と呟くと裕の側に近付いた。    裕の顔を睨みつ付ける。         「おい、お前かぁ。盗みをやったのは?」 ハスキーな声で憎々しそうにそう言った。 裕は黙っている。            刑事は母に事の真相を訪ね、母が詳しく説明をした。                「お前、叔母さんの大切な物を盗みやがって。太え野郎だな。」           何度かそんな事を憎憎しく言った。    そして裕を連れて行こうとして、腕を掴み、若い巡査も反対側の腕ん掴み、体をベッタリと裕にくっつけて家の中から連れ出そうとした。               「裕?!」               雅子が金切り声を出した。そして泣きだした。                「裕!!」               康男も叫んだ。             「智子!!智子、止めてよ?!止めさせてよ〜?!」               「智子、助けてくれ!!頼むから裕を助けてくれよ?!」              康男も泣きそうな声を出す。       「智子〜!!お願いだから助けてよ〜?!智子〜!!」               雅子が泣き声で喚いた。         刑事のそのオジサンはその様子を馬鹿にし た様に見ながら、裕の腕を嬉しそうに腕を掴み、言った。 私は焦った。このままだと又母は流されてしまう!!何とかしなければ。私は急遽口を挟んだ。          「ママ、ラーメン食べに行こうよ?!」                全員が私を見た。驚いている。      「ママ、ラーメン食べに行こう?今、行こうよ?!」                母が私を見つめる。           刑事がハッとした。           「良いですね〜、ラーメン。娘さんと行かれたらどうですか?」           母は悩んでいる。            「ラーメンなら、美味しい所を知ってるんですよ。お教えしますから。」       「ママ、行こう?!」          「そうね。じゃあママ財布持ってこなくちゃ。」                  刑事は嬉しそうだ。ニヤニヤしている。もう少しだ。だが雅子が凄い声で叫んだ。   「智子?!」              刑事が裕に言った。           「さぁ、たっぷりと署で話を聞かせてもらうからな。」                二人は裕をしっかりと挟んで、裕は刑事ドラマさながら、抵抗できずに家から引きづられて行く。何とも哀れな、惨めな姿だった。 そして雅子と康男はまだ息子の名前を泣き声で呼んだり、母に助けてくれと必死ですがっている!                「叔母さん?!叔母さん、助けて?!」  裕がいきなり哀れっぽい声を出して、何とか首だけを後ろに向けた。         「叔母さん!!叔母さん!!」      もう泣き声だ。あんな声を出すなんて?! あれが演技だなんて思えなかった。幾ら凄く図々しくても、やはり恐くなったのだろう。今までは自分のした事なのに、只の傍観者だったのだが。              両親がいるから守ってもらえると安心していたのだろう。うちとは違い、まず子供を本気では叱らない親だから。只、少し口うるさいだけの。だから当然、何も反省をしていないのだから。               母はうつむいていた。だが、裕やその両親の懇願する哀れっぽい声についに耐えられなくなった。又いつものお人好しさが出て来た。                 「もう、いいです。」           苦しそうな顔でそう言った。オジサンのその刑事が振り向いた。           「エッ?」               驚いて、嫌な顔をした。         「もういいですから。」         「何を言われてるんですか?」      呆れ帰っている。当然だ!!裕の顔が輝いた。雅子と康夫も安堵している。     「でも盗まれたんでしょう?なら、このまま連れて行って調べて、そうしたらちゃんとに品物は返って来ますから。」        確かそうした事を長々と言った。     そうなのだ!!ちゃんとに訴えを出して取り調べてもらい、このクズに全てを吐かせたら良いのだ。そうしたらあれ等は全て盗品なのだから、質屋はそれらを持ち主に返す。既に誰かに売っているやつもあれば、それらも返してもらえるのだろう。何せ盗品!!を売っていたのだから。             だが母は大馬鹿者だから、もう頑なに断っていた。それでこの刑事も一生懸命に母を説得したが、一度何かを強く決心するともう絶対にそれを変えない、融通の効かない人間だった。                  只例外としては、祖母に命令されればするのだが。だがもし祖母がいても結果は同じだっただろう。               何故なら、自分の大切な何かを持って行かれて売られた訳じゃあないのだから。だから自分には痛くも痒くもない。        だからそんな警察騒ぎになり、長女の息子が窃盗犯になり前科が付けば、自分もうるさく長女に愚痴られたりして面倒臭い。祖母には何でも損得勘定だったからだ。      幾ら説得しても駄目なので、刑事は仕方無く諦めて、二人は裕を離した。離してから裕の顔を自分の顔を近づけるとこうドスの利いた声で言った。              「おい、お前、良かったなぁ?叔母さんに 許してもらえて。親切な叔母さんにうんと感謝しろよー?!もう盗みなんか、するんじゃねーぞ!又盗みなんかやったら、その時は 覚悟しとくんだな。いいか、分かったなぁ?!」                裕は黙っていた。だが直ぐに刑事から離れて部屋の奥に行き、立っていた。そこで満足そうに満面の笑みを浮かべた。       刑事はその様子を見て、頭に来ていた。丸切り反省の色が無いのを見て。私にもそれは 分かった。               母はどうだろう?不服で嫌だけど、反省をしていると思っていたかもしれない。    だから刑事は次にこうした事柄を言った。 あなたが駄目なら、娘さんが被害届を出せば良いからと。私が18歳ならできるからと。そして私の年を聞いた。18かどうかを。 母は17歳だと嘘を付いた。         刑事が執拗に聞いた。本当にそうなのかと。母は断言した。娘は高校2年生で、17歳だと。                  私はイライラした。刑事は食い下がった。本当に18歳ではないのかと。嘘ではないのかと。                  私は頭に来ていたが、母は怒ると私には気狂いの様になり、小さな時には特に暴力を振るいまくったし、持ち物を捨てたり切ったり壊したり水をかけたり等、又は友達の親に電話をかけて遊びに行かせない様にしたりだとか、ありとあらゆる嫌がらせや虐めをしてきた。そして、逃げ道は無かった。     だからハッキリとそこで普通には言えない、説明できない。恐くて言えない!!    私は18歳ですと。学年は母により、下げられているけど、本当なら高校3年生ですと。だが何としてでも真実を伝えたい。    私は思い切って、大きな声で数字を言い始めた。自分の生年月日を西暦で言った。   皆全員が驚いて私を見た。私は何度も繰り返した。                 「何だあれ?何言ってんだ?」      刑事が巡査に聞いた。巡査は黙っている。 伝わらない?!             私は、今度は昭和で誕生日を言った。2回繰り返したが、まだ伝わらない!!     それでハッとして、昭和何年と、月と日付を離してから又何度も繰り返した。     「あれ、何言ってんだ?!」       「頭がおかしいんじゃないですか?」   カンが悪いな、警察の人間なのに?!?! 私はムカムカしながら叫んだ。      「年ー!!」              まずは伯父の康夫がハッとして凄く困った顔をした。                すると巡査が言った。          「生年月日じゃないですか?」      私の顔がパッと明るくなったのを刑事はジッと見ながら、ニヤニヤして嬉しそうだった。私に優しく聞いた。           「それは、あなたの生年月日なの?」   母は横を向いている。伯父伯母が険しい顔で私を見つめる。裕も嫌そうに下を向いている。                  私は声を出さずに、直ぐにうなずいた。  刑事はとても嬉しそうだ。又聞いた。   「もう一度聞くけど、それはあなたの生年月日なの?」               私は又強くうなずいた。         続.

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