第三話 元最強戦士面接する
勇者ラルフ・マッコイの凱旋。
魔王を倒した勇者様御一行の凱旋パレードが、城下町で行われたのも、もう二十年以上も昔の話。
人々が魔王の軍勢と魔物達に怯えて暮らしていたことを、今の子供達は知らない。
現代のティーンエイジャー達は、戦争を知らずに育った世代であった。
「ジェイク・ローレンスさんどうぞ」
名前を呼ばれたのでジェイクは椅子から立ち上がると、面接室へ入って行く。3日前にカーミラに紹介された仕事の面接であった。
内容は、王立騎士高等学校の用務員という肩書であるが、治安維持も行う場合があると書いてある。
勤務日数は7日週の内の5日勤務。拘束時間が朝7:30~夕方17:30までと長時間だったが、楽そうな仕事だったのでそこは我慢することにした。
部屋に入ると、中央に丸椅子が一つポツンと置いてあった。
その正面に長机があり、女が一人だけ椅子に腰かけていた。
「どうぞ、かけてください」
座るように促されて、ジェイクは丸椅子に腰かける。
「初めましてジェイク・ローレンスさん。本日面接を務めさせていただくミランダ・ベルティスです」
「ど、どうも」
眼鏡の奥に光るミランダの鋭い眼光に、ジェイクは柄にもなく緊張する。
20代前半から中盤の若い女を前に、なにをビビっているのかと気を引き締める。
「“サマンサ・ビスク”さんの紹介でいらっしゃったと」
「はい。古い友人でして」
「履歴書は拝見させて頂きました。ここ数年は、職を転々とされているようですがなにか事情が?」
「え、ええ。戦時中の古傷が原因で、なかなか定職につけなくて」
「そうですか」
ミランダはジェイクの履歴書(カーミラが偽造した)に無表情のまま目を落としている。
なんだかあまり印象が良くないように感じて、ジェイクはなにか上手い具合に誤魔化せないかと思っていると、ミランダの方から質問をしてきた。
「最終学歴が未記入ですが、この期間はなにを?」
「戦時中ですよ。学校どころではないでしょう」
「でも、まだ15にもなっていない、戦果が激しくなったのは少なくともローレンスさんが18くらいの時でしょう」
おまえはまだ生まれてもいなかっただろう小娘が、そんな大昔のことなんか聞いてどうするんだ、とジェイクは苛立ち始める。
人生で一番最悪な出来事のあった年のことをこの女は聞いているのだ。
あの日を境に、ジェイクはケチがついてばかりの人生を送ってきた。
ラルフに追放されてから、いくつかのパーティーにも参加したが、メンバーと衝突するばかりで、居心地が悪く抜けることを繰り返した。
1年もしない内に、ジェイクの悪評は様々なギルドや冒険者パーティーの間に広まり、かつての栄光も虚しく影をひそめていった。
魔王軍との最終決戦時には、王国軍の傭兵部隊に参加する一般兵として、雑魚モンスターを相手に無双することで、ジェイクの魔王軍との戦いは終結した。
「戦後、清掃会社に就職するまではなにを?」
「傭兵をやっていました」
「なるほど、つまり腕っぷしには自信があると」
「もう何十年も前の話ですけどね」
ミランダは再び履歴書に目を落として、しばし考え込む。
その間、ジェイクは黙って待つしかなかった。
数分間の沈黙の末、ようやく答えが出たのか、ミランダが履歴書を机に置いた。
「まずは1か月間、試用期間という形での採用になりますがよろしいでしょうか」
「え? ああ、つまりOKってことでしょうか?」
「そうです。採用です。明日にでも出勤していただきたいのですが大丈夫ですか?」
「もちろん、今からでも大丈夫なくらいですよ」
意外にあっさり採用されたのでジェイクは内心ガッツポーズを決めるも、平静を装って見せた。
採用にあたっての様々な書類にサインをして面接室を後にすると、ジェイクは折りたたみ式の魔導フォンを取り出してカーミラの店に電話をかけた。
「ああ、そうだ、上手くいった。そうだよ、採用だ。ああ? 明日からだ。わかってるよ」
採用されたことを報告すると、カーミラが色々忠告してくるので、うんざりしながらジェイクは電話を切った。
ふと、視線の先に数人の男。いや、少年達がこちらを見ていた。
なにやらニヤニヤと笑みを浮かべている。
ここの生徒なのだろうが、見るからに不良少年といった出で立ちの奴らが三人。
ジェイクは無視しようと思ったが、少年達の方から声を掛けてきた。
「おい、あんた」
「なんだ? なにか用か?」
「いや別に、見かけないおっさんがパカパカなんか使ってるから気になってよ」
生意気な口調でヘラヘラと笑いながら鶏冠頭の少年が答える。周りに居る少年達も笑いながらジェイクのことを見ていた。
「パカパカってなんだ?」
「はあ? パカパカったらパカパカだろ」
「だからなんだそれは?」
本当にわからない様子のジェイクを見て、少年達は大声で笑った。
「あんたのそれ、何十年前の骨董品だよ」
「これか? これは五年前に買った最新式だ」
「今時そんなの使ってる奴いないって、マジウケル。おっさんなに? 新任教師?」
年上に向かって口の利き方がなっていないガキに、ジェイクは苛立ちを覚えるが、正式採用を前にまたトラブルを起こすわけにはいかないと冷静になる。
「いや、センコーじゃない。用務員だよ、明日から勤務だ。生徒ではないが、一緒に学校生活を送ることになるんだ、よろしくな」
握手をしようと右手を差し出すと、鶏冠頭の生徒はズボンのポケットに突っ込んでいた手を出した。
すると、手に持っていたなにか四角い物をジェイクに向けて操作している。
カシャリ! と小さな音がした。
「なんだパシリかよ。まあ、せいぜい学校生活を楽しみなよおっさん」
そう言うと、少年達は笑いながら行ってしまった。
ジェイクは差し出した手のやり場を失い、呆然としたまま少年達の背中を見つめていた。
「パシリだとぉ? なんなんだ、最近のガキどもは……パカパカ?」
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