契約

「召喚!ドクタニシ!」


 パァーッ


 地面が白い魔法陣によって輝き、その中心に拳大の黒い巻貝が現れる。

 この世界に来て多分二日目。ようやく俺は召喚の方法を見つけたのだ!


 召喚解除の方法は解除の単語だけで良いとわかったのだけど、召喚の方法は召喚の単語に加えて召喚対象の名前が必要だったのだ。


 昨日丸一日、拳大の貝を頭に浮かべながら召喚と言い続けたことにちょっとだけ落胆したのは別の話。



 実は今、昨日の岩陰から俺は少し移動して現在地は洞窟内の岩と岩の隙間に身体を潜めている。

 なんでかと言うと……


「えいっ」


 俺は召喚したドクタニシを軽く蹴飛ばす。

 コロコロと巻貝は目の前のを音を立てながら落っこちていく。


 そして少しの後……


「ガウガウッ」

「キシャアアッ」

「キィーッ」

「シャーッ」

「ブモオオオッ」

「キィーンッ」

「ホアァァーッ!!」


 十人十色、とはなんか違うだろうけどこうして聞いていると魔物それぞれに鳴き声なりあって、ここで生態系が出来ているんだなと感じれる。

 音を聞く限りは世紀末動物園なんだけれども。


 さてここはどこかと言うと洞窟内で見つけた空洞。

 昨日ハンドブックとか召喚術の調査が一段落した後、魔法書の灯りを頼りにビクビクしながら進んでいると何やら開けた場所に出た。


 やけに静かだったがなんか嫌な予感がして一度鑑定を掛けてみたのだ。そしたらな……


 確か……うっ頭が。

 結論から言っちゃえば頭が割れる程の頭痛というのは初めてだった。

 情報量の暴力とでも言おうか。とにかく、この空洞には大量の魔物が居るってことがわかったのだ。

 魔物の位置を知ることが出来るスキル〈探知〉でさっきの〈鑑定〉の二の舞にならないよう時間を掛けながら魔物の位置を確認していってみた。


 すると壺のようになっている空洞に蠱毒の如く無数の魔物が住み、それぞれがそれぞれを襲う隙を狙う。

 そんな恐ろしい空間だが同時に少し高所の安置も見つけて、なんとか少しだけ眠ることが出来た。


 そんな微睡みの中で思いついたのがこの作戦。召喚可能なドクタニシは即効性かつ即死級の毒を常に纏って居るらしい。

 しかも硬質の殻を持っているからそうそう死なない。素手で触れば一発アウト。それを利用して魔物討伐出来んじゃね?ってわけだ。


 その結果は……


「鑑定」


〈ユート〉

Lv3

〈召喚術・女帝〉Lv5

〈鑑定〉Lv4

〈魔力増加〉Lv3

〈探知〉Lv2


 この通りレベルアップが可能なのだ。

 ドクタニシの毒がどれだけ強くても触るなり食ってくれなきゃ意味が無いのだけどそれは単なる杞憂で、落として下の方に着いた途端に皆襲いかかるのだ。

 深海の魚みたいだなと俺は思ったのだけど、実際は共食いみたいなことになってるっぽい。

 まあ触るなり食べてくれれば確実に一体は殺せるから俺は起きてからずっとこの作業をやっている。


 俺の存在はバレないから時間こそ掛かるが確実にレベルを上げられるのだ。

 この世界においてレベルがどれだけ重要かはわからないが上げておいて損は無いだろう。

 現に召喚する時に必要な魔力が感覚的に減ったような気がするのだ。


 イメージはこんな感じ。

 Lv1の時の俺の魔力が10としてドクタニシの召喚に必要なのは5くらい。

 初めて召喚したあの時は興奮でなにも感じなかったがあの後何度か召喚をやってみると結構ごっそり持ってかれる気持ち悪さがあった。

 ただ、不思議と違和感は無いのだ。気持ち悪さはあっても違和感が無い。まるでその感覚を身体が知っているかのように。

 幸い、解除すると使用した魔力は返還されるみたいで魔力切れということは無かった。

 そしてLv3の時は感覚的には20くらい。実際の数値はわからないが、ドクタニシの召喚に必要な魔力が少なくなったような感覚があるから、やはり魔力そのものが増えているのだろう。


 ただ、スキルの〈魔力増加〉の恩恵があるのかがまだわからない。今後の検証に期待するしかないな。

 


 引き続き召喚と解除でドクタニシを呼び戻したり崖から落として下の魔物を倒し続ける。その間に下の魔物を含めて色々調べたいのだけど、何よりも光源が無いから視認が──


 ピコン


 スキル〈夜目〉を獲得しました。



 おっと?あの空間ぶりの音だ。ホロウィンドウが目の前に出て何やら書いてある。スキル〈夜目〉とな。とりあえず鑑定!


〈夜目〉

暗い場所でも視覚が機能するようになる。


 だそうだ。なるほど……夜目発動!


 ほんの一瞬だけ目の前が真っ白になった。

 すると……お、おお!?


 目の前が一気に明るくなった!

 なんと言うか、街灯で照らされた道みたいな感じ。

 この洞窟の中が岩肌の細かな部分までハッキリと見える。それはつまり……


 魔法書を開いて崖の下を覗き込んでみる。

 夜目によって見えるようになった洞窟内は当然ながら下の魔物たちまでよく見える。 


 とりあえず見えるのは……ワシャワシャ動き回る百足みたいなやつや蜘蛛っぽいやつ、デカいコオロギみたいなやつから何あれ、陸生のシャコか?わけわからん。

 でもこれで俺の召喚術が火を吹くぜ。


 いざ、視認契約!


〈レッサースライム〉

Fランク

粘液により形成された半個体生物。水または大気さえあればどこでも生存が可能。知能は低くこのままでは弱い。突進も出来ない魔物の中でも最弱だが、進化により国家すら滅ぼしうる力を持つ個体もいる。


〈レッサースパイドル〉

Fランク

蜘蛛型魔物、スパイドル種のなかでも最弱種。知能が低く、群れたとしても突進と小さな牙による噛みつき攻撃しかして来ない。そのため討伐は容易。スパイドル種の中でも最弱だが、進化により膨大な数の群れを率いる個体になり国家すら滅ぼしうる。また、多岐にわたる進化の可能性を秘めている。


〈レッサーセンチピード〉

Fランク

ムカデ型魔物センチピード種の中でも最弱。知能が低く、群れたとしても噛み付く程度の攻撃しか出来ない。そのため討伐は容易。センチピード種の中でも最弱だが、進化により膨大な群れを率いる個体になり、国家すら滅ぼしうる。また、多岐にわたる進化の可能性を秘めている。



 他にも色々居るけど、ちょっと頭が痛くなってきたからこれくらいで。


 魔力は使ってないっぽいんだけど、なんと言うかずっとパソコンと向き合った時の頭痛というかあんな感じ。一気にスキルを使ったからかもな。

 よし、早速召喚してみよう。ランクもFだからこれで問題ないはず……


「召喚!レッサースパイドル」


 その声に応じて身体から何か引き抜け出るように魔力が消費されると同時に地面に魔法陣が生まれ、そこからせり出るようにタランチュラの倍……いや五倍くらいある蜘蛛が召喚された。


 色は魔法書の灯りで見ると青っぽい黒の甲殻に包まれた蜘蛛でタランチュラの様に毛などは見当たらない。

 目は赤く、威嚇することも無くこちらを静かに見つめている。


 魔力の消費の感覚はドクタニシと変わらないな。

 それにしても、かわいい。普通これだけデカい蜘蛛となると多少は気持ち悪いと思うはずなんだけど。

 別に俺が自然だらけの田舎生まれって訳じゃないからな。

 きっと襲ってこないという保証があるからだろう。如何に見た目が蜘蛛でデカいとしても襲ってこないとわかっているならただの味方と思えるからな。


 ドクタニシは言っちゃえば貝だから何も意志などは示さない。

 だけどこの蜘蛛は俺の召喚物であり、表情のある生き物だ。意思もあるのかな。


「ふむ。よし、そこで一回転」


 すると時計回りで一回転する。となると反対にするなら……


「逆に向けて一回転」


 やはり反時計回りで一回転だ。なるほど、他のも試してみよう。


「解除。召喚、レッサーセンチピード」


 レッサースパイドルが魔法陣に吸い込まれ、今度はレッサーセンチピード、つまり百足が現れる。


 世界最大の百足ってどれくらいだったっけ。どれくらいかは忘れたけど、絶対に1mは無いはずだ。

 黒と赤の甲殻に包まれた1m大の百足は幅が手のひらと同じくらいあり、脚や触覚も金属のような光沢と硬質感で正直気持ち悪さを通り越してどこか機械じみた雰囲気すら感じる。百足は正直苦手な部類だったのだけど、こいつを目の前にしても恐怖とかは一切起きない。むしろカッコ良さすら感じる。これもやはり自分を襲ってこないという保証があるからだろうな。


「その場で一回転」


 同じように指示を出すと今度は反時計回りに回った。なるほど、ということは。


「逆に回れ」


 今度は時計回りに回る。

 なるほどなるほど……これではっきりしたな。この召喚物たちは意思がちゃんとあるんだな。


 使役した瞬間に俺に従順な個体に変化するんじゃない、あくまでも俺と個体との契約になっているんだ。

 だからこの視認契約もランクがEまでしか通用しない。

 それがこの回転でわかった。

 俺は単に「その場で一回転」としか言わなかった。明確な指示は出していないのだ。だけど召喚物たちはそれをちゃんと実行した。各々の意思でね。


 つまり、知能が低いとあっても自我はある。そしておそらくランクの上昇で知能も上がる。

 視認契約が可能なE,Fランクより上のランクになると多少なりとも知能がある魔物になる。


 そうなるとただ一方的な視認契約を拒絶する事が可能になるわけだ。

 だからこそこちらの力を見せるなどして相手を納得させる。そうして契約をする。





「……モグ……よし、いくらかやる事が出来たな」


 三体の契約を終えて、魔力の消費を承知で色々やってみた。


 まずは狩り。この三体で何か生き物を仕留めて、俺の食料にしなければならない。

 簡単に採取出来るのはドクタニシだけど食える訳が無い。なので少しばかり遠征させて何でもいいからとりあえず取ってきて貰ったのだ。


 その結果は……

 コウモリ系魔物一体、ヘビ系魔物一体、ミミズ系魔物が一体。どれも地球に居るのよりはデカい。コウモリだけは30cmくらいだ。


 ほんと、ここが暗くて幸いだよ。

 ぶっちゃけた話、えぐい部分を見ないで済むから。


 落ちてた石をナイフ代わりに皮とか剥いで肉を取り出したけど生なんだもの。

 お腹痛くなるの承知で食ってるからビビりながらだけど。


 ミミズはなんと言うかグミ食感な春雨みたいでまあこの中じゃまだまともだ。ヘビは生の鳥肉みたいで骨多い。コウモリは身がないし不味すぎる!

 はあ、血の味ばっか。仕方ないからスパイスにコウモリの血を……っと鉄の味。

 

 はあ……お腹痛いの苦手なんだけど。



ピコン


 スキル〈悪食〉を獲得しました。

 スキル〈超音波〉を獲得しました。


 お?今日二回目のスキルか。しかも二つ、ラッキー!

 よし、鑑定!


〈悪食〉

毒物などを食べても身体に異常が起きなくなる。

〈超音波〉

聞き取れない物も聞き取れるようになる。


 便利スキルだな。毒で身体壊すことないのか。……つまりお腹痛くすることも無いし、生牡蠣食っても腹壊さないのか。


 それに超音波って可聴域以上のものも聞き取れるみたいだけど……これってもしかしてソナーに使えるんじゃないか?

 あともう一つ。魔物の肉食ってもスキルって手に入るのか……


 悪食もあるし、Lv上げも兼ねて魔物を仕留めても良いかもな。

 よし、慎重にだけどやっていこう。

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