side クラスメイト

 私たちはあの日、謎の存在……ここは神とするけどその存在に殺された。


 そして転移させられた。スキルという恩恵と共に。

 いえ、一度死んだのにここに居るって事は輪廻転生の文字からとって転生というのが正しいかもしれない。


 あの日から色々あったけどそれから今までは総合的に見てかなり幸せだったと思う。


 わけも分からず、何も知らず何も出来ない私を受け入れてくれた村の人たちと出会うことが出来たのだから。


 ちゃんとした理由があったとはいえそんな人たちと離れるのは少し寂しいものもあったけど、これも前に進むためとして考えを変えた。


 そして目の前には彼らがいる。三年ぶりに顔を合わせるクラスメイトたちだ。


 全く環境が違うこの世界で全員ここまで生き抜いているのは奇跡だろう。


 確かスキルを選び終わった後に確率で安全な場所に転移すると言われた記憶がある。きっとそれも影響しているはず。私も現に安全な場所に出ることが出来た。

 ただ何人かは酷い目にあったクラスメイトも居るみたい。ただ正直三年経った今では私の知ったことではない。



 ここに集められた理由はわからない。でも、確実に異常な事なのは確か。



 だってここには26人しか居ないんだもの。






「皆さま、お集まり頂き感謝します。私はユリウス正教最高司祭のフォード・ユリウス15世と申します。早速ですが、ここに皆さまをお集めした理由をお話しましょう。あなた方がこちらへ訪れられた三年前に私たちにも神託が下ったのです」


 その言葉は上座から好々爺を思わせる声音で、孫に優しく言い聞かせるようなそんな不思議な雰囲気を纏いながら語られた。

 その声はやけに豪勢な衣装に錫杖や冠、博物館でしか見た事ないような服を着た老人のものだ。


 歳の程は七十くらいか。彫りが深く口元の白髭で元は厳ついのだろう。でも笑顔を作っているのか本当に好々爺を思わせる。


 そんな老人と私たちがいるのは、大理石と思われる綺麗な石造りの建物は教会というよりも神殿を思わせる場所。

 老人の背後には神を象った彫刻があり、こちらを見下ろしている。

 美しい彫刻が彫られた柱で支えられる天井は宗教画と思われる絵が描かれていた。座る場所は綺麗な石材製のテーブルと革張りの椅子で豪勢なもの。


 少なくとも私が普通に生きていたらどれも見ることのなかった光景ね。

 



 周りにはマントを羽織り鎧を着た騎士が何人もいる。とてもがっしりしていて、ヨーロッパ旅行で見た飾られた鎧みたい。


 すると老人の隣に立っていた、法衣を纏い、豪奢な装飾の冠と合体した豪華な面を被って顔を隠した人が話し始める。

 今まで気が付かなかったけどいつの間にか同じような人がたくさん並んでいた。


「私を含め彼らは教皇様の紹介にあったようにユリウス正教に属する司祭です。この度私めが神託を読み上げさせていただく運びとなりました」


 ユリウス正教って確かこの世界の最大宗教だったはず。それは世情に疎い隔離された村にいた私でも名前は聞いたことがあるほど。

 つまりあの老人が最高司祭、宗教のトップ。顔を隠した人が司祭、その配下なのね。

 

 ところで話にあった神託って、多分私たちのことを指してるよね。

 ここに呼ぶまで随分と準備がいいと思ったの。

 例えば私をここまで送ってくれたあの馬車とか、ここに来た後に通された部屋とか。こっそり建物の中を歩き回った時人数分用意されてるように見えた。

 明らかに新しい物ばかりだったからその神託で私たちの存在を知っていたのね。


「神託を読みあげよ」


 老人が司祭に向けて神託と思われる巻物を渡し、読み上げるよう指示した。


「神託を読み上げさせていただきます。『我が力で二十七の異界の民を送る。強き力を持った者共である。我は力を与えた。汝らは知恵を与えよ。共に世界を守護するのだ』と。これは伝説にある勇者の神託であると解釈しました。それはつまり魔王の誕生を意味します」


 その読み上げられた信託に向かって老人も騎士もいつの間にか増えていた法衣を着た僧っぽい人、シスター、私たちを除く誰もが祈りを捧げていた。


 ところで魔王ってあの魔王だよね。勇者と対になるとか言う。幼なじみのユウトがよくやってたゲームにもいた悪そうな顔のキャラ。あんな感じのが本当にいるの?


「解釈にあったように、勇者と魔王は同時に生まれるのです。硬貨の面のように離れることがありません。現に魔物が各地で活性化しております。おそらく、そう遠くないうちに魔王率いる魔物の群れと戦争になるでしょう」


 厳つい声で老人が言葉を引き継ぐ。これまた豪華な装飾の巻物が渡されてそれっぽい文言を読み上げる。


 魔王が生まれると魔物が活性化するのね。確かに村の人も言ってたわ。魔物が増えたりしてるって。偶然にしては出来すぎね、確かにこれは私たちが伝説で言うところの勇者に当たるのかも。


 それに戦争ね。私達も戦わなきゃいけないのね。そういえばユウトの持ってた漫画にこんな話のものがあったわ。なんだっけ……異世界ものだっけ?私たちとそっくりね。


「神託に従い、我々はあなた方を迎える準備を行いました。しかし我々の元に来たのは僅か三名。ですが神託が間違えるということは神を疑うこと。有り得るはずがありませんから捜索を行ったのです。その結果皆さまを集めるのに三年を必要としました……」


 厳つい顔のくせにわざとらしい疲れきった顔で最高司祭さんが続ける。

 なんか怪しい。あのホログラムに文字だけ出てきた神様とやらだけど、私の降りた場所はこの国から遠く離れた場所。


 他にも同じようにこの国から離れたところに降りた人が何人もいると聞こえてきた。

 となると……この国の人はわざと遠くに配置された私たちをわざわざ集めたってこと?

 うーん、情報が足りないなあ。


 怪しまれない程度に頭をフル回転させて色々と考察を広げる。


「しかしこうして皆さまをお集め出来たのは奇跡と言う他ありません」


 考察の最中気になる言葉が。


 奇跡、ね。全員を揃えていないのに。

 こちらが気づいていないとでも思っているのかしら。


 まるで私たちのために誂えたと思われる職人芸溢れる大理石のテーブルと椅子の中でただ一人分だけ空いている場所。本来、私の───


「すいません、まだ一人この場に来ていません」


 あ、先生だ。人数的にこっちに来ていることはわかってたけど……見た目変わったな〜。まるで上流階級だわ。あんな綺麗なドレスなんか着ちゃって。

 先生には悪いけど、歳も合わさって正直似合っていない。にしても……ここにまだ一人いないことやっぱり気にしてたのかな。教師として。


「一人?名前はわかりますかな?」

「はい、弓張悠人です」

「ユウト殿……申し訳ない、彼は我々でも発見出来ていない」

「そうですか……」


 ああ、先生目に見えて落ち込んでる。そうだよね、三年も掛けてこの世界の最大宗教が捜索して見つかってないんだもの。そりゃあ、死んだって思うよね。


 すると最高司祭さんはその場で跪いた。

 何をする気?謝るの?ユウト見つけてないこと。それとも泣き落としでもする気?


「ユウト殿を発見出来ていない事の謝罪はこの通りでございます。そして我々はあなた方にお願いしなければなりません。どうか、私たちと共にこの世界を救って頂きたい!」


 謝罪は当たった。でも中身はお願いだった。何とも理不尽な。

 この世界に来て三年。確かにこの世界に関して多少は知ることが出来た。

 でも戦ったことがあるのはこの場の26人の中でも十人足らずだと思う。私だって魔法は少し覚えた。でもそれは農作業に役に立つから。いきなり戦えと言われても……


「ね、ねえもしかしてユウカちゃん?」

「うん?……あ、もしかしてユリ?」

「そうだよ、久しぶり!」


 ところで、いきなり隣に座っていた女性に話しかけられてパニックになる事はあっても誰だかわからないって言うのはあまりない気がする。ただ、それが3年ぶりで見た目も結構変わっていたのならばあり得ると思う。


 でも私も人のことは言えない。実はわたしの髪の毛、この世界に来た影響なのか黒髪が金髪に近い茶髪に変色している。それなら確かにすぐにわからなくてもしかたないわね。


 さて、彼女はユリ。私の友人で、結構仲良かったわ。でも私の知っているユリは大人しめで私と同じように大人しめの人達のグループに居た。でも今は……


「随分焼けてるね。それに髪長くした?」


「海の近くだったんだ。そこで漁の手伝いをずっとやってたの。そしたらいきなり教会の人が来て、私を連れてくって。連行じゃなくて招集って言ってたからお世話になってた村の人たちも好意的だったな」


「そうなんだね、私も同じ感じかな。海じゃなくて山の中だったけど」


「だからそんなに白いんだね。いいな〜、海も良かったけど山も羨ましいよ。でもユウカちゃんはすぐにわかったよ。髪の毛とかだいぶ変わってるけど、顔つきは変わってないから」


 健康的に焼けたユリは元々の黒髪と相まって南国に住む快活少女みたいになっていた。

 ボブカットの髪は長いポニーテールに。これでグラウンドで走ってたら陸上の選手にいそうね。


 山の奥で農作業をしていた私は気候的にあまり焼けなかったから色白のままだ。

 髪も手入れはこまめにしても最低限しか切らなかったから腰の上辺りまで真っ直ぐ伸びている。ここまで彼女が変わるならユリの環境が少しだけ羨ましいかも。


「───皆さまにはこれより訓練を受けて頂きます。我々が安全を確保した状態で技術を学んでいただきますのでご安心ください。それでは皆さま、またお会いしましょう」


 どうやら話してる間に向こうも話が進んでたみたい。

 ユリと話してて聞いてなかったし、そもそも聞く気無かったけど。まあクラスメイトの反応を見る感じあいつが原因ね。


 このクラスの中心的存在であり、いわゆるバカ。名前を小嶋シュンヤ。わかりやすいイケメンで正直モテてた。でもその中身はバカよ。頭脳的なものじゃないわ。なんと言うか……


「みんな、聞いただろう?僕達はここに来て三年。最初はみんな帰りたいとか思ったと思う。でも気づいてるはずだ。もう、帰れないって。それにフォードさんも言ってたじゃないか。帰る方法はわからない、でも魔王を倒せば可能性はあるって。それに事実、困ってる人がいるんだ。だとしたら僕は戦う。僕たちのスキルは何のためにあるんだ?人を助けられるんじゃないか?だとしたら人間として助けなきゃいけないと僕は思うんだ。だから、みんな!この世界の人たちのために戦おう!」


 こんな感じね。ガッツポーズをしながら力強く呼びかけている。セリフからしてテンプレもビックリな単純さだけど、こうしてみると扇動みたいね。

 よくもここまで漫画みたいな人が出来上がったと思うわ。

 ユウトの影響で少しは漫画とか読んでたからこれがなんて言うかは知ってるわ。正義バカって奴ね。

 というか、私たちが話してる間あの厳つい老人、帰還に関しても言ってたのね。


 はあ、正直関わるつもりは無いからどれも放っておくわ。私には私にしか出来ないことをやるもの。


 そんなバカな扇動を聞いてかクラスの何人かは世界を救うって言葉に釣られたみたいね。

 確かあれはバカのグループに居た人たちだったかな。服装からして農民ね。憧れでもあるのかしら。

 騒いですごいやる気だけど、ああいうのは早死するってお約束なのよ。


 でも、この世界でいわゆる傭兵的立ち位置の冒険者をやっていたクラスメイトたちは少し距離を置いてる。現実を知ってるからかも。

 かく言う私も農民だけどそれでもこの世界の厳しさはわかってるつもり。私の居た村は魔物によく襲われたから。


 農民でも倒せるような弱い魔物ばかりだったけどあまりにも数が多ければ冒険者たちに依頼した。それでも死ぬことがあったわ。


 魔物を相手にするならどんな相手でも常に死の危険が伴うの。私はそれを村で一番お世話になった人の死で知ったわ。


 あの時は魔物を恨んだ。

 そして自分も。どうしてこんなスキルを選んだのかって。私が選んだのは魔法系ばかり。

 でも魔法なんて村ではほとんど勉強出来なかった。私は魔物との戦いで戦力にすらならなかったの。

 だから教会に呼ばれた時少しだけ期待もあった。私も魔法を学べるんじゃないかって。それは正解みたい。ここなら……


「ユウカちゃん?なんか怖い顔してるよ?それに話も終わってるよ」


 彼女の指摘で我に返る。彼女、どこか怯えた顔をしている。怖がらせてしまったみたい。

 

「ああユリ、ごめんね。ちょっと考え事してたの」


「ねえユウカちゃん。ユウトくん、見つかってないんだね。これから……どうするの?」


「探すよ。もちろん」


「でもさっき死んじゃってるかもって」


 彼女は本心で心配してくれている。でも、ごめんなさい。最初から諦めるわけには行かないの。


「生きてるから安心して」


「そんなの……」


「大丈夫。生きてるから」


 私は言い切った。ユリは困惑してるし、証拠もない。けど確信はある。幼なじみとしての確信が。


「ユリ、友人としてお願いがあるの」


「な、何?」


「私と一緒に強くなって。あの最高司祭の言葉も正義バカにも関わらないで、私たちで強くなるの。ただ強くなるためだけに利用するの」


「………」


「お願い」


 ユリは相変わらず困惑した顔だ。当然よね、そもそも最高司祭を名乗る老人の説明も何もわからなかった。

 話が終わっていることに気づいたのはユリに肩を叩かれてからだ。


 魔王だとか、戦争だとかは今は何も分からない。だから仲間を作らなきゃ。


 私はそれらを含めた計画を解散して部屋に戻る流れの中、大まかな計画を小声で彼女に説明した。

 そして私たちに割り当てられた部屋に到着した時、答えが聞けた。


「ユウカちゃん、いいよ。協力しよう」


「ええ、よろしくね」


「うん。ちゃんと、ユウトくんも見つけなきゃね。一人じゃ難しいし……そうなんでしょ?」


「え、いや……べ、別に?」


「大丈夫だよ、わかってるから」


 すごいニヤニヤしてるわね……耳元で小声で言ってくるからムズムズするけど、それとは別に恥ずかしさがある。


「赤くなってるよ?ふふっ、再会が楽しみだね」


「と、とにかく。強くなって、戦争が始まる前に出来るだけ知識と技術を得てここから離れましょう。目標は半年後ね」


「うん、どこを移動するかはまた考えようか」


「ええ、それじゃあお休み。今日は疲れたわ」


「お休み」


 ユリが眠りについた後、わたしは部屋の窓から月を見た。

 この月を私が見た時、彼も同じものを見ているのだと信じるために。

 そして月下の元で決意する。


 私は強くなる。

 そのためには私だけじゃできない。仲間が必要。

 この世界に来ている友人の中でユリは一番信用出来るもの。仲間になってくれてよかったわ。


 本当ならもう一人欲しいけど……引き込めそうなのは一応居るわね。

 でもまたそれは後。まずは寝るわ。だって今は夜中。あの最高司祭さんの話が始まったのは夕食の後だったんだから。


 用意された布団に潜り込んで、窓から見える星空を見る。地球と違って満点の星空だ。


 何度も見上げたはずなのに、今みる空は別物に見える。ユウトは居なかったけど、生きてるって私はわかってる。

 必ずこの空を、同じ空を見上げてるってわかってる。だから待っててね。


 必ず見つけるよ、ユウト。それが幼なじみの務めだから。だからユウトも頑張ってね。

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