第十八話 元最強戦士駆け付ける

「エリック……どうして?」

「それそれ、その顔が見たかったんだよね」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるエリックを見上げて、カイルは歯ぎしりをした。


「くそおっ! 騙してやがったのかっ!」

「騙される方が悪いんだよ」

「なんでだよ……ちきしょう」


 わけがわからず、ただ悔しいという感情だけが湧きあがってくる。

 カイルはヨロヨロと立ち上がろうとするのだが、ザコーイに足を掛けられて再び倒れ込んだ。

 それを見てエリックが笑い声をあげる。


「はははっ、おまえさ本当に馬鹿だよな。なんかさ、おまえみたいな奴見てるとなんだか虐めてやりたくなるんだよ。おいザコーイ!」


 エリックはザコーイを呼ぶと、足元にあった拳大の石を手渡した。


「こいつで、潰せ」

「は?」

「は? じゃねえよ。こいつで、あいつの手、どっちでもいいから潰せ」

「な、なんで俺がそんなこと……」


 ザコーイは拒否しようとするが、エリックが睨みを聞かせると顔色を変えて石を受け取った。


 地面に突っ伏したまま声も上げられないカイル。

 目の前にしゃがみ込んだザコーイはカイル右腕を掴んで、掌を地面に押しつけた。


「や、やめろ」

「ソロファミリー。名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「ソ……ロ……マフィアの?」

「そうだよ。流石に歯向かうことはできねえよ」


 暴れるカイルのことを不良達が押さえ込む。

 ザコーイがカイルの手の甲に石を振り降ろそうとした時。



 パアン! とクラクションが鳴り響く。



 同時にエンジンの爆音が鳴り響くと、一台のバイクが不良達をなぎ倒して突っ込んできた。

 バイクは、カイルとザコーイの間をスレスレで擦り抜ける。

 ギリギリのところで地面を転がり、回避したザコーイが怒声を上げた。


「なんだてめえっ! なにもんだっ!」


 不良達の視線が集中し、場には緊張が走った。

 バイクに跨っていた男が振り返ると、ザコーイ達は呆気にとられてしまった。


「ざ、雑用係? てめえ、なんで?」

「随分と楽しそうなことしてるじゃねえかガキども。大勢で一人を囲んで楽しいか?」


 颯爽と現れたジェイクの姿に、その場にいる全員が呆然と立ち尽くしていたのだが、すぐに我に返ると一同笑い始めた。


「かっこうつけて登場したのはいいけど、おっさんがなにしにきたんだよw」

「用務員、こらてめえっ! 舐めてるとぶっ殺すぞ!」


 怒声と嘲笑が飛び交う中、エリックは明らかに不快な表情を見せていた。

 ジェイクはそれに気が付くと、ニヤリと笑う。


「なるほどねぇ。ソロファミリーのガキが、ジェラードのガキに近づいて何を企んでんだ?」

「企む? 別に何も企んじゃいないさ。ただ単にそいつがムカついただけだよ。弱いくせに粋がって、群れてないと何もできないヘタレが、偉そうに仲間、仲間ってよ。ぶっ潰したくなるだろ?」


 エリックの、カイルを馬鹿にした表情に、ジェイクは虫唾が走った。


「単なるお遊びってわけか」

「そういうこと。そんでもって、ヤクの一つも碌に捌いてくることのできねえ馬鹿が、ポリ公に目ぇつけられやがったからバラそうと思ったわけよ」


 エリックの言葉に、焦りの表情を見せたのはザコーイであった。

 ザコーイは青褪めてエリックに駆け寄ると問い詰めるように声を上げる。


「どういうことだ、バラすって? ちょとばかしシメてやるって話だったじゃねえか」

「ああん? アホかてめえ。こいつがポリにパクられて、ベラベラと色々喋ってみろ、すぐに芋づる式におまえらもパクられるだろうが。そうなったらおまえら俺の事もゲロっちまうだろ?」

「だ、だからって、こ……殺しなんて」

「おまえ馬鹿かよ。パクられるくらいならまだいいぜ。薬を売ってたことをオヤジにバレてみろ、この世の地獄を味わうことになるぞ?」


 二人のやりとりでジェイクはようやく理解した。

 今回の件は、ソロファミリーが関わっているわけではなく、息子の単独犯。

 エリックがソロファミリーの名前を使って、不良達を脅してやっていたこと。

 そんな中で、遊び半分にカイルに近づいたのだ。


 ザコーイはエリックの言葉に絶句して声も出せない様子だった。

 周りの不良達も同じで、皆、黙って二人のやり取りを聞いていてる。


「じょ、冗談じゃねえ、俺は降りるぜ。ヤクを売ってたってだけでも危ねえ橋を渡ってるってのに、殺しなんてできるかよ馬鹿野郎」


 ザコーイが走り出すと、不良達はその場から一斉に逃げ出した。


 が、その瞬間、大きな破裂音が鳴り響くと、ザコーイが転倒して悲鳴をあげた。


「ぐああああああ! 痛え、痛え! 足が、足がああああっ!」


 ザコーイは右足の脹脛の部分を両手で押さえて地面を転がる。

 その手の間からは、真っ赤な鮮血が滴り落ちていた。


「全員その場から動くんじゃねえっ! 動いた奴からぶちころがすぞごらあっ!」


 怒声を上げるエリックが手にする物を見てジェイクは舌打ちをした。



 魔導銃まどうガン


 魔力を秘めた内臓魔導モーターによって鉛製の弾丸を撃ち出す武器。

 魔導銃によって撃ち出された弾丸は、魔法属性を帯びる為に、普通の弾丸の数倍の威力を発揮する。

 魔族との戦争後期に投入され、絶大な殺傷力を持つために、現代では生産数が制限されている武器でもある。


「なんでそんなもんをガキが、人に向けて使っていい武器じゃねえぞっ!」

「心配すんなよ、威力は落としてあるからさ。本来なら足が吹っ飛んでてもおかしくない代物なんだぜ?」


 そんなことは重々承知している。

 戦争後期には、剣士たちの剣に取って変わった、兵士のメインウエポンとしてジェイクも手に取ったものだからだ。


 だからこそ、その恐ろしさを理解していた。

 弾丸一発で、モンスターを一撃で破壊できる武器を、ミリタリーモードで人間に使えばどうなるか、考えたくもなかった。

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