第十七話 元最強戦士終電を逃す

 リチャードと別れるとジェイクは夜の繁華街へとやってきた。

 カイルを探して当てもなく彷徨う。未成年が来ても入店拒否をしなさそうなアンダーグランドな店から、ネットカフェ、漫画喫茶、路地裏や、公園など、思いつくところは手当り次第回った。

 戦時中、パーティー入っている時には野宿なんて当たり前だった。

 今のガキどもは恵まれているとまるで比較にならないことを思う。


「くそぉ、こんなところ闇雲に探したって意味がねえか」


 どうしたものかと思っていると、携帯に着信があった。

 画面には知らない番号が表示されているが、ジェイクは迷わずに通話ボタンを押した。


「もしもし?」


『……』


「いたずら電話か?」


『……イル』


「あ? なんだ?」


 ボソボソと小さな声で話すのでよく聞き取れない。


「なんだ? いたずらなら切るぞ!」


『カイルの居場所を知ってます』


「なんだと? おまえ誰だ?」


『東105番地区、サンブリッジの河川敷』


「サンブリッジ? おい、なんでお前が知ってる? 誰だおまえは?」


 ジェイクの問いかけには答えず電話は切れてしまった。

 なにかの罠かもしれない。もしかしたらエイロットの野郎かもしれないと思う。

 しかし、このままなんお当てもなく探し続けるよりはマシだとジェイクはサンブリッジに行くことにした。

 時刻は夜中の0時半を回ろうとしている。もうすぐ、終電がなくなってしまうと急いで駅に向かった。


「くそおっ! 間に合わなかった」


 既に終電が出た後であった。

 ここから105番地区に走って行ったら時間以上かかる。

 タクシーを拾おうにも、カーミラに有りを全部渡したので金はない。

 どうしたものかと頭を抱えていると、爆音が響いて近づいて来た。


「よーぉジェイク、久しぶりじゃねえか」

「マックスか」


 声を掛けてきたのは、昔一緒にやんちゃをしていた時の友人マックスであった。


「最近はちゃんと労働に励んでるって聞いてるぜジェイク」

「ああ、いい加減、仕事に就いては止めを繰り返してたら老後が不安だからな」

「はははっ、そういうことは若い時に気付いとくもんだぜ。今さら遅えってもんだ。どうだ、これから一杯?」


 昔の友人の飲みの誘い。明日は休日出し普段なら乗るところだらから、今はそんなことをしている場合ではなかった。

 ジェイクは、ふと、マックスが跨る魔導二輪車の存在に気が付いた。


「ああ、それもいいがマックス、ちょっと頼みたいことがある」

「ああ? なんだよ神妙な顔して?」




 灯りもない河川敷に響くエンジン音。

 数十代の魔導二輪と魔導車のヘッドライトに照らされる中心に居るのはザコーイと仲間達。そして、カイルの姿もそこにはあった。

 カイルは、胸に抱えたボストンバックをギュッと抱きしめ、恐る恐る輪の中心に出て行く。


「ザコーイさん、どうして?」

「どうしてだ? てめえがちゃんと言われた通りにしねえからだろうが?」

「言われた通りにって……」


 ザコーイが近づいてくると、カイルからバッグを奪い取った。

 中身を確認すると、そこにはこれまでカイルに売ってくるように渡したドラッグがぎっしり詰まっていた。


「なるほどな。これまでずっと、てめえのポケットマネーで誤魔化してたわけか」

「や、やっぱり俺には無理っすよ。薬を売るなんて……そんなこと」


 ザコーイはバッグを仲間に渡すとカイルに近づいていく。

 そして、まずは腹に一発。カイルが蹲ると、髪を掴みあげて顔面を殴りつけた。


「てめえにはがっかりだぜカイル、これまで仲間面してずっと俺らのことを騙してわけか」

「なにが……仲間だよ……」

「ああん? なんか言ったか?」


 再び殴られて殴られて、カイルは地面に倒れ込んだ。


「うぅぅ……どうして、どうして俺ばかり」

「どうしてだと思う?」

「大体、なんであんたがここに居るんだよ。俺は、エリックに呼び出されてここに来たのに」


 いつも一緒に居る三人組の一人。エリックが電話で、どうしてもそうだんしたいことがあるからと呼び出された。

 指定された場所に来てみると、エリックよりも先にザコーイ達がこの場所に居たのでカイルは逃げようとしたのだが、捕まってしまったのだ。


 カイルのことを見下ろすと、ザコーイは可哀相にといった表情で見下ろした。


「おまえも、とんでもねえ人に目をつけられたもんだぜ」


 そうだ、ザコーイなんかに関わらなければこんなことにはならなかった。

 両親に反発する為に、不良グループに加わったのが間違いだった。

 家に居るのが苦痛だった。カイル・ジェラードでいること本当に嫌でしかたなかった。

 だから、外に居る時には髪型を変えて、身だしなみも、口調も全部変えてワルになりきろうとした。

 金でしか物事を計れない親のことを心底軽蔑した。

 でも結局は、その嫌っていた金に頼って、不良共に取り入り身を守ってきたのだ。


「くそぉ、おまえなんかに目を付けられなければ」


「ちげーよバーカ! おまえ、本当に馬鹿な奴だな」


「は?」


 ザコーイが言ったと思った。

 しかしそれはザコーイのもっと後ろから響いた声。

 そして、聞き覚えのある声だった。


 不良達の輪を掻き分けて現れた人物の姿を見て、カイルは絶句してしまった。


 エリック・ソロ。


 いつも一緒にいた同い年の友人。

 本当の仲間だと思っていたエリックが、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら近づいてくると見下ろして言い放った。


「よおカイル、いい恰好してるじゃねえか」

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