第十一話 元最強戦士盗撮される

 エイロットの持つ魔導フォンの画面に映る動画を見てジェイクは眉を顰める。

 同じ動画を見ていたラルフは声にもならない様子だ。

 数人のチンピラを相手に、大立ち回りを繰り広げるジェイクの盗撮動画がそこには映し出されていた。


「これはあなたですよねぇ?」


 厭らしい笑みを浮かべて迫ってくるエイロットに、ジェイクは何食わぬ顔で惚ける。


「馬鹿を言え、俺はもっと足が長い」

「んー、あなただと思うんですがねぇ。特にほら、この特徴的な赤い髪とか」

「赤髪の奴なんて、そこら中に居るだろ」


 蛇の様な目で見据えてくるエイロットであったがジェイクは涼しい顔で返す。

 どうやら鎌をかけて来ているようだが、そう簡単に自白するほどジェイクも馬鹿ではない。

 確かに動画は昨日の乱闘を撮った物であるが、ピンボケと手振れの所為でジェイク本人と断定するにはいささか疑問の余地があった。

 そんな動画でのタレコミで、これがジェイクであると当たりをつけて警察が来た。しかも傷害ではなく、薬物売買でだ。

 これはつまり、誰か悪意のある第三者が自分を陥れようとして警察に密告したのだとジェイクは考えるが、思い当たる節がありすぎて犯人を絞れなかった。


「できれば、署に御同行頂いて事情をお聞きしたいのですがぁ」

「任意か?」

「ええまあ、任意ですが」

「なら断る。俺は関係ないからな、話すことは何もない」


 ラルフが警察に協力しろと言うのだが、それをジェイクは突っぱねた。

 エイロットは鋭い目つきでジェイクを見据えると暫く考えて深く溜息を吐いた。


「まあいいでしょう。あなたが叩きのめしたこのスキンヘッドの男」

「だから俺じゃないって言ってるだろう」

「では、この謎の赤髪戦士が叩きのめした男。実はこいつ、警察が目を付けていた薬の売人でして、内緒ですよ? こいつのことをなにかご存じないかと聞きたかったのですがぁ」

「知らないな。話したこともなければ、見たこともない」


 エイロットは蛇目をさらに細めると、脇に抱えていた警帽を被りなおした。


「わかりました。では、なにか思い出したらご連絡ください。署のHPに連絡先はありますので。ほんの些細なことでも構わないので」


 そういうと、一礼して後輩の警官と共にエイロットは部屋を出て行った。


 しばらく静まり返っていた校長室内であったが、ラルフが大きな溜息を漏らしながらよろよろと席に座る。


「信じられない。まったくもって信じられない。きみはなんてことをしてくれたんだ」

「だから、俺じゃないって言ってるだろ」

「他の誰を誤魔化せても、僕の目は誤魔化せないよジェイク。あれはどう見たってきみだ」


 昔のように、僕と言っていることにラルフは気付いていなかった。


「はぁ……ミランダ、きみも一緒に居たんだね」

「はい……すみませんマッコイ校長」

「なにがあったのか話してくれないか?」


 ジェイクとミランダはお互いの顔を見合うと、仕方がないと、昨日あったことをラルフに説明するのであった。




 既に1時限目が始まる時間であったが、カイルとその仲間二名の不良グループは校舎の屋上に居た。

 三年生のザコーイ達に呼び出されていたのだ。


「おいカイル、約束通りブツは捌けたんだろうな?」

「いや、それがその。昨日はちょっと」

「ああん? 俺が教えてやった場所には行ったんだろうな?」


 ザコーイは俯いているカイルの鶏冠頭を掴むと上を向かせる。

 

「い、行きましたよ」

「じゃあ居ただろ。高値で買ってくれる連中がよ」

「い、居ましたけど。あんな質の悪いブツに値段なんかつかねえって、その場で地面にばら撒かれて」

「てめえ、じゃあ何か? 商品を地面に吸わせたってのか?」


 ザコーイは眉間に青筋を立てると、怒り心頭といった様子。カイルは顔面を殴り飛ばされると倒れた上から更に顔面を踏みつけられた。


「商品をダメにしたら弁償するのはあたりまえだよなぁっ? ああん? てーめらもだよ」


 ザコーイはカイルだけでなく、他の二名にもガンを飛ばして脅しをかけてきた。

 震えあがる一年生達を見て、三年生達はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。


「わ、わかりました。払いますから、そいつらには手を出さないでください」


 そう言うとカイルは立ち上がり、ポケットの中から純金製の腕時計を取り出す。


「現金がないんで、今日はこれで勘弁してください」

「へー、流石金持ちのおぼっちゃんは違うねえ」


 ザコーイはカイルから腕時計を受け取るともう一発。パンチを鳩尾にお見舞いして笑った。


「まあそうやって大人しく言うこと聞いていれば、“仲間”外れにはしねーからよ。はははっ!」


 そう言うと、三年生達は屋上から去って行った。


 カイルは腹を押さえて蹲ったままだった。

 あんな奴らの言うことを聞いている自分が、ただただ悔しくて、みっともなくて、恥ずかしくて顔をあげられなかった。


「だ、大丈夫かカイル?」

「ああ、大丈夫だよ」

「いつもおまえばっかりすまねえ」

「いいんだよ。気にするなよ」


 友人二人はすまなそうに頭を下げると、カイルが立ち上がるのに肩を貸してやる。


 カイルは立ち上がりながら思う。


 いつもすまなそうな顔をしているこいつらも、自分が殴られている時にはなにもしてくれない。

 ただ黙って事が済むのを見ているだけ。余計な事をすれば自分に火の粉が降りかかってくるからだ。


 友達とはなんなのだろうか、仲間とはなんなのだろうか。


 カイルは自問を繰り返すが、答えは決まって一つだった。



 孤独であると……。

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