第三十三話 元最強戦士は何を思う
けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めると、ジェイクは気だるげに身体を起こした。
足元に投げつけるように止めた目覚ましをもう一度手に取り時間を確認する。
午前六時。
昨夜も飲みに行っていたのだが、最近はカーミラがうるさいので明け方まで飲み明かすということもなくっていた。
寝ぼけ眼のままテレビを点けて洗面所へと向かう。顔を洗って歯を磨きながら、聞こえてくる音に耳を傾けた。
今日も、例のニュースの話題であった。
1週間前、とある女子生徒が自ら命を絶ったというニュース。
日頃から同級生達による苛めをうけていたという女生徒は、その日、数人の男女に呼び出された。
河川敷まで連れて行かれると、遊びと称して様々な苛めを受けたらしい。自慰行為を強制されて、それを動画に撮影されて生徒達のネットコミュティに拡散されたことが引き金となった。
翌日、女生徒は学校の敷地内で首を吊った姿で見つかった。
当初、学校は苛めは確認できなかったと、自殺との因果関係を否定していたが、日数が進に連れて様々な証言や証拠が飛び出し、今現在は警察も対応せざるを得ない状況となっている。
朝っぱらから、そんな憂鬱になるニュースを横目に見ながらジェイクは思う。
これは、ラルフやミランダにとっても他人事ではない事件であろうと。あの学園ならば、いつ、この事件と同じ轍を踏むことになってもおかしくはないと思った。
そしてそれは、そこに務めている自分も無関係ではないのだろうと。
いつものように7時半くらいには出勤すると、ジェイクは用務員室へと向かう。
日頃行っているのは、学園内の備品の整理や掃除なんかが主な仕事である。
今日は、3日前に不良共が壊した体育倉庫の壁を放課後に、当人達と一緒に補修することになっている。その為の準備を日中に済ませなければならなかった。
生徒達の登校時間が終わると全校集会が行われた。
全生徒を体育館に集めると、校長であるラルフのなが~い話が始まる。
「えー、皆さんが静かになるまでに3分21秒の時間が掛かりました。今日は、とても重要なお話があります。長い話になるかもしれません」
そんな前置きが既に無駄だろうと思いながら、ジェイクは生徒達がまた雑談を始めない様にと、体育教師達と一緒に目を光らせるのであった。
「皆さんも既に御存知だと思いますが、とても悲しい事件がありました。この学校の生徒ではないですが、皆さんと同年代の子の話です」
神妙な面持ちで、例の事件について話し始めるラルフ。
さすがに空気を読んでか、大騒ぎする輩はいないが、生徒達の間からもヒソヒソ話が聞こえた。
「あのような悲しい事件を絶対に起こしてはいけません。この学園だけに限らず、学園から出ても。皆さんの周りにいる友達、兄弟、親、たとえ知らない人であっても、おもいやりの心をもって接するようにしてください。そしてもし、皆さんの周りに苛められている、困っている人がいたら、手を差し伸べてあげてください。皆さんならできると、校長先生は信じています」
どこかで聞いたことのあるようなラルフの話。中にはこの話に感化される生徒もいるだろうが、不良の大半は大人の戯言と鼻で笑うだろうとジェイクは思った。
自分も、目の前にいる子供達と同じ歳の頃はそうだったからだ。
生徒達を教室に戻すと、職員室では先生達が例のニュースの話題を始めている。
ジェイクも体育教師のマックス先生にその話題を振られていた。
「いやぁ、それにしても毎日毎日。耳にするだけでも憂鬱になる事件ですよな。ジェイク先生」
「そうですね。まあ、あんなことが学校外で起きたら、我々にはなにもできませんよ」
「まったくですな。やはりスポーツですよ。あんなくだらないことをする気も起きなくなるくらいに、心身ともに追い込んでやれば、子供達も健全育つってものです。ここは一つ我々で、もっと部活動を推進するべきだと校長先生に進言してみませんか?」
マックスは、ジェイクが不良達に一目置かれていることを知ってから、異様に馴れ馴れしくなってきたので少し鬱陶しく感じていた。
鼻息を荒げながら迫ってくるマックスを適当にあしらうと、ジェイク用務員室へと向かう。その道すがらミランダに呼び止められた。
「ローレンス先生」
「どうしたミランダ」
「あの、これを、良かったらお昼にでも食べてください」
そう言って、ミランダが手渡してきた物は手作りのお弁当であった。
「その、母の分と作りすぎてしまったので」
「そういや、エレオノールの仕事は見つかったのか?」
「はい、二駅先の医院で看護師の募集があったのでそこに」
「そいつはよかった。弁当は有難くいただくとエレオノールには伝えといてくれ」
そう言って去るジェイクの背中を、ミランダがふくれっ面で睨んでいることをジェイクは気が付かないのであった。
用務員室の扉に手をかけると、誰かが中に居るのがわかった。
また不良共が嫌いな教師の悪口を言いに来たのかと思いながらジェイクは中に入って行った。
中で待っていたのはカイルであった。
ジェイクが入って来たのに気が付いている筈だが、カイルは何も言わずにスマホに目を落としている。
しばらく無視をつづけていると、堪えきれずにカイルが口を開いた。
「なんか言えよ」
「お前の方が用があるんじゃないのか?」
「用ってほどのことじゃねえけどよ」
「そうか、じゃあ教室に戻って授業を受けてこい」
そう言って雑務に取り掛かろうとするのだが、カイルが立ち上がりジェイクのすぐ目の前までやってくる。
「苛めに遭ってるんだ。助けてほしい」
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