初召喚

 ヘックションッ!!


 あー寒、ここどこ?

 安全な場所って聞いてたんだけど……


「思いっきり洞窟じゃねーかああぁぁーーーーっ!!」


 あぁ……あぁ……あぁ……あぁ……


 真っ暗、肌寒い、なんか湿気ってる、狭い、触るとゴツゴツとした岩肌、音の反響。これが洞窟以外なら知りたいな。

 真っ暗で何も見えず、あの空間と違って身体の自由は効く。でも先の情報以外何もわからない。


 足を動かすとぴちゃぴちゃと音がするから地下水でも出てるのだろうか。腕を伸ばすと水に濡れ、ゴツゴツとしている岩の壁。

 他には……


 ガンッ

 痛えっ!な、なんだ!?頭がな、なんだ!?


「痛ってえ……」


 ……岩?よ、よかったぁ。なんかやべえ物かと思った。

 前に進もうとしてぶつけてズキズキと痛む頭をさすりながらとりあえず落ち着き、再度状況確認。場所は確認するまでもなく洞窟。


 暗くてなんも見えないけど五感は全て正常、今度は声も聞こえるな。

 身体も自由に動かせて拘束されているとかは無し。


 よし、次は現状の打開だ。

 手持ちは……無いよね。分かってたよ。転生だか転移してんだもの。よく分からない空間通されてるんだからポケットの中とかみんな無くなるよねそりゃあ。


 はあ……灯りも無いのか。感覚的に着ているのは変わらず制服だな。ブレザーにワイシャツ、制服ズボンか。すぐにボロくなりそうだけど服と靴があるだけよしとしよう?


 あれ、なんか右腰に違和感。なんだこれ、四角いし、手触りは革。それになんか紙っぽい。この手触りは覚えがある。ハードカバーの本だ。つまりこれはブックホルダー?


 さらに良く触ればズボンのベルトと合体するようになんか本が付いている。

 気づかなかったけどこれ大きさもハードカバーの本位あるな。肌ざわりはなんか安っぽいけど。


 なになに?「神様お手製異世界ハンドブック」だと?いや違うな、これ本とは別の冊子か。本のタイトルは……「初心者用魔法書」とな。なるほどなるほど。わからん。


 何はともあれハンドブックから読もう。異世界の洞窟で襲われたらシャレに……


 目と目が合う〜


「キシャアアアアッ!!」

「イヤアアアアアッ!!」



 思わずダッシュ。

 何あれ何あれ何あれえ!!

 なんなのあのデカい蜘蛛はあ!!Gみたいにやけに黒光りしてるし!

 前脚上げて確実に威嚇のポーズだったよあれ!

 というか物理学どころか進化の法則を全力で無視したあのデカさはなんだよぉ!!ダーウィンさん泣いちゃうよ!


 湿っぽい地面を本を抱えてとりあえず全力ダッシュ。

 にーげるんだよー!!!



 もう全力よ。転ばなかったことを褒めたいねうん。

 火事場のクソ力というかなんと言うか、岩陰で休んだりしながら逃げ回ること数十分、ようやく落ち着ける場所まで来れた。


 マジで死ぬかと思ったよ。足速えんだよなんだあれ。

 というかめっちゃ追ってきたんだけど。粘着質にも程ないか?逃げ回って逃げ回って、ようやく隠れたと思ったらさらに近くをウロウロするし。マジで生きた気しなかった。


 5mはあっただろあのデカさ。俺なんかオヤツですよオヤツ。蜘蛛の足が爪楊枝なら俺は羊羹だよ羊羹。


 まあなんとか落ち着ける岩陰に来れたからな。面白いこともわかったしその検証もやっていこう。

 一旦ハンドブックは置いといて、この魔法書とやら。まさかの光源でした。道理でナチュラルに本のタイトルとか読めて、黒光りする蜘蛛も見えて逃げる時も道がわかったわけだよ。

 途中ハッと気づいた時には蜘蛛の脚にプスリとされそうになったけどな。


 とにかく、この本が光源代わりで洞窟の中を探索が出来るというのがわかったわけだ。次は異世界ハンドブックとやら。

 数ページのパンフレットみたいな薄さだけど大丈夫か?出来れば国家名とかここがどことかの情報が欲しい。


 どれどれ、内容は?


「『この世界はあなた方の地球と違う。幾つかあるが大きな点はまず世界の大きさだ。重力などは地球と変わりないが星の大きさが地球の5倍程ある。故に未探索地域も数多ある。次の違う点だが魔法と呼ばれる法則が存在している。火、水、土、風、聖、闇の六属性で、それを組み合わせ様々な魔法を行使する。それに必要なのは魔力である』……ねぇ」


 魔法か。転生と言ったらお約束だけどこの状況じゃねえ。だって魔法系のスキルとか取ってないし。場所は洞窟だし。

 誰かー!野良の魔法教師居ませんかぁー!ト○イさーん!


「居るわけねえか。続きは?『───先ほど地球とは違うと言ったが、知能を持つ人型生命体についても差がある。特異な力は持たない代わりに最も多い人族。魔法に長けたエルフ、加工に長け熱の耐性があるドワーフなどだ。他にも多くの種族がある。そしてそれに対する天敵もある。それを魔物という』……か」


 魔物も居るのか。というかこれだけでハンドブックの半分超えたぞ。


「よし続きだ『───魔物は魔力を糧として生きる生物であり野生動物などとは全く違う。最弱のFランクから神話級のSSSまで強さは分類されるが、最低のFランクですら増殖すれば国家すら滅ぼす生物であるため各国で常に討伐依頼が出されている。しかし魔物の中には温厚な種や食料として扱える種も存在し、地域によっては共存している。また、召喚士や従魔士と呼ばれる職に就いている者は魔物を使役し討伐を行う』……なるほど、俺は魔物を使役して召喚するのか」


 召喚術と言われても何を召喚するのか分からなかったけど魔物を召喚するのか。

 で、ハンドブックの最後のページはと言うと、貨幣価値とかだった。ミスリル貨幣とかあるけどこれは後回しで良いか。


 さてと。必要な情報はほとんど手に入らなかったところで。今度はこの魔法書だ。ハンドブックの時は忘れていたけど、鑑定スキルというのを取得したんだった。よし、鑑定!


 おお!出来た。色々書いてあるぞ。


〈初心者用魔法書〉

 魔法を初めて学ぶ人に与えられるもの。高名な魔法士もここから始めた。この魔法書を通して魔法を発動するとその情報が自動で記入される。それはあなたの知識だ。


 だとさ。使えない子じゃなくて良かったぜ。

 だけど召喚術を使う俺にとってこれはどうすれば良いんだ?

 そもそも魔法を知らないのに情報が記録されるポ○モン図鑑的魔法書貰ってどうするんだよ。

 そういえばこの鑑定は俺にも使えるのだろうか。それなら召喚術が何かわかるかもしれない。よし、鑑定!


〈ユート〉

Lv1

〈召喚術・女帝〉Lv5

〈鑑定〉Lv4

〈魔力増加〉Lv3

〈探知〉Lv2


 以上である。これだけ!?

 名前から苗字と「う」の部分が消えてユートになってるのは良いとして、HPもMPも無い!?しかもLv1て下手すりゃワンパン……


 でもスキルにはLvの概念あるのか。最大が幾つかわからないけど、召喚術と鑑定は高いんだな。というかこのLvって綺麗に並んだ順番からしてスキルの選択順か?

 だとするなら運が良いのか悪いのか。でも鑑定が一応使い物になりそうだし良かった。


 それに、ちゃんと考えたらそもそも現実世界にHPもMPも無かったじゃないか。それにこの鑑定の目的は召喚術が何かを知ること。よし、〈召喚術・女帝〉を鑑定!


〈召喚術・女帝〉

 召喚術最高位。統率と支配を司る神級魔法。

 スキル保持者は従える魔物を見つめることで配下に加え使役・召喚が可能になる。使役する配下の数とランクの制限はない。

 使役条件は一定時間(魔法書情報記入完了迄)対象を見つめ続ける視認契約の完遂に加え討伐または印による契約を結ぶこと。

 視認契約のみでの使役は魔物におけるEランクまで可能。

 契約方法は自らの血を飲ませるまたは血による契約印が必要となる。



 なるほど……こりゃあ凄まじいぞ。もしかしなくてもチート引き当てたなこりゃ。

 だって少なくともEランクの魔物まではただ見るだけで従えることが出来る。その上のランクに対してもただ見るだけで契約の半分は終わるわけだ。しかも契約する配下の数とランクに制限が無いと来た。これはやばいな。

 んでさらにこの魔法書はいわゆる図鑑になるらしい。魔物に対して鑑定は要らない子かもな。にしても便利極まりない。なんか世の中の召喚士の皆さんに申し訳無いけどしっかりと使わせてもらうぜぇ。


 よーしこうなったら一先ず何でもいいから契約だ!

 追いかけ回されたデカい蜘蛛もいつかは使役したいけど今はなんか適当なやつを……お?


 ふと壁を見ると何やら……黒っぽい巻き貝?みたいなのがカタツムリみたいに動いてる。大きさは拳大。でも動きはゆっくりだな。とりあえず召喚術の視認契約とやらをやってみるとしよう。

 えっとやり方は本を開いて見つめる、のみ。

 1ページ目を開いてジーーー


 すると何やらページの表面に文字が。ほんと本が発光してるから見えてるけどもし無かったら視認契約も何も無いよな。


〈ドクタニシ〉

ランクF

硬質な貝殻に身を包む魔物。動きは遅く、捕獲は非常に容易。だがその身には即効性即死級毒がある。身を守るように貝殻の表面から染み出ている為触る時は専用の手袋が必要である。


 ふむふむ、良かった〜触らなくて。触ってたら死亡だってよ。異世界に来てわずか一時間弱で終わりとか嫌だからな。

 ……魔法書への記入ってのはこれで終わりなのかな。確かに上へ向けて動いていたドクタニシがその場で停止している。特に指示はしてないけど、この停止状態がデフォルトなんだろうな。


「なら……前に進め」


 試しに指示を出してみる。するとドクタニシはさっきと同じゆっくりとした速度だが壁を這って上へと向かい始めた。

 貝のような声が聞こえなさそうなものでもどうやら指示には従うみたいだ。


 次は召喚の解除。魔法書とかには特に無いな……多分師匠みたいな人からこの辺は教わるんじゃないかな。さて、どうしようか。とりあえず……


「召喚解除!」


 お?一発で当たり引けたな。ドクタニシの足元に僅かに発光する白色の魔法陣が現れ、ドクタニシを包む。光が収まるとそこには何もいなかった。

 解除ってこんな感じなのか。解除とかの単語がキーワードなのかも。

 なら召喚もやってみるか。


「召喚!」


 ………あれ?何も来ないな。さっきみたいに魔法陣も出ない。術と言うくらいだから召喚って単語がキーワードなのは間違いないだろう。ならあとはなんだろうな。


 魔法書を見ても召喚出来るのはドクタニシだけ。だったら召喚だけでいいと思うんだけど。

 うーんわからないな。


 ぐぅ〜……


 腹、減ったな……


 暗い洞窟で寂しく腹が鳴るのだった。




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次回更新は12/2 12:00です

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