最終話 元最強戦士と戦友

 集団生活というものは至極難しいものである。

 見知らぬ顔ぶれの中から気の合う者を見つけて、そこから何人かが集まり固定グループが形成されるのに、だいたい1か月くらい掛かる。

 その約30日間の間に特定のグループに入れないと、そこからはなかなか難しいだろう。

 勿論、その後にも仲良くなる切っ掛けなんてものはいくらでもある。特に戦場ともなれば、昨日仲良くなった奴が、数時間後には死体となって戻って来るなんてのは日常茶飯事で、長く生き残っていると自然と古株は気の合う仲になってしまうものだった。

 勿論それは傭兵仲間の話であって、今回のような命のやりとりなんてものとは無縁の学園生活とは比べられる様なものではなかった。

 ジェイクは、カイルの話を漠然と聞きながらそんなことを考えていた。


「おまえが苛められてるのかと思ったよ」

「馬鹿言うんじゃねえ。そんな奴いたら返り討ちにしてやるよ」

「上級生にカモられてた奴がよく言うぜ」


 ジェイクが馬鹿にしたように笑うのでカイルは少しムッとした表情になるのだが、今回は助けを請う立場なのでグっと堪えた。


「で、その、なんとかって女子生徒。なんで苛められてるんだ?」

「なんて言うか、クラスでも浮いてるっていうか、苛められ始めた理由はわからねえよ。ぶっちゃけ俺もクラスで浮いてるからな」

「なんだ、おまえも助けてほしいのか?」

「からかうんじゃねえよっ! 真剣に相談してんだぞ!」


 カイルが真剣な表情で怒りを露わにした。

 それを見て流石のジェイクも、こいつは本気なんだと思う。


「悪かった、真剣に聞くよ。なんでその女子生徒を助けてほしいんだ?」

「べ、べつに……なんとなく苛めてる奴らが気に入らねえから」


 ジェイクの質問に、カイルはなんだかもじもじしながら歯切れの悪い返答をする。

 これはひょっとするとひょっとするのかと思い、ジェイクはまた意地悪な質問をした。


「惚れてるのか」

「ば、ばか言ってんじゃねえっ! そういうんじゃねえよっ! そういうんじゃ……」


 一瞬にムキになって否定していたカイルであったが、尻すぼみになって俯く。


「俺も同じだったんだよ。エリックやマルクとつるむようになって、同じ様に不満を抱いている仲間ができたと思ってた。でも、なんて言うか、だんだんと違うなって思うようになって。こいつらは本当に俺のダチなのか? って、そう思うようになったら、結局、俺はひとりぼっちで、誰も俺の事なんて理解してくれないって思っちまって」


 カイルの声に次第に力が籠り始める。ジェイクはその言葉に真剣に耳を傾けた。


「でも、こないだの一件で、馬鹿な俺でもそれなりにわかったつもりだ」

「なにがわかった?」


 俯いていたカイルが顔を上げてジェイクの目を真っ直ぐ見据えた。


「俺がどうしょうもねえガキだったってことを。そりゃ今でも、つまらねえ連中とつるむくらいなら一人でいいって思ってるけど。でも、俺は一人で生きてるわけじゃねえってことくらい理解したつもりだ」


 カイルは立ち上がり、ジェイクに頭を下げる。


「だから、あの子にも知ってほしい。誰かと関わるのはめんどいかもしれねえし、うっとうしいかもしれねえ。でも、自分一人だけでいいなんて思ってたら、いつか本当に一人ぼっちになっちまうかもしれないって。お願いだ、あの子を助ける為に力を貸してくれ」


 ジェイクは、ハンマーで思いっきり頭を殴られたような思いだった。


 自分一人だけでいいなんて思ってたら、いつか本当に一人ぼっちになっちまう。


 カイルの言葉が、まるで自分のことを言っているような気がしてならなかったからだ。

 それと同時に、なぜだかすごく可笑しくて、嬉しくて、笑いが込み上げてきた。


「ハハハ、ハハハハハハっ!」

「なんだよ、なにが可笑しいんだよ?」

「いや、いやいやすまない。これはおまえのことを笑ってんじゃなくて、自分自身のことが可笑しくしょうがねえんだ」


 言っている意味がわからなくてカイルは小首を傾げる。

 ジェイクは、変えられたのは自分の方だと思った。

 半ば嵌められた形でこの学園に来て、かつての仲間であったラルフと再会し、カイル達不良少年を通して過去の自分を見直すことができた。

 そこで気付けたこと、そしてまだまだ気付けていないことが沢山あると知った。今のカイルの言葉がそうだった。

 なにより、人は変わることができると、カイルを見ていると素直にそう思えた。

 大人だけが子供達に様々なことを教えられると思っている連中が多いだろう。教師達の中には、生徒達より自分達の方が上の存在なんだと勘違いしている輩も多い。

 でも違う。

 学校という場所は、そこに居る全ての人間がなにかを学べるのだ。

 それは、教員であろうがその他の職員、用務員でも変わりはない。

 かつては子供だった大人達が、社会と言う狭いルールの中で忘れていってしまったことを、目の前にいる純粋な思いをもった生徒達が再び教えてくれる。学校とはそういう場なのかもしれない、素直にそう思えた。


 ジェイクは立ち上がると右手を差し出す。カイルはそれをポカンと見つめていた。


「なにを惚けてんだよ。協力しようってんだろ」

「え? あ、ああ、協力?」

「そうだ、その女子生徒を助けたいんだろ? だったら、おまえも一緒に戦え」

「いやでも、俺は」


 ジェイクは強引にカイルの手を取ると、力強く握手をした。


「つべこべ言ってんじゃねえ。これから苛めグループを相手に戦争をおっぱじめようってんだ。だったら俺とおまえは戦友になるってことだろうが」

「戦……友……お、おうっ!」


 カイルは力強く返事をするとジェイクの手を思いっきり握り返すのであった。




 人生とは長い長い夜道のようなものである。

 先の見えない暗闇の中を一人きりで歩き続けることはとても困難である。

 でも、共にその道を歩んでくれる仲間が居れば、きっとどんなに困難な道のりでも乗り越えることができるであろう。

 人生とは、誰だってそんな仲間に出会うことのできる道なのだ。


 完

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用務員最強伝説ジェイク!!〜30年前に勇者パーティーをクビになり転落人生を歩んできた最強戦士が、問題児だらけの騎士養成学校で用務員となって悪ガキ共を教育的指導してやる!〜 あぼのん @abonon

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