第六話 元最強戦士晒される

 昼下がり。

 校舎の屋上には、午後の授業をサボってたむろする不良達の姿があった。


「やったなカイル、おもしろいもんが撮れたじゃん。再生数めっちゃ伸びてるぜ」

「おまえ、有名人じゃんw」


 魔導フォンの画面を見せながら、不良少年二人が笑う。

 カイルと呼ばれた少年は、金色の鶏冠頭に櫛を通しながら自慢げに笑った。


「おいおい、顔まで映ってねえだろうな?」

「大丈夫だよ。それにしてもあのおっさん、マジでウケルな。動画撮影されてるのに、何されてるかマジでわかってねえみたいだったし」

「終戦したことを知らないで孤島にいた騎士いたじゃん。あんな感じなんじゃねえの?」


 画面に映るジェイクの激昂する姿を見て、少年達が笑っていると突然背後から何者かに声を掛けられる。


「おーう、てめーら、随分ご機嫌じゃねえか」


 声を掛けてきた人物を見て、カイル達はすかさず立ち上がると直立不動になる。


「よお、カイル。おもしろいことがあったみてえだな」

「は、はい! ザコーイ先輩」

「残念だぜ、俺達はおまえらみてえに“マジメ”じゃねえからよ。あの場にいなかったんだよ」


 ザコーイと呼ばれた三年生は、身長190cm近くはあろうかという大男だった。

 カイルの鶏冠を手で捌きながらニヤニヤと笑っている。

 他にも4人、上級生達に囲まれて一年生のカイル達は緊張に固まった。


「ところでカイルよぉ。あれはどうなってんだよ?」

「あ、あれですか……」

「そうだよ。最近、売り上げが芳しくねえみたいだけどよ。他のチームに比べて、カイルチームは業績が悪いって報告を受けてんだけどなぁ」

「そ……その、すいません」


 カイルは俯き小さな声で答える。

 するとザコーイは、ポンポンとカイルの左肩に右手を乗せ服を掴むと、思いっきり左拳をカイルの腹に打ち込んだ。


「うっ、うぅぅぅぅ」

「三日だ、三日以内にこれまでの倍、捌いてこい」

「そ、そんな、三日なんて無理です。大体もう校内じゃあ、生徒会にも目付けられてるし」

「学校がダメなら、外で売ればいいだろうが! てめえらだって売り上げの3割は懐に入るんだから美味しい商売だろうがよ」

「は……はい、わかりました」

「とりあえず、あるだけでいいから出せよ」


 ザコーイが手の平を差し出すと、カイルはポケットから財布を取り出して有り金を全部渡した。

 上級生達が去って行くとカイル達はその場にへたり込んでしまった。


「ちくしょう、偉そうにしやがって」

「とは言ってもよカイル。ザコーイ先輩マジで怖えし、逆らわない方がいいって」

「そうそう、あと半年もすれば卒業なんだし。それまでは大人しくしとこうぜ」


 仲間に諭されると、カイルは地面に唾を吐いて悔しそうに拳で地面を叩いた。




「言語道断だよ。やっぱり、きみなんか雇うんじゃなかった」


 ラルフは自分の席に座ると項垂れながら言った。

 校長室には他に、ミランダとジェイクも居る。ばつが悪そうにしながらもジェイクは反省の弁は口にしなかった。


「悪いのはガキ共の方だろう」

「ガキ共じゃない、生徒達だ。きみは、うちの教育理念を根底から覆したんだぞ」

「なんだよそれ」

「忍耐だよ。この学園に通う者全員。生徒だけではなく教員を含めた全職員に、忍耐力を身に付けるように説いている」

「大失敗じゃねえか」


 ジェイクの突っ込みは無視してラルフは続ける。


「とにかく、やっぱりきみは駄目だ。きみのような短気で乱暴な男をこの学園で雇うわけにはいかない」

「それは駄目です校長」

「なぜだミランダ……いや、ベルティスくん」


 ミランダに窘められて、ラルフは露骨に不快な顔をする。

 ジェイクとしても、こんなところクビになっても構わないとは思っているものの、ラルフに言われてまた追放されるのは癪に障るところであった。


「1か月間は試用期間として雇うと契約書には書きました。それを、あの程度のことでクビにしては不当解雇になります」

「きみはこの男のことを知らないからそんなことが言えるんだ」

「ええ知りません。ですから、試用期間を設けたのです。大体、たった一日でクビだなんて、それこそ忍耐がなさすぎです」


 ミランダの突っ込みにラルフはぐぅの音も出ない様子。それを見て、ジェイクが失笑を漏らす。


「なにか言いたいことがあるのかジェイク」

「いいや。まあ俺だって働き始めたその日にクビってんじゃ恰好がつかないからな」

「そう思うのなら、今後あんな言葉を生徒達に向かって口走るんじゃない。うちには上流階級のご子息も通っているんだぞ。もし保護者の方達に聞かれでもしたら」


 そこまで言うと、ミランダが魔導フォンを取り出して二人に画面を見せてきた。


「それでしたら、残念ながら既に動画がネットに流れています。音声付で」


 魔導フォンから流れる罵詈雑言の音声を聞いて、ラルフは深い溜息を吐いた。

 ジェイクは目を真ん丸にして驚いている。


「なんだ? テレビに俺が出てるぞ?」

「テレビじゃないよジェイク。ネットにきみの動画がアップされたんだ?」

「ネット? どこのネットだ? ネットってなんだ?」


 ジェイクの言葉にラルフはもう言葉にならない様子で頭を抱える。

 それを見て、なにかおかしなことを言ったか? といった表情のジェイク。


 そんな対照的な表情の二人を、ミランダはいつも通り無表情のまま見つめているのであった。

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