第二十話 元最強戦士出所する
警察署を出てくる二つの影に気が付くと、ミランダは駆け寄り声を掛けた。
「お疲れ様でしたマッコイ校長、それにローレンスさん」
しかし二人は仏頂面のままで返事もない。互いに少し距離を取り、視線は絶対に会わせようとしなかった。
困ったものだとミランダは溜息を吐いたが、なんとか場を取り持とうとした。
「それにしても、たった二日で解放されてよかったですねローレンスさん」
「ちっ……まあ、あれだけのことがあったんだ早い方だとは思うよ」
明らかに不機嫌な様子でそう答えたジェイクに、更に不機嫌な様子で付け加えたのはラルフであった。
「私のおかげで出て来れたんだ。でなければ今でもきみは留置場で夜を明かすことになっていたんだぞ」
「ああ? 一番大事な場面でなにもしてなかった野郎が偉そうに言いやがって」
「大体きみはどうしてそう我慢ができないんだ。電話でベルティスくんに、私が動いているから待つように言われただろう」
結局、警察署の前で口論を始める二人に、ミランダは頭を抱えるのであった。
あの後、ジェイクをはじめとしたあの場に居た不良達は、皆逮捕されて警察署に連行された。
河川敷で爆発があったのだ。流石に通報があったのだろうと思っていたのだが、それにしては早すぎるとも思っていた。
どうやら、あのタイミングで警察が駆け付けてこれたのは、ラルフの根回しであったらしい。
不良共がたむろしているだけで、あれだけのパトカーが出動するわけがない。
あれは、元勇者の肩書をもつラルフが、コネを使って警察署長に直談判に行った結果だと言う。
「かなりの借りをを作ったんだからな」
「それでガキ一人の命を救えたんだ。釣りが来るだろう」
「きみへの貸しは、そんなもんじゃ済まないぞ」
「ああ? 貸しだと? 一番身体を張ったのは俺だぞ!」
「二人ともいい加減にしないとキレますよ?」
ミランダが一睨みすると二人は黙り込んだ。
そんなジェイクとラルフを警察署の入り口前にある階段下から見上げていたミランダは、その背後に現れたもう二つの影に視線を送る。
それに気が付いたジェイクとラルフが振り返ると、そこにはカイルとフォーマルな格好をした壮年の男性の姿があった。
階段を下りきった所で、男性はラルフに近づいてくると頭を下げた。
「校長先生、この度は息子が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」
「い、いえ、ジェラードさん。こちらこそ、生徒達を危険な目にあわせてしまったことを深くお詫び申し上げます」
慌ててラルフも頭を下げる。
カイルはズボンのポケットに手を突っ込みながら、父親の後ろで不満げな顔をしていた。
「愚息のしでかしたことは、社会的には許されない犯罪行為です。しかし……」
そこまで言って口籠ると、カイルの父親は顔を上げて鋭い視線でラルフを見る。
「私の立場を、あなたなら理解できるはず」
「と……も、申しますと?」
「この国にジェラードがどれだけの貢献をしてきたか。戦時中に国の英雄として戦ったあなたと、戦後復興に大きく寄与してきた私と、お互いに共感できる部分もあるかと私は考えています」
ラルフはジェラードの目を見返すが返事はしなかった。
しかし、見兼ねたジェイクが割って入った。
「要するに揉み消したんだろ」
その言葉に唖然とするラルフとミランダ。
わかってはいたが口にしなかった言葉。
ジェラードは顔色一つ変えずにジェイクのことを見据えると、先程までと全く変わらない声色で答える。
「あなたは?」
「ジェイク・ローレンスだ。マッコイの学園で用務員をやっている」
ジェイクが右手を差し出すが、ジェラードはそれを無視した。
握手を拒否されたジェイクは行き場の失った右手を2~3回握った。
「揉み消すとは?」
「金か、或いは警察上層部、それ以上の権力者が居るのか。なんにせよ、今回の件にてめえんとこのガキは一切関与してねえことにしろって言ったんだろ」
「お、おいジェイク、そんな憶測でジェラードさんを非難するなんて」
睨み合うジェイクとジェラードの間へ、慌てふためくラルフ。
ジェラードは余程の権力を持っているのだろうとジェイクは思った。
しばしの沈黙が続いたのだが、静寂を破ったのはカイルの笑い声だった。
「くっくっく、そうだよ。金の力で全部思い通りだよ」
「カイル、なんだその口の利き方は」
「あんた、それで、父親らしいことをしたとでも思ってるのか?」
「なんだと?」
その言葉に、これまで冷静だったジェラードが初めて怒りを露わにした。
今度はラルフとミランダにつられてジェイクまでも唖然とした表情になる。
「金さえあればなんでも思い通りになると? 母さんも、愛人も、警察も政治家も! 息子でさえも金をやってれば言うことを聞くと思ってるんだろっ!」
「カイル! いい加減にしろっ!」
ジェラードがカイルの頬に平手打ちをした。
「ジェラードさん! 暴力はいけませんよ!」
ラルフが慌てて止めに入るのだが、カイルは張られた左頬を赤くしながら父親を睨み付けた。
その眼の奥に宿る、憎しみと怒り。
そして、それ以上に悲しみが伝ってくるのが、ジェイクにはわかった。
「誰が……てめえの思い通りになんてなるかよ」
「おいっ! カイル! 待てカイルっ!」
ジェイクの呼びかけを無視して、カイルは走り出すと街の喧騒の中へと消えて行くのであった。
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