第二十二話 元最強戦士後悔先に立たず
事件が明るみに出るとマスコミ達は挙って学園へと押し寄せた。
その対応に追われ、学校は一時休校となり、ラルフは記者会見で不祥事を謝罪することとなった。
現場に居た不良グループは、他校の生徒が大半を占めたが、ザコーイをはじめとした数人の生徒が居た為、ラルフはマスコミの格好の餌食となったのだ。
しかし、カイルのことには警察関係者はもちろんの事、マスコミさえも一切言及しなかった。
本当に情報を掴めていないのか、或いはマスコミにさえも緘口令を敷かせるほどの力がカイルの父にはあるのか、それを知る術は当事者以外にはわからないだろう。
定休を含めた一週間の休校が明けると、生徒達は再び学校へと通い始めた。
変わらない日常と言うには、まだ少し周りは浮き足立っているように見える。
事件に関わった者が、ほとんど未成年の学生と言うこともあり、殺人などの凶悪犯罪でもない為、マスコミの過熱報道も一気に冷めていった。
カイルも再び登校するようになっていた。
しかしそこには、カイルの居場所などなかった。
周りから感じるのは、好奇と奇異と嫌悪の視線ばかり、マスコミの口は金の力で塞ぐことはできても、権力とは無縁の、学生達の噂に戸を立てることはできなかった。
「よく、平気な顔で登校して来れたよな……」
どこからともなく聞こえてくる誰かの囁き声。
カイルは、言ったのは誰だと、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けて回った。
ある日、上級生達に呼び出されるとリンチに遭った。
あの日以来、家族の自分を見る目は変わっていた。
父親は、厄介者を見るかのような目で見下し、話しかけてもこない。
母親は、カイルに対して畏怖の念さえ抱いているように感じる。それはまるで理解の及ばない化け物でも見るかのよう。
そうだ、母はずっと同じような目で父を見ていた。
そう思うと、カイルは無性に腹が立ち、自分の事が嫌になった。
「くそ……ちくしょう……」
よろよろと立ち上がると地面に唾を吐く。
すると、視線の先にジェイクの姿があることに気が付いた。
カイルは舌打ちするとジェイクに食って掛かった。
「なに見てやがるんだよっ!」
その言葉にジェイクが呆れ気味に口を開く。
「そうやって誰彼構わず、喧嘩を吹っ掛けて歩いているらしいな」
「ああ? 文句あるかよ?」
「あるさ、俺はこの学園の用務員の他の、治安維持も任されている」
「だったら維持してみろよっ!」
殴りかかるのだが、片手で簡単に受け止められてしまい、カイルは動くこともできなかった。
「マルクとは連絡を取ったのか?」
カイルが不良達に呼び出されたことをジェイクに報せたマルクのことだった。
マルクはカイルの危機を報せる為に、意を決してミランダに相談したのだ。そこからジェイクの連絡先を聞き、報せてきた。
問い掛けにカイルは俯き答えなかった。
あれからすぐにマルクは学園を辞めた。理由は一身上の都合と言うことだった。
マルクの両親とは連絡が取れない。一日中、繁華街をふらついて、酒やギャンブルに溺れる親であるらしことは、本人から聞いていた。
カイルは自分の親と大差ないと、マルクに言ったことがある。
しかし、そこには大きな差があった。
金である。
マルクの家は常に金がなかった。
日雇いの仕事で口に糊する生活。マルクがラルフの学園に入れたのは、本人の努力の賜物であった。
中学からの推薦と、奨学制度を使ってラルフ学園に入学した。
マルクはカイルに、父親の様にはならないと常々語っていた。
しかし、結局はエリックに誘われてカイルと一緒に不良の道を歩んでしまった。
きっと、ずっと後悔していたのだろう。
そんなマルクの気持ちに気づけなかったことを、カイルも悔やんでいた。
自分と同じ境遇にあると思い込んでいた。
仲間だと思っていたのに裏切られた。
そう思い込んでいたのは自分だったと気が付いた時、カイルは恥ずかしくてマルクに連絡を取ろうという気持ちにはなれなかった。
「もういいだろ……離してくれよ」
力なく言うと、ジェイクはゆっくり手を離した。
「カイル、まだ間に合う。マルクの連絡先は知ってるんだろう?」
「間に合わねえよ。もう、ずっと、俺はとっくの昔に手遅れだったんだよ!」
ジェイクが困ったような顔を見せる。それさえも無性に腹立たしかった。
なぜこのおっさんは、会って間もない自分のことにやたらとお節介を焼いてくるのか理解できなかった。
それでも真剣なのは伝わってきた。
そしてこのおっさん、ジェイク・ローレンスはおそらく後悔しているのだろうと、そんな気がした。
「本当の手遅れってのは、俺とあいつみたいな関係を言うんだ。おまえらは出会ってまだ、たった数か月だろ、30年に比べれば一瞬だ。まだやり直せる、連絡するんだ」
「うるせえ、放っておけよ」
「ああ、放っておいてやるから。あとはおまえが決めろ。いいか、電話でもメールでもなんでもいい、直接マルクと話せよ。わかったな」
そう言うと、ジェイクはその場を去ってしまった。
「今時メールでやりとりなんかしねえよ」
そう呟くと、カイルは魔導フォンを取りだして。SNSのアプリを立ち上げるのだった。
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