第十三話 元最強戦士元勇者と殴り合う
翌日から、用務員室は不良達の溜まり場となった。
朝から下校時刻まで入り浸るようになり、飲酒、喫煙、賭博とやりたい放題。
あげく、ジェイクのことをパシリとして使うようになっていた。
「おい雑用、酒がなくなったぞ!」
「もうそれで最後ですよ」
「だったら買って来いよ!」
「そんな毎日毎日、安月給なのにもうお金はないですよ」
ジェイクがもう勘弁してくれと泣きを入れると、不良達はゲラゲラと笑いながら言う。
「だったらかっぱらってくりゃいいだろ」
「そんな、犯罪ですよ」
「ああん、なにビビってんだよ。そんなんだからいい大人が舐められるんだぞ。どうだ、度胸試しに、ちょいと簡単な商売してみるか?」
酔っぱらった不良の一人がジェイクに、遂に商売の話を持ちかけてきた。
チャンスと思うのだが、それを仲間が止めに入る。
「馬鹿おまえ、これ以上売り子を増やすんじゃねえって言われてるだろ。知っている奴が増える程リスクも高まるんだよ」
「でもよ、あのボンボンが学校休むようになって、ちょっと実入りが少なくなったじゃねえか。その埋め合わせだよ」
ボンボンとはカイルの事だ。
カイルはザコーイに屋上でシメられた翌日から、もう一週間学校を休んでいた。
送迎をしていた召使いが言うには体調不良ということだが、どうせ仮病だろうとジェイクは踏んでいた。
結局、商売の話は流れてしまった。
不良達から情報を仕入れるチャンスだったのだがフイにしてしまった。そう思っていると。突然。不良の一人が床に倒れ込んだ。
「おい? どうしたんだよ? マーカス? おいっ!」
なにか異常事態だと察した不良達が、倒れこんだ仲間の名を呼んでいる。
その内に倒れている不良は、泡を噴いて白目を剥き、痙攣を起こし始めた。
「おい! なにをしたんだ! どうしてこうなった?」
ジェイクも駆け寄り、倒れている不良の額に手を当て、手首で脈を取る。
「し、知らねえよ……」
「ヤクだな?」
「な、なんのことだよ?」
「いつやった? 中毒を起こしている。このまま放っておいたら死ぬぞ!」
それは戦時中に駐屯地でよく見た症状だった。
緊張の所為で大量にハッパを吸って、中毒症状を起こした奴とそっくりの状態だったのでジェイクにはすぐにわかった。
「保険医を呼んでこい! それから救急だ!」
しかし不良達は誰も動こうとしない。
動揺はしているが、倒れている仲間を救おうと行動する者は一人もいなかった。
「馬鹿野郎っ! 仲間が死んでもいいのか!」
ジェイクは自分の魔導フォンを取り出すと救急にコールした。
15分後、救急隊員が到着しマーカスが救急搬送されると、校内は慌ただしくなった。
生徒達は教室で待機となり、教員及び全職員は職員室で緊急ミーティングとなる。
「とりあえず今日はもう休校にして、生徒達は下校、自宅から出ない様にと指示を出しましょう。明日も休校にするかどうかはその後、話し合いということで」
ラルフが職員達に指示を出すと、担任を持つ教師達は各々のクラスへと向かい、他の職員達も各自の業務に戻った。
ジェイクは、ラルフが視線で面を貸せと合図を送ってきたので、ミランダと共に校長室へと向かった。
校長室に入るなり、ラルフがジェイクの胸倉を掴みあげて怒声を上げた。
「なにもするなと言っただろうっ!」
「俺が? なにをしたってんだ? 気持ちはわかるが落ち着けよ」
「誤魔化すな。彼らが用務員室に入り浸っていたことは知っている。おまえが、あの場所を溜まり場として提供していたのかっ!?」
ラルフの物言いにジェイクはカっとなり、胸倉を掴み返した・
「ああっ!? そりゃどういう意味だ? 俺が、ガキ共とつるんでヤクをやってたとでも言いてえのか?」
「若い頃、おまえがやっていたのは知っている」
「ハッパと一緒にすんじゃねえ! あいつらのやってたのは合成麻薬だ! 中毒になりやすい質の悪いジャンクだよ」
「随分と薬物に詳しいじゃないか?」
「てめえっ!」
カーミラに依頼していた薬の詳細。さすがに出所まではわからなかったが、ラッシュと呼ばれる合成麻薬で、近年巷に出回っている物らしかった。
市販の薬物から簡単に抽出できるものの、中毒性と依存性の高いとされている代物で、マフィアなどの組織などをバックにもたない、半グレ集団などの資金源になっているらしい。
ラルフの煽りに、演技とは言え不良達に舐められて鬱憤の溜まっていたジェイクの怒りが爆発する。
顔面を殴り飛ばすと掴み掛かろうとするのだが、今度はラルフの蹴りがジェイクの腹にめりこむ。その後はもう無茶苦茶であった。
掴みあっての殴り合いになるのだが、それを止めたのはミランダであった。
相変わらずどこから取り出したのかわからない竹刀で、二人の弁慶の泣き所を思いっきり打ち抜くと。床に転がり悶絶しているジェイクとラルフの喉元に突きをお見舞いした。
そして、声を上げることもできずに倒れ込む二人を見下ろしながらミランダは啖呵を切った。
「てめえらあっ! いい加減にしねえとぶっ殺すぞっ! ああん? あたしのことを舐めてんのかごらぁっ!」
二人は、ミランダが元ヤンであることをまだ知らなかった。
騒ぎが治まると、校長室のドアをノックする音が聞こえた。
ラルフが掠れた声で「どうぞ」と言うと、ゆっくりと扉が開き簾ハゲの頭が、にゅっと入って来た。いや、教頭先生が入って来た。
「あ……あのぉ、校長。警察の方がいらしているのですが?」
通報した覚えはないのだが、一体どこから嗅ぎつけたのか。
もしも薬物が校内で使用されたものとなると大問題であった。
いや、王立高等学校の生徒が薬物を使用した。もうこれだけで十分に大問題であった。
とにかく下手に隠そうとする方が不味いと判断し、ラルフは教頭に通すように言う。
校長室に入って来たのはエイロット・イエーガーであった。
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