用務員最強伝説ジェイク!!〜30年前に勇者パーティーをクビになり転落人生を歩んできた最強戦士が、問題児だらけの騎士養成学校で用務員となって悪ガキ共を教育的指導してやる!〜

あぼのん

第一話 最強戦士追放される

「パーティーを抜けて欲しいんだ」


 小さな田舎町の宿屋の一室。

 唐突に冒険パーティーから抜けるように告げられたジェイク・ローレンスは、燃えるような赤い頭髪を揺らしながら顔をしかめた。


「あぁん!? そりゃ、どういう意味だラルフ? まさか、クビってんじゃねえだろうな?」

「どう取って貰っても構わない。とにかく、これ以上きみをパーティーに置いておくことは、他のメンバー達に悪影響しか及ぼさないと判断した」


 パーティーのリーダーである勇者ラルフ・マッコイは、大きな溜息を吐くと、ベッドの上に腰掛けている女性に視線をやった。パーティーの回復役を務めるヒーラーのエレオノールである。


 ジェイク、ラルフ、エレオノールの三人は、同郷の幼馴染であった。

 魔王軍との戦いに苦しむ国を救う為、15歳という若さで魔王討伐の旅へと出た。

 それから三年。様々な冒険を経て、ラルフは勇者と呼ばれるまでに成長した。

 ジェイクは勇者ラルフの右腕と称され、勇者パーティー最強の戦士として名を馳せる程の実力になっていた。


 そして魔王配下の魔将軍達を次々と撃破していったラルフとジェイクのコンビは、大陸中にその名を轟かせるまでになっていた。


「俺なしでこの先、てめえ一人で魔王に勝てると思ってるのか?」

「一人じゃない。僕には仲間がいる」

「仲間だあ? この俺以外にこのパーティーのアタッカーが務まる奴がいるってのかよ?」


 ジェイクはラルフに詰め寄ると、宿屋中に響かんばかりの怒声を上げる。


「騎獣王ケモンファルガーのパワーに匹敵できた奴が俺以外にいたかっ?」


 ラルフは答えない。


「呪術死霊メイクローノス。俺以外は、奴の呪いに足が竦んで動くことすらできなかった」


 ラルフは黙ったままジェイクを見据えている。


「怪魔獣キメイラスを前にパーティーが全滅しかけている中、たった一人で立ち向かったのはこの俺様だっ!」


 ラルフは目を瞑り、大きな溜息を吐いた。


「てめえはまだマシなほうだが、他の野郎共は俺の力におんぶに抱っこの雑魚ばかりじゃねえか!」


 ラルフは憐れむような目でジェイクを見つめると、重い口を開いた。


「確かにきみは強い。だが、きみ一人だけでこのパーティーは成り立っているわけではない」


 そう言うとラルフは、ずっと黙って聞いていたエレオノールへと再び視線をやる。


「回復役のエレオノールを始め、支援魔法を操るベルガー、サブアタッカーのキルファ、パーティー全員の盾役を担ってくれているザッカス、戦闘にこそ参加しないがアイテム係のポルムとピルムだって大事なメンバーだ。皆がそれぞれの役割を果たしてくれているからこそ、僕達は魔王軍の強敵達を打ち破ることができたんだ」

「冗談のつもりかラルフ? そいつらと俺の力に、同等の価値があるとでも?」


 眉間に青筋を立て怒りに震えるジェイクは、今にもラルフに殴りかかろうかという勢いで詰め寄る。


「ジェイク……」

「笑わせるなよ……いや、笑えねえなっ! 俺が抜けたら先頭を切るアタッカーは誰が務める? ザッカスか? キルファか? あいつらにこの俺同様の働きができると本気で思ってるのか?」

「もういいジェイク、きみの思い上がりにはうんざりだ」

「よくねえ! 思い上がってるのはてめえだラルフ! 俺抜きでどうやって魔王に勝つのか説明しやがれ!」

「きみの代わりは僕が務める」

「できるかよ。てめえはガキの頃から何も変わらねえ。いつも俺の後ろにコソコソと隠れて、美味しい所だけをかすめ取っていくのは上手かったよな! 勇者なんて呼ばれて天狗になって忘れちまったか!」


 その言葉に怒りを露わにしたのは、これまで黙って聞いていたエレオノールだった。


「ジェイク、なんて酷いことを。兄弟同様に育ったラルフにそんなことを言うなんて」


 今にも泣きだしてしまいそうな面持ちでエレオノールは唇を震わせている。

 そんなエレオノールの肩をラルフがそっと抱き寄せた。

 それを見たジェイクは、呆れた表情をすると再び怒りに震える。


「なるほどな……そういうことかよ。おまえらデキてるのか? それで俺の事が邪魔になったってわけだな。はははっ! こりゃあけっさくだぜ」

「ジェイク、きみという奴は……」


 もう、これ以上はなにを言っても無駄だとラルフは悟った。


「いいぜ、こんな軟弱パーティーこっちから出て行ってやる。後で後悔しても遅いぜ、俺抜きでこの先、魔王に勝つことなんて絶対にできやしねえ! 俺の力が必要だったと思い知る時には、おまえらは魔王の前に這いつくばってるだろうぜ!」


 そう言い放ちパーティーの証である銀のペンダントを床に叩きつけると、ジェイクは部屋を出て行った。

 廊下に出ると、他のメンバー達が不安げな表情で立っていた。

 どうやらラルフとジェイクの口論に聞き耳を立てていたようだ。

 もっとも聞き耳を立てるまでもなく筒抜けだったのだが。

 ジェイクは全員を一瞥すると、口元に笑みを浮かべて言い放った。


「お望み通り出て行ってやるぜ」

「ジェイク、俺達は……」


 気まずそうにするメンバーの一人、盾役のザッカスがなにかを言おうとする。

 それを遮るようにジェイクは半笑いで言った。


「ここから先は、これまでとは比べ物にならねえ強力な魔物がうようよしてる。どう転んでもてめえらだけで、魔王城に辿り着けるわけがねえ」

「俺達だって、伊達にここまで戦い抜いてきたわけじゃない」

「ああそうかよ。俺は俺で別のパーティーにでも入って、てめえらよりも先に魔王を倒してみせるからよ。せいぜいがんばるこったな」


 それ以上は、誰もなにも言い返さなかった。

 ジェイクが出て行くのを止める者は一人もいなかった。



 ジェイクは許せなかった。

 いつだって自分が一番先頭に立ち、傷つきながら戦った。それがアタッカーの役目だからだ。不平不満を口にしたことなど一度もなかった。

 頼りないメンバーであったが仲間だと思っていた。

 自分が強くあれば、他のメンバーが自分を頼りにしてくれるのであれば、どんなに苦しく辛くても戦い抜こうと思っていた。

 そして、その力が自分にはあると、そう信じていた。


 しかし、どれだけ一人気を吐き戦おうが、誰も自分を頼り感謝などしていなかったのだ。

 いや、メンバーの誰がそう思おうが本当はどうでもよかった。


 ラルフとエレオノール。


 幼い頃からずっと苦楽を共にしてきた。血を分けた兄弟のように思ってきた二人に裏切られた。

 そう思うと、自分はこれまでなんの為に戦ってきたのだろうかと虚しくなった。


「思い知らせてやる……この俺の力を、絶対に思い知らせてやる」



 ドヤ街の通りから見上げた夜空には、紅く輝く月が不気味な光を放っていた。

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