第十二話 元最強戦士カツアゲされる

「とにかく、今は余計な行動はしないでくれよ」


 ラルフに念を押されてジェイクとミランダは校長室を後にした。

 こってりと絞られたミランダは、落ち込んでいるように見える。ジェイクは慰めの言葉でもかけてやろうかと思うが、少しばかり気になっていることをミランダに尋ねた。


「そういえば昨日の、体育館での隠し撮りはどうなったんだ?」

「あれは、サーバー管理者に削除申請を出したのですぐに削除されました。それでもネット上から完全に消すことはできませんけど」

「今回のもそうすればいいんじゃないか?」

「あれはたぶん密告者がエイロット氏に直接送りつけた物なので無理です」


 言っている意味がよく理解できないジェイクは「そうなのか」と適当に頷く。

 するとミランダが急に立ち止まり、考え込む素振りを見せる。


「それですよローレンスさん」

「どれだよ?」

「動画を直接エイロットさんに送りつけることができるなんて、連絡先の知ってる人物しかいません。その人物を調べれば」

「ホームページとやらに書いてあるって言ってたじゃないか」

「そうでした……」


 ミランダが西地区警察署のホームページを調べると、そこには署員の顔写真付きの経歴が載っていた。

 エイロット・イエーガー。25年前の最終戦争に、16歳の時に志願兵として参加。その時の功績で予備隊に入隊。警察組織へ変わると、凶悪犯罪を取り締まる強行班係に配属となる。署内でもトップクラスの検挙率に、数々の表彰歴があるエリートであり。特に薬物犯罪の検挙歴は群を抜いていた。


「ネットってのはそんな個人情報が載ってるのか? 俺のもあるのか?」

「まあこの人の場合は特別だと思いますけど」


 ジェイクは立ち止まると、ミランダの魔導フォンを覗き込んで考え込む。


「どうしたんですか?」

「このまま指を咥えて見ていても相手の思う壺だ。こちらからも攻撃を仕掛けるぞ」

「マッコイ校長に余計なことはするなって釘を刺されたばかりなのに」

「あいつは昔からああなんだよ。俺のやることなすことにケチをつけやがる」


 なんだかんだでお互いのことをよく理解しているのだなとミランダは思ったが、口にはしなかった。


「ミランダ、あの鶏冠小僧とよくツルんでる奴らを調べろ」

「どうするつもりですか?」

「鶏冠小僧が、薬をどこで手に入れたのかを聞き出す」

「そんな簡単に喋ってくれるでしょうか?」

「吐かねえなら力尽くで口を割らせるまでだ」

「それって体罰じゃないですか」


 ミランダの言葉にジェイクはニヤリと口元に笑みを浮かべて言い放った。


「体罰じゃねえ、教育的指導だよ」




 昼休み。

 ジェイクは昼食を取らずにブラブラと学校の敷地内を見回っていた。

 不良共のたむろする場所なんてのは、大抵、人の目に付かない体育館裏や校舎裏、立ち入り禁止の屋上、或いはトイレと相場は決まっている。

 そう思い体育館裏に行こうとすると、案の定その隣にある用務員室に使われているプレハブ小屋の裏に、数人の生徒達がたむろっていた。

 生徒達はジェイクの姿に一瞬焦り手にしていた煙草を消そうとするが、用務員だと気が付くとそのまま喫煙を続けた。


「なに見てんだよおっさん?」

「いやその、きみ達、未成年の喫煙は駄目だよ。法律で禁止されているし、ここは学校だ」

「ああん? だからなんだってんだよ? 雑用係が偉そうに、センコーにチクるか?」


 何人かの不良が立ち上がりジェイクを取り囲むと、ジェイクはわざと怯えてるふりを見せた。


「おいおい、ビビッて震えちゃってるぜこいつ。朝礼じゃ偉そうに吠えてたけど、一人だとこの様かよ」


 顔に煙草の煙を吹きかけられとジェイクは咳き込んだ。


「ゴホっ、ゴホっ、や、やめなさい」

「ああん? やめて欲しかったらさ、お小遣い頂戴よ。それで参考書でも買うからさ」


 数人に押さえつけられると、ジェイクはポケットから財布を抜き取られる。

 本当ならボコボコにしてやるところだが、ここでそれをしたら計画が台無しになるので我慢した。


「なんだよこいつ、全然金持ってねえじゃん」

「なあザコーイ、ダメだこいつ小銭しか持ってねえよ」


 不良の一人が振り返ると、奥に座っていたリーダーグループと思しき中から、男が一人立ち上がる。


 デカい……。


 ザコーイは、180cm越えのジェイクがそう思うくらいのタッパがあった。


「カードは?」

「薬局のポイントカードだけ。マジで底辺じゃねえかこいつ、かわいそーw」


 ザコーイはゆっくり近づいてくると、ジェイクの鳩尾にパンチを捻じ込んだ。

 流石のジェイクも一瞬息がつまりその場に膝を突いた。


「おっさん、アホみたいな正義感なんか持つもんじゃねえぞ。でないとこうやって、痛い目見るぜっ!」


 続けて蹴りが顔面にめり込む。

 ジェイクはその場に蹲ると、もう余計なことは言わないと不良達に謝罪した。


「すみませんすみません、出過ぎた真似をしました」

「おまえみたいに、大人ってだけで偉いと勘違いしてる奴が多いんだよな。特にセンコーには」

「そうそう、そんでちょっと小突かれたらすぐに土下座して謝るんだからよ。センコーなんてチョロイもんだぜ」


 地面に額を擦りつけながら、ジェイクはブチキレそうになるのをぐっと堪える。

 持ち前の短気をここで発揮するわけにはいかない。

 この借りは後で全力で返してやると、今は怒りを飲み込んだ。

 

「おい、てめーらもう行くぞ」


 ザコーイに言われるとジェイクの財布を塀の向こうに投げ捨てる不良達。その内の一人が、手に持っていた物をジェイクに見せつけた。


「ああそうそう、これは貰っとくわ。今度からここを俺らの溜まり場にするからよ」


 それは、用務員室の鍵であった。

 馬鹿笑いしながら立ち去って行く不良達の後ろ姿を見つめながら、ジェイクはニヤリと口元に笑みを浮かべるのであった。

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