第十九話 元最強戦士お縄につく

 エリックの持っている魔導銃は、オート式のハンドガン。弾倉に9発ないし、11発装填できるタイプの物だとジェイクはあたりを付けた。

 暗がりの中、魔導二輪車のヘッドライトだけが照明代わりの中、エリックの持っている魔導銃のタイプまで見切るのは、離れた場所からは困難だった。

 しかしそう簡単に、軍モデルの物を入手できるとは考え難い。

 ソロファミリーが北の方から流入してきたと言うのなら考えられるのは、違法に作られた品質の悪いものだった。

 であれば、戦いようはあるとジェイクは駆け出す。


「おいおい! 動くなって言っただろおっさん!」


 横に走るジェイク向かってエリックが発砲する。

 弾は外れて近くの地面が弾けた。

 ジェイクは並んでいる不良達のバイクの影に滑り込む。

 思った通り、エリックは素人であった。

 銃を片手で持ち狙いを付けているのを見てジェイクはそれを見抜いていた。

 あれでは、安定して狙いを定めることはできない。ましてや質の悪い違法銃なら尚更だった。

 さっきザコーイの足を撃ち抜いたように見えたのは跳弾。

 地面に当たって砕けた弾丸や小石が当たったのだろう。

 直撃していたらどんなに威力を落とそうが、膝から下が吹き飛んでいた筈だ。


「ちっ、ちょこまかと逃げやがって」


 エリックは舌打ちをしながら弾倉を入れ替える。

 ザコーイを撃った分と合わせて丁度11発。これも読み通りであった。


「おいガキっ、本気で殺す気か! そいつが直撃したら、冗談だったじゃ済まないんだぞ!」

「ビビるとでも思ってんのか? こいつをフルパワーで撃てば、てめえの身体なんか木端微塵だ。この街の毎日の失踪者が何人いるか知ってるか? てめえみたいなおっさん一人居なくなっても誰も気にもとめねえぜ?」


 その失踪事件の幾つにマフィアが関わっているのかは知らないが、エリックの言うことはごもっともだとジェイクは思った。

 自分の様な社会の爪弾きにされてきた人間が、今更どこで野たれ死のうが……。


「いや……違う……今の俺は」

「あぁん? なにぶつぶつ言ってんだ?」


 ジェイクはバイクのボディーに身を隠しながら、エンジンのかかっているバイクのアクセルに手を伸ばした。

 エンジンを噴かす音が聞こえるとエリックは笑った。


「ははは! そいつで逃げるつもりかよ。おまえ馬鹿か? ちょいと威力をあげれば、バイクごと木端微塵に!?」


 その瞬間、エリックは我が目を疑った。

 ジェイクが逃げるどころか、バイクに跨り自分に向かって突進してきたからだ。


「くそっ! 死ねやああっ!」


 トリガーが引かれる直前、ジェイクはバイクの前輪を上げてウィリー状態になる。

 至近距離で直撃した魔導銃の弾丸はバイクの燃料タンクに直撃すると大爆発を引き起こした。


 爆風に飛ばされてエリックは地面を転がった。

 しばらく地面に突っ伏していたのだが、よろよろと立ち上がる。

 地面に転がっていた魔導銃を拾い上げると、エリックは辺り見回した。


 炎の柱が辺りを真っ赤に照らし出す。

 遠くから警察のパトカーのサイレンが聞こえる。

 それを聞いて不良達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出していた。


「くそっ、潮時か……」

「いいや、まだだぜ糞ガキっ!」


 いつの間にか背後にジェイクが立っていた。

 おそらく、爆発する寸前にバイクから飛び降りたのだろう。所々、衣服が破れて擦り傷だらけであった。

 ジェイクは見下ろしたまま何もしようとしてこなかった。

 エリックは銃口をジェイクに向ける。


「無茶苦茶しやがって、何考えてんだよおっさん」

「おいおい、ビビってんのか?」

「あ? 誰がビビッてんだよっ!」

「おまえだよ。手が震えてるじゃねえか」


 ジェイクにからかわれてエリックは顔が真っ赤になる。


「俺のことを殺すんだろ? まだ生きてるぜ?」

「ああ、やってやるよっ! ぶっ殺してやるよっ!」


 挑発されたエリックは震える手を押さえ込むように両手で魔導銃を握り狙いを定める。そして、トリガーを引いたが、弾丸は発射されなかった。


「な、なんだ?」

「爆発の衝撃か、地面に落とした時の衝撃か。戦場じゃ、魔導モーターの故障なんてしょっちゅうだった。なんにせよ違法銃の粗悪品、すぐにぶっ壊れるだろうと踏んでたぜ」

「てめえ……なにもんだよ?」

「単なる、用務員だよ」


 ジェイクが笑った瞬間、拳がエリックの顔面にめり込む。

 殴り飛ばされたエリックは、地面を転がり這いつくばった。


「くそお、てめえ、くそおっ!」

「ははは! 結局最後に物を言うのはこいつってことだ」


 ジェイクが笑い飛ばすのと同時、複数台のパトカーが辺りを取り囲み、中から警察官が飛び出してきた。

 見回すと、不良達もお縄についている様子、そして数名の警察官がジェイクのもとに走ってくるのが見えた。


「おいおい落ち着けよ。とりあえず話を……」


 両手を上げて抵抗しない意思表示をするが、警察官は構わずジェイクに飛びかかってきた。


「おとなしくしろ! 抵抗したら余計に罪が重くなるぞ!」

「だから抵抗しねえって言ってるだろ! いてっ、馬鹿野郎てめえっ! 話を聞きやがれ!」


 結局もみくちゃにされると、ジェイクは両手に手錠を嵌められてしまうのであった。

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