第3話

この窃盗事件に付いて母が本当に分かったのは、かなり後からだ。だが最初に気付いたのは、私だった。             ある時に、裕が家に来た時だ。そのかなり前から、よく一人で来る様になっていた。  理由は、祖母に会いに来る、と言うものだった。だが本当は違っていた。母の蝶額を盗む為にだ。そして私や母がいない時に、上手い具合にその二階の部屋に行き、盗んで質屋へ行っていたのだ。            私はある日、裕がその蝶額を一つ持ち去り、家を出ようとしている所を見た。驚いて慌てて止めたが、無視して出て行こうとした。 私は言った。             「一寸それ?!ママのだよ!!何勝手にやってんの?何処に持って行くの?!」    その時、母はまだ会社で、祖母が丁度晩御飯のおかずを買いに行っていていなかった。 裕が来たからとその日はお刺し身でも食べようかと言い出し、買いに出ていていなかったのだ。                 裕はわざとそうした食材を頼み、いない間に上手く逃げていて、探したり買い求めているその間に逃げていたのだ。こうした事柄を何度も、執拗に繰り返していたのだ…。   だからその時、家には私しかいなかった。 私は狼狽しながら、そんな事をするなら母に言い付けると言った。だが、クズの裕は私を馬鹿にしながら、鼻で笑って言った。   「勝手に言えよ!誰がお前なんか信用するんだよ?!合の子なんか!!どうせ叔母さんは俺の言う事の方を信用するだけなんだからな。」と。               私は驚きながらも、困った。母はそうした傾向が多分にあったからだ!!       私の父親に捨てられて、子供を押し付けられたと思っていたから、小学校に入った位からは年中、気分が向くと私を虐めていたのだ。よく何か理由を作ったり、又は私に無関係の何かの理由で、当たったりしていた。高校を卒業するまでは年中そんな感じだった。 又、何か一寸した事で叱る時には(祖母もそうだが)、半端ではなかった。      母は異常な程に怒り、そうすると直ぐに暴力をずっと奮った。           又、他人や親戚達がいると、その前でわざとオーバーに叱り付けて恥をかかせた。それをいつまでもやり、楽しんだ。       周りの人間も、私に同情する人間もいたが、余りにしつこいのと、その人間にも同意を求めたりしたから、段々と自分達も母のワンマンショーにのめり込んだ。だから楽しく鑑賞したり、一緒になって意地悪を言ったり詰問したりした。母は又それも喜んだ。    だから私の従兄弟達も、こうした事をよく見ていたのだ。              又母は、私だけを無視して従兄弟達には優しく話しかけたり、何かを出して見せたり食べさせたりして、私の分をわざと用意せずに、自分で用意させたりした。        そうした時に幾ら話しかけても完全に無視して、何時間も私とは丸で口をきかず、徹底的に無視した。              もっと大きくなると、母は家に訪ねて来た皆の、全員の食べ物を買いに行かせたりした。私が10人分位の、例えば小僧寿しを買って来ると、待ちながら皆で楽しそうに談笑している。従兄弟達もくつろいでいる。    母は私がトイレに入っている間にお寿司を皆に配り、お茶を入れて食べている。    私が、何で待っていてくれなかったのかと言うと、物凄い剣幕で私をどやしつける。  「あんた、何をふざけた事言ってるの?!あんたがトイレから出て来るのを、みんなお腹を空かしてるのに、わざわざ待たないといけないの?あんた一人の為に?!」     「でも、あたしが買いに行ったんだよ?!」「だったら何なの?!親が言いつけたんだから、そんなもん買いに行くの、当たり前じゃん!!違うの?!」           この様子を祖母や、そこに集まった親戚一同は黙って食べながら聞いている。祖母は知らんぷりをして。そして同じ様に無視して、表情に出さない者もいる。         母の姉で、裕の母親は、「フン!」と、馬鹿にした声を出して私を面白そうな顔で見る。裕も嬉しそうに、馬鹿にした顔をしながらガツガツと食べる。            母は優しい時もあり、見栄っ張りだから物にはいつも不自由をしなかった。親戚達も、いつもがこんな風でも無かった。(裕は、いつもそうだったが。)           だが母にはこうした虐めをずっと、特に高校を出る位までは大なり小なりと、5、6歳位からずっとされてきた。だから私は裕に反論できなかった。事実だと思ったからだ。  だから困って黙っていると、裕は又言った。「俺はお前なんか大嫌いなんだよ!!親戚にお前みたいなのがいて、すげー恥ずかしいんだからな。外人なんかがいて!!大体、こんな物、叔母さんが死ねば全部お前の物になるんだからな!お前なんかの物に!そんな事を、絶対に俺はさせないからな。絶対にこんな物を全部、お前なんかにやれない様にしてやるから。」              そう言って、ざまあみろと言う様な顔をして 私を見ると、そそくさと出て行った。 だが傷ついても、黙ってそんな事を見ている訳にはいかなかった。私も急いで外へ出た。                  裕はドンドンと急ぎ足で、慣れた感じでその道を歩いて行く。私は離れて後を追った。 そうして5、6分も歩くと、"笹屋"と書いてあるのれんの出た、和風な家があり、裕はその質屋に入って行った。         入る前に私に気が付くと驚き、物凄く怒りながら、付いて来るな、店内に入るなと言った。入って来ようとしたら、すぐ側の路地の、人に見えない所に引っ張り込んでこてんぱんにしてやるからと脅かした。     めちゃくちゃに殴って、足腰立てない程にボロボロににするから覚悟しておけて凄んだ。そしてそこにほっぽっておけば、自分がやったなんて証拠は絶対に無いから分からないし、どうにもならないからと何度も、自信ありげに言った。             周りに人はいなかったし、私はこの浅ましくて卑しい従兄弟が本気で言っているのが分かった。物凄くスポイルされた、最低な男なのだから。                だから恐いから中には入らずに、外で仕方無く出て来るのを待った。         しばらくすると裕は出て来て、私をチラッと見ると、嬉しそうに札束を見せつけながら、財布をポケットから出して嬉しそうにそれをしまうと足早に去って行った。      私にわざと見せつけた手元には、確か3万円が、しっかりと握られていた。      裕が去ると私は店内に入った。      質屋のおじさんが私を見た。一体何なのだろう?、と不思議そうに私の顔をジーッと見つめた。                   続.                 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る